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夢魔の試練~弔~

皆さんは2月14日が全世界的に褌の日であることを知っていましたか?

ようやく本気を出したヒロイン(褌幼女)VS悪役令嬢をお届けいたします。


 重っ!? こんなの持てないよぉ!


 エリュシアリアの剣はメインヒロインの武器なだけあって流麗なデザインでかっこいい。太刀っぽいところも中二心をくすぐる。


 だけど想像以上に重い!


 センチュリオン王国の騎士が持つ剣は他国の兵士のそれより遥かに重い。だけどその分威力は絶大で剣の一振りで重歩兵の鎧を軽く破壊する。


 美しいフォルムのエリュシアリアの剣もそれに漏れず重量は5キロを超える。それでもこの国の騎士が扱う武器の中では軽い方だ。


 一般の男性騎士やベルフィーナが持っているロングソードはさらに重い。


 こんな武器を可憐な少女が軽々と扱うのだから、加護の力というのは凄まじい。


 ベルフィーナが構える。ゲームで何度も見た姿はバリバリに決まっていて滅茶苦茶かっこいい。生で見れるのはファンとしては感涙ものだ。


 殺気もバリバリで向けられていなければの話だけど。


 私もエリュシアリアと同じ構えを取りたかったが、剣が重すぎて無理だった。


 仕方なく柄を両手で持ち、震える腕で中段に構える。

 中学では武道が必修だったから、私には相撲と剣道の心得がある。


 剣道は素振りができる程度。

 相撲はまわしが締めれる程度。


 我ながら使えない!


 右手を上に、左手を下に。切っ先は相手の喉元へ向けて……

 昔習った通りに構えようとするが、なんにしても重い。


 構えるだけでふらふらしている私の様子に、流石のベルフィーナの鉄面皮も曇る。


「どうしました? 真面目にやらないと死にますよ?」

「真面目にやってるっての! こっちがド素人だってのはわかってるんでしょうが! 大人気ないとは思わないの?」

「いいえ全く」


 ベルフィーナの剣の腕は最精鋭の近衛騎士団でも通用すると言われている。対してこちらは真剣なんて初めて握るようなズブの素人。試合になんてなるはずがない。だというのにベルフィーナは悪びれることなく頭を振る。


「ド素人だろうがサクライアンズだろうが、あなた様がエリュシアリア様だから……それで十分でしょう?」

「なんで!? 大体なんであんたがここにいるの!? もう意味わかんないよ!?」

「私はあなた様と戦うことができさえすれば満足なのですが、まさか、あなた様は、ご自身が何故ここにいるのか理解していないとでもおっしゃるのですか?」

「……なんのことよ?」

「そうですか。とぼけますか。為すべき責任を全て放り出すと? どこまでもやわなお方ですわね」


 為すべき責任?


 不登校して引き籠ってることだろうか?


 でも、そんなのベルフィーナには関係ないだろう。


 ただ何かが引っかかる。


 そういえば私はどうしてここにいるの?


 ……何故だろう? 思い出すのがとても怖い。


 忘れたままでいたい。ずっとこのままで……


「私はどちらでも構いませんわ。今の私はあちらの私とは別ですもの」

「あちらって何よ? さっきからわけわかんないんだけど?」

「あなた様には関係の無いことですわ。もう消えるのですから」


 地を蹴るベルフィーナ。5メートル程あった間合いは一瞬で0になった。

 私は咄嗟に剣を振るがそれは虚しく空を斬る。

 正面から身体がぶつかる。かなりの勢いだったにも関わらず、私の身体が弾き飛ばされることは無かった。


 え?


 すぐ横にベルフィーナの頭があった。彼女の髪が私の頬をくすぐる。


「ですから……ずっと一緒にいましょう。エリュシアリア様」


 胸に固いものが当たる感触。それは彼女の剣の鍔だ。自分が刺し貫かれていることに気が付いたのは数回の瞬きの後のことだった。


 重い音を立てて私の手から剣が落ちた。


「がっ!」


 私は口から盛大に血を吐き出した。痛い、熱い、苦しい。なのに……


「ね、ねえ……な……んで、私……死んでないの?」


 ベルフィーナの剣は私の心臓のある左胸を貫いている。普通なら即死。

 でも私ははっきりと意識がある。


「あら? 死んだことにさえ気が付かないなんて、あなた様はよっぽど鈍いのですのね」

「あ……んたも、冗談って言えるんだ……」

「冗談ではありませんよ? 私はあちら側には行けませんもの。今の私は泡沫の存在に過ぎません。ですがそれでも望みくらいはございます。あなた様と剣を交え、拳を交え、いつまでも戦っていたい。それが私の願望。それが叶わぬなら、一緒に消えていただこうと思いましたが……往生際が悪いとはこのことですわね」


 ベルフィーナが刺さった剣を引き抜く。

 吹き出した血が彼女を濡らす。ベルフィーナは指先についた血を舐めとり口に含んだ。鉄面皮は崩れ、頬を桜色に染め僅かに笑みを浮かべている。


「なんか……キャラ変わってない?」

「あなた様を想う年月が私を変えたのですわ」


 おいおい。ベルフィーナがこんなヤンデレ百合キャラになるなんて聞いてないぞ?  隠しシナリオか何かがあったんだろうか?


 今更ながらゲームがクリアできなかったのが悔やまれる。そんなシナリオがあったなら絶対見たかった!


「あんたが好きになる人は他にいたと思うんだけど……?」


 冷徹な悪役令嬢ベルフィーナもゲームの中で想いを寄せる人物がいた。そのキャラのシナリオもこいつのせいで見れてないんだけどね!


「そんなこともございましたか。でも今は貴女様しか見えておりませんわ。何年も何年も、またお会いできるその日を、一日千秋の気持ちで私は待っていたのですよ」

「あんた、何言ってるの? 私がゲームに嵌って一ヶ月程……ぐっ」


 まただ。この期に及んで私はまだ忘れようとしている。


 本当の自分と、その責任から逃れようと足掻いている。


「さあ、今楽にして差し上げます」

「ま、待って……」

「嫌ですわ」


 首元を銀の風が凪ぐ。


「あっ……」


 胴と切り離されて、私の首は地面に落ちた。


 流石に死を理解した。これで楽になれる。


 遠のいていく意識の中で私は安堵していた。悲しみや責任から逃れられると安堵していた。


 だけど……


 薄れる視線の先に、取り落とした剣が見えた。エリュシアリアの象徴ともいえる美しい剣。


 あの剣を思い切り振ってみたかったな。エリュシアリアのように。


 それは望めばあり得た未来。


 あれでベルフィーナを思い切りぶっとばしてやりたかった。


 それも望めばあり得た未来。


 自分がそれを認めさえすれば……


 私は茨の道に足が竦み、自分自身が誰であるかを認めようとしなかった。前世の自分であり続けようとしていた。


 ごめんね。せっかく新しい人生を貰ったのに、私があんずでいたかったから、チャンスをふいにしてしまった。


 それでも許されるならもう一度……幸せな未来を……掴みたい。


 私は剣に手を伸ばした。




≪アスラネットワークサービスにログインしました≫


≪守護者エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンのIDを確認。管理権限レベル5が承認されました。人類救済パッケージ・ナノフレアをダウンロードします……完了しました≫


≪惑星防衛機動要塞SFX-0封印解除。メインシステムリンク完了。ジェネレーター起動します≫




 視界が金色に染まった。


 桜井あんずの首と胴体が金色の炎に包まれて燃え上がる。


 炎はやがて私の身体を作り上げる。


 金色の髪、暁の瞳。


 新たに生を受けて、新たな家族のもとで、大切に育てられた今の私の身体。今はまだ小さな可能性の塊。


 エリュシアリア・ミュウ・センチュリオン。今の私の名前。


 気が付くと私は夢魔の試練を受けたときの姿でそこに立っていた。


 力が湧いてくる。これが聖炎か……


 温かく力強い力に包み込まれて、褌一丁で立っているのに全く不安を感じなかった。寒くもないし、裸足で地面を踏みしめても痛くない。


 どうやら私は加護を受けることに成功したらしい。


 もうちょっとであんずの感情に引きずられて失敗するところだったけど……


 ありがとう。桜井あんず。あなたの全てを私が引き継ぐよ。


 せっかく貰ったチャンスだもの。


 この先の人生がどんなに辛くても、後悔がないように生きなくちゃ勿体ない。


 転生しちゃうくらい私はこの世界が大好きなんだから!




「試練の完遂、おめでとうございます」


 私の前にベルフィーナが傅いている。


「ごめんねベル。嫌な役をやらせちゃったね」


 夢魔の試練は終わった。もうすぐ夢から覚める。その時彼女も消えるのだろう。

 でもその前に、彼女の願いを叶えてあげたい。


「この通り、私の身体はまだ小さいけれど、相手をしてもらえるかな?」


 私の提案に彼女は頷いた。嬉しそうに、涙を浮かべて。


「勿論! 勿論ですわ! 不肖このベルフィーナ・ファイ・ガーランド。全力でお相手させていただきます」


 私は自分の剣を拾う。聖炎を手にして身体強化が出来るようになったとはいえ、6歳の今の身体にやはりこの剣は重すぎる。


 私が柄頭をいじると、柄の中に仕込まれていた小さな刃が飛び出した。そして大きすぎる刀身は取り外すと、太刀はダガーに様変わりする。リーチは短いが、今の身体にはこっちの方が使い勝手が良い。私は護身術の授業で習ったように逆手で剣を構えた。


 まあ、元々刃は反対側から出てるんだけどね。


 身体強化の魔法を発動。手の甲に金色の聖刻(タリス)が浮かび輝く。


 私の本気を感じたベルフィーナも銀色に輝く剣を掲げ礼をする。


 ごめんね。私そういった礼儀はまだ習っていないんだ。でも今更それを真似するのも野暮だろう。


 彼女が構える。


 審判はいない。お互いの気が高まり、呼吸のあった瞬間が試合開始の合図だ。


「参ります!」


 先に動いたのはベルフィーナだった。彼女の横凪ぎの斬撃を上体を逸らして躱す。


 小さくてつるぺたボディならではの回避行動。それは流石のベルフィーナも虚を突かれたようだ。私は身を翻して体制を立て直すと彼女の胸にめがけて刃を突き立てようとする。だがそれは横から飛んできた彼女の掌底によって阻まれた。掌底を柄で防ぐが、私の身体は軽く吹っ飛ばされる。地面に叩きつけられる瞬間、受け身をとりバク転をして勢いを殺す。


 ベルフィーナの動きが見える。


 鋭敏な反射神経とそれに追随できる身体。


 あんずとは桁違いだ。これがエリュシアリア!


 だけど力も技もベルフィーナが数段上だ。初撃は彼女が小さい相手に慣れていなかったことからしのぐことができたが、それを何度も許すほど彼女は甘くない。


 ベルフィーナの追撃がくる。彼女が振るう剣を一回、二回とぎりぎりで躱す。切り裂かれる肌の痛みで私の動きは少しずつ悪くなっていく。


「逃げてばかりですか?」

「冗談! そんな重い攻撃まともに受けるわけないでしょ!」


 体重の軽い今の私では彼女の剣を受けることはできない。吹っ飛ばされるか力で叩き潰されるかのどちらかだ。


 逆に小ささと身軽さを生かして懐に入りたいところだが、実力差から正面突破はまず不可能。


 彼女の攻撃を避けながら隙きを狙う私だったが、逆に足を払われて尻餅をついてしまった。

 これだよ! してやられながら私は笑みを浮かべていた。


 純粋に楽しかった。本気で競い合えることが楽しかった。


「これで終わりです」


 急所にめがけて正確に突き出される一撃をなんとか逸らす。小さな刃はそれに耐えきれず折れた。急所は外れたものの、彼女の剣が肩に突き刺さる。


 激痛が走る。それでも一歩踏み出す。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 私の手がついにベルフィーナの胸に触れた。たったそれだけ。けどそれで十分だった。


「お見事です」


 敗北を認め、力を抜くベルフィーナ。


 私は聖炎を開放する。直後金色の巨大な火柱が上がり私達を飲み込んだ。


 聖炎で相手の意識を焼く。強力な加護の力にものを言わせた今の私にできる最大限の攻撃だ。


 本来聖炎は人の身体を傷つけることは無い。だけど私の聖炎ならば、相手の聖炎による防御や身体強化を圧倒的火力で吹き飛ばして意識を焼き切ることも可能なのだ。


「お別れです。エリュシアリア様」


 ドレスは一瞬で焼失し、一糸纏わぬ姿となったベルフィーナが私を抱きしめる。そして私の頬にキスをした。私もそれを受け入れてキスで返す。


「ありがとう。ベル。また会いましょう」

「はい。そちら側の私をどうかよろしくお願いいたします」

「ええ。全力で叩き潰してあげるから!」


 彼女が微笑む。

 そして私達は炎の中に消えた。



✤✤✤



 訓練場に突然火柱が上がる。城の尖塔よりも高く、天まで伸びた聖炎の火柱はやがて消え、何事もなかったかのように夜の静けさを取り戻す。


 だが焼け焦げた訓練場がそれが幻でなかったことを物語っている。


 元凶となった少女は魔法陣があった場所で今なお寝息を立てている。

 悪夢に苦しむ様子はなく、穏やかな寝顔だった。


 まさか試練を達成されたのですか?


 信じられない気持ちでハンナは唖然とそれを見つめる。彼女の心の闇は相当深かったはずだ。

 聖炎を手にしたということは、それに立ち向かう意思を女神が認めた事に他ならない。


 それもこれまで見たこともない程の巨大な加護を与えている。


 やがて聖炎に気が付いたのだろう。騎士達が集まってくる。


 いけない! 姫様の肌を衆目にさらすわけには……


 咄嗟に周囲を見渡すが、畳んで置いてあった彼女の服も、いざというとに備えて用意していた毛布も聖炎によって既に消し炭だ。


 どうしましょう……


 女神も精霊も、答えてはくれなかった。

読んで頂きましてありがとうございます<(_ _)>


設定資料(公式)

エリュシアリアの剣はνガ○ダムのビームサーベルみたいな形。柄も合わせた重さは約5kg。

ベルフィーナの剣は男性用なのでそれより更に重くて役8kg。

因みに日本の侍が持っていた太刀が1.5㎏で、西洋の騎士が持っていた両手剣が2~3㎏程度である。

センチュリオンの騎士は化け物か!?


アスラネットワークサービスについて。

主人公陣営が持つ加護の正体。

ある高度な文明が構築したインフラシステムであり、本来はスプーンから宇宙戦艦まであらゆるインフラを提供するものであるが、惑星リデルタでは文明に合わせてサービス内容が制限されている。

聖炎は外敵に対抗するために必要な要素をまとめたもの。正式名称はナノフレア。


リデルタの住人がアスラネットワークサービスへアクセスした場合の権限はレベル1が一般的であり、ナノフレアによって得られる能力はパワードスーツを装着した機動歩兵に相当する。


エリュシアリアに与えられたレベル5の権限は本来ならば星間戦闘用戦術ユニットの召喚が可能。しかしサービス内容の制限から機動兵器クラスの出力と武装の一部が疑似的に再現されるにとどめられている。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 暴力とロマンスの素晴らしい相互作用。 ベルフィナ様は少し取りつかれているようで、私はそれが好きです。 システムへの目覚めと同様に、剣の重さのリアリズムは素晴らしかった。 ああ、古代文明、あ…
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