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筋肉食堂

筋肉が苦手な方はお控えください。まっちょまっちょ~。

 金が無いことを恥じるなかれ。

 学が無いことを恥じるなかれ。

 醜いことを恥じるなかれ。

 筋肉が無いことを恥とせよ。

 たとえ友が先に倒れようと、筋肉は最後まで汝と共にある。

 筋肉を信じよ。

 筋肉は裏切らない。


 これ騎士団の訓示らしいんだけど、やっぱりこの国はおかしい。


 士官食堂は肉の花園と化していた。

 大胸筋、上腕筋、広背筋、腹筋、大腿二頭筋、肉肉肉……筋肉のオンパレード。


 何故なの? わかんない。どうしてこうなった?


 切っ掛けは私が目に入った騎士の腕の筋肉を褒めたことに始まる。


「うわ。すごい筋肉。鍛えてるんですねー」


 何気ない半ば社交辞令のつもりだった。

 けれどその一言で、騎士たちの空気が変わった。


「姫様! 我が上腕二頭筋をご覧ください。騎士団随一と自負しております! ふんっ!」


 テイラー3等騎士と名乗ったその若い騎士は、顔はいいのだが首から下はポパイだ。彼は私の胴回りと同じくらいの力こぶを作る。

 だがすかさず他の騎士が絡んでくる。テイラーと同期のハーマン3等騎士だ。

 この国で騎士とは貴族に仕える家臣であり、近衛騎士団は王家が運営する国内最大の騎士団だ。その数は正騎士、準騎士合わせて3000騎。そこには軍隊のように階級があって3等騎士は正騎士の一番下になる。


「自分を差し置いて騎士団一とは聞き捨てなりませんなテイラー殿! 姫様! 自分の上腕二頭筋こそ騎士団一! いえ、国内一でございます! ふむっ!」

「ほほう! ハーマン殿。その細腕で随分な言いようですな! どれ、いっそ試してみますかな?」

「望むところ!」


 喧嘩とかやめてほしいな。


 だがその心配はなかったようだ。彼等は服を脱いで褌一丁になるとテーブルを挟んで向かい合う。

 

 がん! と音を立てて肘を付き、右手を握るテイラーとハーマン。


 これは、腕相撲? いや、腕相撲するのにおまえら何故脱いだ?


「姫様、どうか審判をお願いします」

「わ、私がですか!?」

「ええ、是非とも」

「お願いします。姫様の前で勝利することが出来れば一生の誉れとなりましょう!」


 ああ、もうこれ御前試合なのね。断ることもできず、仕方なく私は審判を引き受けることにした。


「……レディ・ゴー」


 私の気の抜けた掛け声と同時に勝負は開始される。


「ふんっ!」

「ぬんっ!」


 ふたりの力は拮抗しているようだ。数分が経過しても組んだ手は1ミリも動かない。

 光る汗、軋む筋肉、ひび割れるテーブル。


 バリバリバリガッシャン!


 決着がつくより先にテーブルが砕けた。


 まじかーー。


「ふん! やわなテーブルだ」

「うむ。同感である」


 勝負が引き分け。ふたりは哀れなテーブルの残骸を片付ける。


「またか! お前らは!」


 厨房からすっ飛んできた料理長がふたりの頭を麺棒で殴っていった。


 目が点の私。

 周囲の騎士達がゲラゲラ笑う。


 ならばと今度は指相撲を始めたテイラーとハーマン。


 救いを求めて視線を移すと、スタリオン親子を始めとする良識派や女性騎士は早々と食堂の隅に場所を移している。私もそっちに行きたかったが……


「姫様。我が肉体美とくとご覧あれ!」


 しかし筋肉からは逃れられない。


 また次の騎士が現れる。

 そして我も我もと筋肉自慢達が服を脱ぎ始め、私の前で代わる代わるポーズを決める。


「自分はウィル・ボルドー二等騎士であります。姫様、どうです? 我が大胸筋!」


 大柄な騎士が胸板をぴくぴくさせながらポーズをとる。おぬし、私のこめかみがぴくぴくしているのがわかるだろうか?


「ボルドー殿、胸板や腹筋の自慢などもう古いですよ」


 変わって私の前に現れたのは中世的な顔立ちのイケメンだった。締まってはいるが他の騎士に比べれば線が細く普通に見える。


 彼は私に背を向けお尻を強調するようにしなをつくってみせた。


「これからの時代は大臀筋です姫様!」

「    」


 その時鏡を見れば、私の口から魂が抜け出ている様子が見えたと思う。


「お、おい! クラプトン殿! 尻を向けるのは不敬だぞ!」

「ははは! 馬鹿な! 私の美尻をもって不敬となるはずが……」

「ひっこめろ!」


 仲間の騎士によってたかって食堂の奥の扉へ連れていかれる騎士クラプトン。扉が閉まって数秒後にクラプトンの悲鳴が聞こえた。


「申し訳ございません姫様。クラプトン3等騎士はこちらでよう教育しておきます。どうかお許しを」


 その場に傅くボルドーに私はこくこくと頷く。

 私は何も見てない、何も聞いてない……

 見ていないから彼の罪もない。

 お父様にも言わない。とても言えない。言えるかーっ!


「寛大なお心に感謝します」


 筋肉たちが私を取り囲み一斉に礼をする。その時だ。


「あの~? うちの姫様知りませんか~?」


 食堂の扉が開いてどこか場違いな声が聞こえた。シナリィだ。


 ああ、大地母神よ! 私の癒しよ! どうかその柔らかな胸で私を包み込み、固い筋肉の園から連れ出しておくれ!


 騎士達の視線が彼女に集中する。


「失礼しました~」


 褌一丁のまっちょに囲まれた私を見て、フェードアウトするシナリィ。


 まって! 行かないで! 見捨てないでシナリィ!


 救いを求める私の前で無情に扉は閉じられる。


 数分後、ゼファード様に連れられてシナリィは再び現れた。ゼファード様に丁寧にエスコートされて、シナリィの頬がほんのり赤くなっているようだ。いいな~、シナリィいいな~。


「ありがとうございますゼファード副団長」

「いえ、驚かせてしまったようで申し訳ない」


 悪乗りしていた騎士達もきっちり身なりを整えている。普通にしていれば彼らは乙女の憧れ、イケメンエリートの近衛騎士様だ。その姿はりりしく、格好良い。


 煌びやかな騎士達は、まるでお姫様をお迎えするかのように整列してシナリィを迎え入れる。


 お姫様は私なんだけどなぁ……

 

「さあ、姫様。帰りましょう」

「ん」


 私が抱っこをせがむと、シナリィは苦笑いしながら抱きあげてくれた。


 ふにょんと極上のクッションに包まれる。


 あったかくて柔らかい。それにとても良い匂いがする。


 やっぱり筋肉よりおっぱいだよね。

読んで頂きましてありがとうございまっする(`・ω・´)≻


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― 新着の感想 ―
[良い点] このばかげたことは、防衛能力に基づいて構築された軍事国家にとって完全に理解できるものであり、それがこれをとても面白いものにしているのです。 腕相撲、指相撲、特定の筋肉群とふんどし、そして最…
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