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被告人エリュシアリア

作者が考えたファンタジー世界でのファンタジーな裁判ですので、深く考えずに物語をお楽しみください。

5月24日修正しました。

 かこーーん!


 静謐な空気の中に木槌を叩く音が響く。


 その日センチュリオン王国司法院大審議場では歴史に残る裁判が行われようとしていた。


 穏やかな午後の昼下がり、平穏な憩いの時間は突然の魔法攻撃によって破られた。

センチュリオン城を襲った閃光は近衛騎士団に壊滅的なダメージを与え、堅固な城壁までも破壊した。

 帝国の攻撃か!? 過激派の反乱か!? 様々な憶測が飛び交う中で、以外にも犯人はすぐに逮捕される。


 なんとそれはこの国の王女であった。


 王女はなぜそのような行為に及んだのか? 今真実の扉が開かれる……



✤✤✤



 一番高い席には髭もじゃの裁判長。両隣には判事がひとりずつ座っている。

 陪審員の席には名だたる貴族のお歴々が顔を揃え、検察側の席にはグレッグ騎士団長を始め騎士団の代表。剣聖ゼファード様やメイラの姿もある。


 そして被告人席に立たされている人物こそ、私、センチュリオン王国第4王女エリュシアリア・ミュウ・センチュリオン……


 ゲーム本編開始の9年前。わずか6歳にしてまさかの断罪イベントです。


 大規模魔法テロの容疑で逮捕された私にかけられた容疑は国家反逆罪。良くて国外追放。基本ば斬首という重罪だ。


 調子に乗って放った『プロミネンス砲』で100人以上の騎士を吹っ飛ばした上に城に大きな被害を出してしまったのだから仕方ない。


 被害だけ見れば建国史上類をみない大規模テロ事件だ。


 しかも実行犯が国民の規範となるべき王族ですからね。


 この王国で王族が裁かれるのは実に200年ぶりらしい。そこかしこから厳しい目が私へと集中する。


 国に刃向かった王女を裁く権利を得た彼らは、私を断頭台に送ろうと内心舌なめずりでもしてるのだろうか? 皆やたら気合が入っているように見える。


 私の腕には鋼鉄製の手枷。背後には棒を持った廷吏が控え、逃げ出そうとすれば王女であろう幼女であろうと容赦なく打ち据えられる。逃げないよ。痛いのやだもん。


 で、私の味方となる弁護人なのだが……


 私に付いた弁護人はハクラ・エルベンという二十歳くらいのひょろんとした青年だった。眼鏡をかけ、薄茶色の癖のある髪に青白い肌。背はそこそこ高いが、常に猫背でどうも頼りない。


 裁判の前に少し話をしたが、目も合わせないし、言葉や挙動も緊張でがちがちだ。一応法務局のエリートらしいけど、こんなもやしで大丈夫なのだろうか?


 まあ無理も無いのかもしれない。大罪を犯した王女の弁護という、誰もやりたくない貧乏くじを押し付けられたのだから。


 人権派弁護士? 無礼打ちが有りの封建制度の社会でそんなのいないよ?


 そんな私の肩に、力強い手が乗せられて顔を上げる。そこにはいつになく優しい表情をしたお父様の顔があった。


「心配するな。全て任せておけ」

「お父様……」

「ほら、皆が見ている。そう不安そうな顔をするな」


 ちらりと背後を見ると、がら空きの傍聴席にうちの家族が勢ぞろいしていた。


 お母様方にお婆様。兄様、姉様……


 ネリスお母様の膝の上で手を振っているウェンデリーナ。ごめんね。お姉ちゃんもう遊んであげられないかもしれない。


 手の空いてる侍女の皆さんも見に来てくれているようだ。ああもうシナリィ……泣くんじゃないよ。


 『プロミネンス砲』を暴発させてから10日。日々行われる尋問と拘留生活で、冷たくやさぐれていた私の心に熱いものが広がっていく。久しぶりに見た家族の姿なのに、涙でにじんでよく見えないじゃないか……


「お前はひとりじゃない。わかったな」

「はい。お父様」


 この場では国王であっても強権は使えない。それでもお父様がいつもより頼もしく見えた。だから私も涙を堪えて前を向く。


「良い子だ」


 それに引き換え……


 私の視線に気づいたのか、ハクラは慌てたようにわざとらしく資料に目を移す。お約束なように資料は逆さまだ。


 大丈夫なのかこの弁護人は? だいぶてんぱってるようだけど?


 貧乏くじで歴史に名を残すことになるのは同情するけどね。


 裁判長は場内を見渡し声を上げる。威厳ある風格に似つかわしいバリトンが審議場に響いた。


「これより先日センチュリオン城で起こった大規模魔法テロ事件についての審問を始める。なお本件では被告人の年齢を鑑み、被告人席に保護者の同席を認めるものとする。アルフォンス三世陛下。よろしいですかな?」


 お父様が頷く。


 この裁判では他にも異例な点がある。

 近衛騎士団の本部内で起こった事件のため、全て近衛騎士団側で捜査が行われた。そのため被害者である騎士団が直接検察側に立っているのだ。


 一般市民なら警備局っていうところが捜査を担当するんだけど、この国で貴族が関わる犯罪だと、王家と近衛騎士が捜査して裁判でも検察の役目を担うのが基本である。警備局の捜査官の多くは平民から雇用された役人だから、王侯貴族を相手に捜査するのが難しいのだ。まあ、貴族を処断するのも王家の仕事だからね。


 とはいえ、王族が起こした犯罪の捜査を、家臣である近衛騎士団が行うというのもどうなんだろう?


 前回王族が裁かれたのが200年前。どうやらその後も王族を裁くための法整備が全く進んでいなかったらしい。


 あえて進めなかったのかもしれないけど。ずっと戦争してたし、それどころではなかったのかもしれない。


「では被告人は宣誓を。本審議において真実のみを述べる事を、剣と筋肉に誓いますか?」


 見据えるような目を私に向けて、裁判長が口を開く。淡々とした口調。その威厳ある姿は、法の番人に相応しい。たぶんこの裁判長は王族だろうが子供だろうが調子を変えることは無いのだろう。しかし、この国は立憲君主制ではない。法の上に王がいる絶対王政を敷く国だ。おそらく裁判長も今のこの国では変わり者の部類に入るのだろう。


「誓います」


 お父様が利き腕をL字に曲げて拳を握るポーズで宣誓をする。


 ナニソレ?


「エリュシアリア姫?」


 ごめん。一瞬呆けてしまっていた。剣はともかく筋肉に誓うって、この国はどこまで筋肉が好きなんだよ。


 仕方ないから私もお父様を真似て宣誓を行う。


「誓いまっする」

「よろしい。では原告は事件のあらましを読み上げてください」

「はい」


 裁判長の言葉に原告席にいたメイラが立ち上がる。以前見たような優し気な表情は無く、突き刺すような視線が痛い。


 時は五の月十の日、十三の刻、四半時。

 センチュリオン城近衛騎士団本部演習場において被告人エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンは戦略級攻撃魔法による破壊活動を行った。それにより騎士、準騎士合わせて158名が行動不能になり、訓練施設及び城壁などが破壊されるという甚大な被害がもたらされた。


 城内施設の被害の内訳は以下の通り。


 近衛騎士団本部庁舎の一部半壊。

 当直宿舎の全壊。

 訓練施設の消滅。

 植え込み20ヶ所、樹木17本焼失。

 城壁一部崩壊。


 人的被害について。


 死者、重傷者0。軽症者は数名(いずれも倒壊する施設から脱出の際に負った間接的なもの)。


 ただし、巻き込まれた者の装備、衣服、装飾品は全て消滅。


「以上が事件のあらましと被害についてです」


 よどみなく被害を読み上げるメイラ。彼女は今近衛騎士団の制服姿だが、その胸には以前のような盛り上がりは見られない。


 そう。あの時私が撃った『プロミネンス砲』はあの場にいた近衛騎士団もろとも周囲を焼き尽くした。死者こそ出なかったが、崩れた建物に巻き込まれる可能性は十分にあっただろう。


 その際、騎士団が身に着けていた服や装備は全て消滅した。鉄や聖布でさえも『プロミネンス砲』の火力の前には何の意味もなさなかった。


 思い出の品も家宝の剣も『プロミネンス砲』の閃光は彼等から奪っていった。


 発射後に残されたのは、大穴の空いた城壁と、抉れた大地。そして素っ裸で倒れ伏す騎士達。


 当然彼女の鋼鉄の偽乳も……


 秘密を晒され(皆知ってた)、ただの鋼鉄の女になったメイラは今その恨みを晴らさんとしているのだろうか? 彼女の強い視線に私の足がすくむ。


「被告人は国の誇りであるセンチュリオン城を破壊しただけでなく、騎士の矜持や大切な品さえも奪い取りました。それをご理解ください」


 メイラは念を入れるかのように陪審員席を見回す。胸が慎ましやかになったとはいえ、彼女の美貌は大きな武器だ。

 陪審員の貴族達は今頃彼女の服の下を想像して鼻の下を伸ばしていることだろう。ちっぱい属性の人も世の中には大勢いるのだ。


 私は確信する。陪審員は堕ちたと。


 おそらく判決は彼女の望み通りとなるだろう。


 メイラは続ける。


「国とそれを護る騎士に対して非道かつ無情な行いは国への反逆以外何ものでもありません!

よって我々近衛騎士団は被告に対し、国家反逆罪の適用が妥当であると考えます」


 容疑は国家反逆罪。わかっていたことだった。だけど裁判の場で直にその言葉が出ると重い。陪審や傍聴席からざわめきが起こり、裁判長が木槌を振るう。


「静粛に! 原告は続けてください」


 メイラの発言はまだ終わっていない。裁判長がその場を鎮め、彼女が続ける。


 しかしそれは予想外の言葉だった。


「はい。ですがご存じの通り、我が国は満12歳以下を児童として保護しその責任を保護者が負うという児童法がございます」


 児童法とは子供を定義する法律である。

 実はセンチュリオン王国は成人を年齢で定めてはいない。帝国からの侵略が続いていたこの国では、必要ならば誰であろうと立場や年齢に関係なく大人にならなければならなかったからだ。

 だけどそんな時代が終わり、振り返ってみれば10歳前後の少年、少女兵なんて当たり前。国は孤児であふれかえり、心無い大人達によって虐げられている。そんな状況だったらしい。

 そこで子供の期間だけは定義して、国をあげて保護しましょうと、40年前にひいお爺様であるアルフォンス一世が制定したのが児童法なのだ。

 

 私は体温が一気に差がるのを感じた。


 私のやったことで、お父様とお母様に責任を負わせることになるなんて!


「ち、違います! 全て私がやったことですから罪は全て私が背負います! だから罰するなら私だけにしてください!」


 かこーーん!!


 思わず叫んだ私だが、木槌の音が響いて言葉は遮られる。


「今は原告が発言中です。被告人は控えるように」


 それでも! 言葉を続けようとした私の口はお父様の手によって塞がれた。

 「任せておけ」口に出さなくてもお父様の瞳がそう言っている。私はそれに従う。


「法に従えば、我々は国王陛下にエリュシアリア殿下の罪を被せることになります」


 法廷は静まり返っていた。王が国家反逆罪に問われるなど前代未聞のことだ。どんな愚王の時代にも起こらなかったことが起ころうとしている。


 陪審員の誰もが顔を強張らせている。まさかこんな変化球で王を断罪することになろうとは!?


 傍聴席のお母様達はただ黙って成り行きを見守り、弁護人のハクラはただただ空気。


 そんな中でメイラが小さく息を吐く。そして次に彼女が顔を上げたとき、その表情は幾分和らいだものになっていた。


「しかし……そもそも我々近衛騎士団は国ではなく王に忠誠を誓っております。国よりも王に寄り添う我々が王を国家反逆罪で糾弾するなど考えられません。よって、我々原告側はエリュシアリア殿下にかけられた容疑を取り下げたいと思います」


 場の空気が一気に抜けた。


 なんだ。そういうオチか……


 最初から私を罰する気などなかったのだと気づき、力が抜けてへたり込みそうになる。


 だが、緊張感が抜けたのが伝わったのだろう。そんな私をお父様は小声で叱る。


「まだ終わってはいない。しっかり立っていなさい」

「お父様?」


 見るとお父様は厳しい目を騎士団側に向けている。まだ本番はこれからだとでも言うように。


「ですが……」


 メイラの言葉に我に返る。

 そう。裁判はまだ終わっていない。


「我々の受けた被害は甚大です。そこで我々近衛騎士団はエリュシアリア殿下にかけられた国家反逆罪の容疑を取り下げ示談とし、慰労金の給付と有給休暇を要求します!」


 なるほど! 話は読めた!


 こいつら私をだしにして、ボーナスと有給休暇を貰おうってつもりだったのか!?


 だけど騎士団に迷惑をかけたのは確かだし、それくらいの要求は当然ではないだろうか?


 お父様。まさか出し渋ろうって言うんじゃ?


 私が言えたことではないが、流石にそれは申し訳ないように思うのだが……


「あと、エリュシアリア殿下の教育と訓練を騎士団で引き受けたいと思います」


 え? それって悪くない話じゃないか。騎士団での訓練は私が望んでいたことでもある。

 けれどお父様の考えは違ったようだ。


「やはりお前を囲おうとしてくるか」


 お父様はそう呟いて横で空気となっていたハクラに目配せする。


 ほんの一瞬、彼が笑みを浮かべた気がした。


 ハクラの雰囲気が一変する。猫背だった背筋を伸ばし、気だるげだった瞳に力が宿る。


 どん! 


 彼は真っすぐ騎士団を睨むと、机をぶん殴った。そして声を上げる。


「異議あり!」


 力ある声が法廷に響き渡る。


 私は驚いて豹変した彼を見る。一瞬目が合うが、ハクラは一瞬顔を強張らせると、目を逸らしてしまった。


 なんでだよ。


「べ、弁護側は国家反逆罪の容疑を取り下げるという原告側の意見に異議を唱えます!」


 はい? どういうこと?


 ハクラの言葉に私は首をかしげた。

読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相続人が心配ですが、この裁判はとても面白いです。 彼女のTUEEが彼女に対して働くのは素晴らしいことです。
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 最初はシリアスの雰囲気てビックリしました。でもそういうオチなら中々面白いだと思いますwww しかし、凄まじい破壊力ですね!?そして装備だけを破壊するとは本当…
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