贅沢な時間
王立医療院に連れ戻された私は医師から簡単に診察を受けていた。
クライブ医師は60過ぎのお爺ちゃん先生で、一応この国の医師会のトップらしい。
でも威厳とか全然なくて、権力よりも居眠りする時間を大切にしているような穏やかな人だ。
「怪我や火傷はなさそうですな。どこか痛んだり苦しかったりは?」
「お腹が……」
「痛むのですか?」
「食べ過ぎて苦しい……」
「おやおや。では胃薬でも出しますかな。とびきり苦いのを」
「いらない」
「ふむ。では二袋程出しておきましょう。他に具合の悪いところはありますかな?」
「胸が」
「それは大変だ! 痛むのですか?」
「良心が」
「はい。結構です。もう帰ってよろしいでしょう。また何かあればお声がけください」
「どうもありがとうございました」
お爺ちゃん先生にお礼を言って診察室を出る。
「面白い先生でしたね」
「ん」
シナリィの言葉に頷く。だけど私は彼のフルネームが気になっていた。
クライブ・アーセナル。『剣の国のエリュシアリア』の攻略キャラのひとり、ヴィクター・アーセナルと同じ家名だ。
父親か、祖父か? どちらにしてもあのヴィクター・アーセナルの縁者であるならば注意が必要だ。
なんせ剣と魔法の世界で、科学を信奉し、自分は宇宙人の子孫だとか言ってるような色物キャラだ。
たしか初登場時のセリフが、"僕の名はヴィクター。この世界は狙われている"だった。
その設定がネタでなく本当だったなら、あのクライブ医師も宇宙人の子孫ということになる。
かかわらん方がいい。
キャトルミューティレーションとかされたらやだし。
その後、今朝いたのと同じ病室に戻った私は、シナリィが持ってきてくれた服に着替える。
これ以上城にいる理由も無いから、これで王宮に帰ることになるだろう。
でもそんなのつまらない。
「ねえ、お城の探検に行っちゃダメ?」
シナリィがジト目になる。
「あわや野垂れ死にかけたのはどなたですか?」
「シナリィも一緒ならいいでしょ?」
「だーめーでーすー。今日はエルドリア様がお迎えにいらっしゃるまで待っているようにと言われております」
「お母様が?」
「ええ。なんでも外出時の護衛を強化するとのことですよ」
「ふーん」
私が王宮の外に出ることなんて滅多にない。でもたまに出かけたりするときは必ず騎士の護衛がつく。
まあ、それがお姫様というものだと思っていたけれど、これ以上となると外出の機会そのものが減りそうだ。ちょっとげんなりする。
「シナリィだけでいいのに」
「そんなわけにいきませんよ」
王宮の侍女は皆剣の嗜みがある。普段は私やオーゼルお兄様とちゃんばらごっこするくらいしかその腕前を見せる機会は無いが、本当は騎士団の入団テストに合格できる程度の腕を持っているのだ。
「お母様はいつ頃くるの?」
「昼頃になるそうですよ」
「まだ時間あるなぁ」
さっき8時の鐘がなったばかりだ。診療時間が始まって、医療院の中も慌ただしくなっている。そんな中私がふらふら出歩いたら邪魔だろう。
「退屈~」
口を尖らせる私にシナリィが苦笑する。
「だったらお昼寝でもしますか? 添い寝して差し上げますよ?」
「それってシナリィが眠たいだけじゃない?」
「ええ、今朝は早かったですから。それにせっかく時間を頂いたのです。だらだらしなきゃ勿体ないじゃないですか」
「それもそうか」
ハンナさんが聞いたらお説教間違いなしだろうが、悪いアイデアではない。私はその提案に乗った。
勉強やお稽古事で私も忙しくなった。こうして日中だらだら過ごすのは久しぶりかもしれない。
時間を無駄遣いするなんてなんという贅沢。
せっかく着替えたところだが、他にすることも無いし仕方がない。
ベッドに腰掛けたシナリィの膝に乗ると、丁度頭の後ろに極上のクッションがあるじゃないですか。そのままころんとベッドに横になるとすぐに瞼が重くなる。
「おやすみなさい。姫様」
「おやすみ、シナリィ」
私とシナリィが寝息をたて始めるまでそう時間はかからなかった。
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