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初体験!

 知らない天井だ。 


 気が付くと見知らぬ部屋に寝かされていた。


 いや、どこかで見たような?


 天井までタイル張りの部屋は寒々しく殺風景で、調度品の類も最小限。ベッドにはぱりっと糊の効いた清潔な白いシーツがかけられている。よほど几帳面な人間がベッドメイクをしたのだろう。私が寝ていたにも関わらず、ほとんど型崩れしていない。


 なんか牢屋みたいだけど、窓は普通にガラス張りだし小さなテーブルの上には花瓶が置かれ、綺麗に花が飾られている。


 ベッドから這い出して窓の外を見る。早朝ということもあってか、人影は見えなかったが、ここが城の中であることが確認できた。そういえば、いつの間にか白い寝間着に着替えさせられている。褌はしていない。ノーパンだ。


 あらためて室内見回すと、ここが病室であることが確認できた。おそらく王立医療院の特別病棟だ。


 確かゲームでもちらっと出てきた事がある。精神が不安定な患者が聖炎で火災を起こさないように隔離する為の病室で、加護を得たばかりのエリュシアリアがぶっ倒れる度に運び込まれていた場所だ。


 強大な加護の力を持つエリュシアリアは、序盤危険物扱いだったからね。


 私は寝ぼけ眼のまま状況を認識すると、胸の前で両手をかざす。


 夢の内容はよく覚えている。私は夢の中で(ベルフィーナ)と戦い、女神の加護を得た。


 うーん。なんかゲームの演出と違った気もするけど、とにかく得た。


 まさかの夢オチ? いやいや、それならこの部屋で寝かされているはずがない。


 胸の奥が期待と興奮で熱く震える。そしてそれは形となって現れた。


 掌の上で燃える金色の炎。


 聖炎の顕現だ。


「うわぁ……」


 感嘆の声は自然と出てきた。


 それも仕方ないよね! だって私は今魔法を使っているのだから!


 筋肉の、女神が加護をくれたから、5月10日は魔法記念日。byエリュシアリア。


 因みにエリュシアリアの誕生日は5月1日だよ? 『剣の国のエリュシアリア』の登場人物は皆、誕生日が地球と同じように設定されていて、その日にプレイすると特別なボイスが聞けるのだ!


 私は初めて魔法を体験した今日の感動を忘れないように、ふと浮かんだ一句を心の中に刻み込む。


 私は暫くの間その小さな金色の火の玉を見つめていたが、ふと思い至って火の玉を窓の外に向かって撃ち出した。高速で真っすぐ撃ち出された火球は、金色の残光を残して消えていく。


 凄い! 凄い! かっこいい!


 これは『フレイムショット』といって、聖炎をただ打ち出すだけの魔法だ。


 『フレイムショット』は人に当てても害は無い。精々服を焦がす程度で嫌がらせくらいにしか使えず、むしろ肩こりや腰痛を治してしまう。だけど、小型の魔獣相手なら軽く焼き払えるし、鉄の鎧を鉄鍋に変える威力を持つ。


 窓から空に向かって数十発を連射する。


 超快感!


 発射された『フレイムショット』が朝焼けの中に消えていく。『フレイムショット』の射程は通常50メートルくらいなんだけど、明らかに長い。


 チート威力は設定通りだ。


 正直、私は中身が桜井あんずの偽物だから、チート貰えるか心配だったんだよね。


 ふと遠くを見ると、昨夜夢魔の試練を行った訓練場が見えた。


 まだ日が昇って間もない時間であるにも関わらず、大勢の騎士が既に訓練を始めている……と思ったらどうやら彼らは訓練場の掃除を行っているようだ。


 確かに地面には大きな焼け跡があり、宿舎も黒く煤けている。


 もしかして私の仕業ですか!? ごめんなさいっ!


 私はその場で騎士達に謝った。


 よし! せっかくだし行ってみよう!


 寝ている間に着せてもらった寝間着を燃やさないように、慎重に身体に聖炎を宿す。


 加護の魔法の基本中の基本。身体強化魔法『バーニングマッスル』


 ゲーム中でその名前を見た時は、乙女ゲーの魔法の名前としてそりゃねーだろと、クリエイターのネーミングセンスを疑ったけど今ならわかる。それ以上のネーミングは無い。


 『バーニングマッスル』を一言で現わすなら()()だ。心の炎が血をたぎらせ、身体の底から力が湧いてくる。そんなイメージ。


「んっ!? 熱っ」


 身体が焼かれるようだ。だけど苦痛では無い。


 ふいに身体が軽くなる。


 試しにフィギュアスケートの選手のように回転ジャンプをしてみたが、軽く10回転くらいして、私は天井に頭をぶつけた。


「いたた……」


 だが苦痛はすぐに収まる。聖炎には身体を癒す効果もあるからだ。たんこぶくらい数秒で治ってしまう。


 ドアの外に気配を感じる。たぶん警護の騎士様だ。感覚が強化されるのも『バーニングマッスル』の効果だ。


 見つかるとめんどくさいな……


 私が目を覚ましたと聞けばきっとすぐに王宮から迎えが来る。だけど帰る前にちょっとくらいこの力を堪能したっていいよね?


 コンコン。


 ノックの音がする。私は窓から身を乗り出すと、躊躇なく飛び降りた。


 病室は3階。14,5メートルくらいの高さから、ふわりと軽やかに着地する。


 出来ると思ったからやったけど、本当にできた!


 凄い! 本当に凄い!


 警護の騎士が追ってくる前に私は訓練場に向かって駆け出す。ほんの一歩地面を蹴っただけで数メートルを跳躍し、加速する。


 城の敷地内を私は駆け回る。屋根から屋根に飛び移って、たまに宙返り。


 これが三次元機動の世界か!


 真っすぐ訓練場に向かわずに私は遠回りしてその力を堪能する。


「あはははは!」


 思わず笑いが出るくらい気持ちい。楽しい。


 その時私は完全に聖炎に酔い、呑まれていた。そのために重要な事を忘れていた。


 そしてそのツケを払うことになる。


 あれ? 


 地面に着地した瞬間、くらっと眩暈がしたかと思うとその場にぶっ倒れた。


 気力はみなぎっているのに身体が動かない。


 ああ、そうか……


 私は自身に何が起こったのかすぐに理解した。それはあまりにも基本的な聖炎の注意点。


 『バーニングマッスル』は身体に負担をかけることなくその機能を限界以上まで引き上げてくれる。だけど、実際動いた分のエネルギーまで聖炎が賄っているわけではない。肉体が消費したカロリーはしっかり消費されていくのである。高められた身体能力を発揮すれば当然その消耗も激しくなる。


 聖炎だけで身体は動かない。身体を動かす分の燃料が別途に必要なのだ。


 この小さな身体に蓄えられた体力は決して多くは無い。その上昨日の夕食は、試練に備えて早めに、それも軽いもので済ませたことも祟った。


 調子に乗りすぎた事を反省して、首だけ巡らせて周囲を伺う。人の気配は無いが近くで馬の鳴き声がする。厩舎の近くだろうか?


 私のお腹が盛大に鳴った。


 どうやら私、城で遭難したようです。


 このまま発見されずに餓死!?


 前世で何度も見たBAD ENDの文字が幻覚のように脳裏にちらついて見えた。



✤✤✤



「親方! 空から女の子が降ってきて、ぶっ倒れて、それですっげえ腹の虫鳴らしてる!」

「はぁ? 何言ってんだお前?」


 厩舎で働く少年テイオは、見たことを全てそのまま、厩舎長であるボージャンに説明した。しかし呆れた様子のボージャンに、ごつんと軽い拳骨を落とされる。


「いって~~っ!?」

「忙しいんだ。阿保なこと言ってないで仕事しろ」


 だがテイオは頭を押さえながらも、真剣にボージャンに訴える。


「嘘じゃないって! いいから早く!」

「お、おう?」


 テイオに手を引かれて厩舎の裏手に向かうと、確かにテイオと同じくらいの年の少女が倒れている。


 こいつはいけねぇ!


 厩舎に努める以前、ボージャンは近衛騎士団に身を置いていた。そのため少女が着ているのが王立医療院の寝間着であるとすぐに気が付いた。


「おい! 嬢ちゃん大丈夫か?」


 ボージャンは少女に駆け寄る。見たところ外傷のようなものは見えない。何か病気で入院していたのだろうか?


 だが触れた瞬間その心配はないことに気が付く。


 なんてこった!? この嬢ちゃん、この歳でもう加護を得ているってのか!?


 元騎士であるボージャンはそれがどれだけ異常であるかを知っている。彼も若い頃、ズタボロになるまで扱かれて、ようやく女神の加護を得た記憶があるからだ。


 本来、女神の加護は、こんな年端のいかない少女が持つようなものではない。限界を超えた戦士が、それでも立ち上がり、前に進む為に与えられる力である。


 少女の小さな桜色の唇が力なく開かれる。


「……」


 その声は消え入るようにか細い。だが高鳴る少女の胃が言葉よりも明確に少女の意思を示す。即ち……


 ハラヘッタ!!


 ボージャンは彼女を抱き上げると心配そうにしているテイオを見た。


「あー、テイオ。さっきは殴って悪かったな。急いで医療院にこの事伝えてこい。向こうも探しているはずだ」

「わかった!」


 少女の体調についてはそれ程心配していない。おそらく聖炎の使いすぎによるスタミナ切れだ。何か食べさせればすぐに元気になるだろう。


 だが、テイオを見送るボージャンは内心穏やかとはいかなかった。


 昨夜、訓練場への立ち入り規制が通達されたとき、やんごとなき身分の令嬢が夢魔の試練を受けるのだろうと噂になった。


 予想されるのは第2王女と第3王女の双子姫だ。


 夢魔の試練を受けることが出来るのは身分の高い令嬢と決まっている。それも近衛騎士団の訓練場を使うなど王族以外に考えられない。


 双子姫は現在8歳と、聖炎を得るには早い気もするが、王族ならばありえない歳ではない。


 今朝の訓練場の様子からして、試練は見事果たされたのだろう。


 ちょいとばかし、被害が大きい気がするが……


 だが、もしも試練を受けたのが双子姫ではなく、この嬢ちゃんだとすると……この嬢ちゃん……いや、このお方はまさか!?


 王家がエルドリア妃の御子を隠してるって噂、本当だったのかよ!?


 少女の柔らかな髪が朝陽を浴びて艶やかになびいている。それは第3王妃エルドリアによく似た淡い金色の髪だった。

読んで頂きましてありがとうございます<(_ _)>


作中世界である惑星リデルタは地球と異なる惑星ですが、暦は地球と一緒です。1年は365日で4年に一度閏年があります。

年齢も一部の地域を除いて満年齢を採用しています。ただ、多くの一般人は、今日は何月何日何曜日かなんて気にしていないので、誕生日が明確になっているのは王侯貴族くらいです。

リデルタは地球とは別の宇宙にあるので星の位置は違いますが、月と太陽は翻訳上同じ呼び方をしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はこれらの男性に会うことに興奮しています。 彼らのユニークな経験と知識は非常に役に立ちます。 私も彼女の力に対するこの欠点を楽しんでいます。 無限ではなく、コストがカロリーであるのはいい…
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