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ランド・オバリーの回想 ~希望の守護者~

連載再開します。

 突如空中に現れた馬鹿でかい剣。


 ブレイウッドが手を伸ばした瞬間、光ったと思ったらブレイウッドの姿が消えていた。


「おい!? ブレイウッド!?」

「大丈夫よ。シーリアちゃんは今あの剣の中にいるわ! あれはシーリアちゃんの半身であり、ヘキサ様が生み出した世界の守護神。ヘキサ様が派遣してくれたのね! 私達は救われたわ!」 


 世界は救われた?


 世界の守護神?


 空飛ぶ剣を見上げて、たぶんその時の俺はすげぇ間抜けな顔してたと思う。


「あれは……聖刻(タリス)か?」


 剣の大きく広がった鍔部分に聖刻が描かれているのが見えた。


 聖刻(タリス)は加護を発動する際に浮かび上がる、我らが筋肉の女神の紋章だ。


 以前、セフィリア様は異界から来た神の一柱と言っていた。


 セフィリア様の言葉を信じるなら、異界の神が俺達の世界を護ろうとしているという事になる。


 何故だ?


 我らが筋肉の女神タグマニュエル様は何をしている?


 セフィリア様は話す気なさそうだったし、すっきりするにはやっぱフィンレに行くしかないって事か。


 まあ、無事にこの場を乗り切れたらの話だが……


 ブレイウッド。お前は、本当に世界を救えるのか?


「信じなさい。あの子ならやってくれるわ」


 ほんの少しだけだが希望は生まれた。だけど、やっぱり不安は拭えないのだ。


 なんせ……


「ブレイウッドだしなー」


 あの馬鹿が目覚めてすぐ何をやったか、セフィリア様は知らないだろ?


 まあ、幸いな事に俺はそれからすぐ手のひらを反すことになる。


 俺達救われた。俺はそう確信した。


 剣が白い鎧を纏った巨大な騎士へと姿を変えたのだ。


 俺達を庇うようにそそり立つ、その勇壮な姿はまさに守護神だ。俺は一瞬で心を奪われて、そのでっかい背中を見上げた。


『セフィリア様!! 結界を解除して避難してください!!』


 巨大騎士から響いたのはブレイウッドの声だ。


 まじであいつかよ!?


「馬っ! ここにいたらシーリアちゃんの邪魔になるわ! 退避するわよ!」

「ヒヒーン!」


 俺はセフィリア様を背負うと、その場を離れる為に全速力で駆け出す。


 セフィリア様が結界を解除した瞬間、抑え込まれていた炎が膨れ上がり火柱が上がった。俺は巻き込まれないように必死で走る。


『宇宙の広さを知れ! ファンタジー!』


 宇宙ってなんだよブレイウッド!?


 振り返ると、巨大騎士が炎の精霊王(サラマンドラ)を正面から殴り飛ばしていた。


 型もなにもあったもんじゃない。直情的な喧嘩パンチだ。ああ、あれはブレイウッドだとあらためて納得する。


 だが、そんな下手くそなパンチで、何倍も大きな炎の精霊王(サラマンドラ)が吹っ飛んだ。


「うへぇ! なんてパワーだ!」


 凄まじい地響きと砂煙が上がる。


 おいおい、地形が変わったぞ!? はた迷惑すぎるだろ!?


「おほほほほ! 最高よシーリアちゃん! 炎の精霊王(サラマンドラ)なんてボッコボコにしてカノンを取り返すのよ!」


 すっかりハイになってるセフィリア様を背負って、俺はようやく他の連中が避難している岡の下までたどり着く。


「大尉! シーリアさんは!?」


 戻った途端バネットに捕まった。他の連中もわらわらと集まってくる。


 口でどう説明したものか、まったく思いつかなかった俺は、黙って巨大騎士の方を指差した。


 格闘戦の構えを取る巨大騎士。俺の知らない構えだ。一見様になってるが、俺からしたら素人丸出しだ。あんなの何処で覚えてきた?


「そういえば、シーリアさんの声だったね」

「それにあれはカラテの構え」

「じゃあ、さっきのパンチはシーリアさんの必殺技。竜巻正拳突き!?」


 いや、ただの喧嘩パンチだろ? 


 それにカラテといえば、ヤチヨ皇国の武術じゃないか? 


 王宮で教わったのか? いや、王家の指南役が教えたならもう少しまともな構えをとるはずだ。


 これは予想だが、偶然何処かで演舞を見て、それを真似してるだけだろう。


 ったく……生兵法は怪我の元だってのに。


 お前達は絶対真似するなよ?


 他の兵士達も、巨大騎士がブレイウッドであると理解したらしい。あっけにとられながら炎の精霊王と対峙する巨大騎士を見つめている。


「あなた達! 子供に戦わせて、大の大人が間抜け面晒して何をしているの!? 私達も戦うわよ!」


 激を飛ばしたのはセフィリア様だ。


「いや、しかし……我々に出来る事なんて……」


 小隊長のひとりがおずおずと答える。


 俺も小隊長に同意だ。


 気持ちはとしては、俺達だって一緒に戦いたい。しかし現実問題、神々の戦いに矮小な俺達人間が入り込む余地など無い。はっきり言って足手纏いになるだけだ。


「私たちにも出来る事はあるわ!」


 セフィリア様は袖をまくり上げ、その手を高らかに掲げて叫んだ。


「応援よ!」


 セフィリア様の言う通りだ。俺達にだって出来る事はある。


 応援。


 常に前戦に出ていたものだから、その最も基本的な後方支援忘れていた。


 一丁やってやるか!


 見ると、他の連中もやる気のようだ。


「全員整列!」


 俺の声に、兵士達が綺麗に並び休めの姿勢をとる。


「我らが姫君の健闘を祈ってぇぇぇぇぇ、三、三、七拍子!」


 久々に腹の底から、俺は叫んだ。



 ✤✤✤



 はっきり言って子供の喧嘩レベルの体術でも巨大騎士は強かった。拳で、蹴りで、尻尾(?)で巨大騎士は炎の精霊王を圧倒する。


 ただ、あまりに動きが素人で見ていてじれったい。


 くそっ! 出来る事なら代わりてぇ!


 戻ったらみっちり徒手格闘の訓練だな。剣術についてはいずれ正式な師範がつくまで教えない方針だが、それ以外の武術については特に枷は無い。


 俺達の声が枯れ果てた頃、炎の精霊王に変化が訪れた。


 岩のような禍々しい姿から、以前の美しい火竜に姿が変わったのだ。


「ああ、カノン……あなたなのね」


 よくわからんが、炎の精霊王は完全にカノン様の制御下に入ったらしい。その証拠にブレイウッドの喧嘩拳法が通用しなくなった。カノン様はしっかり武術を嗜んでいらっしゃるからな。まだ6歳であるにも関わらず大したものだ。


「もう、安心ね。あなた達はもう休みなさい」


 もう安心。そう言ったセフィリア様の目には涙が浮かんでいた。


 その涙で俺は察する。カノン様の命が燃え尽きようとしているのだと。


 そりゃそうだ。ギガスクイード戦で短時間顕現させただけでもカノン様の疲弊は相当なものだった。それなのにこれほど長い時間、取り込まれていたとなれば……


「セフィリア様は?」

「私は、最後まで見届けるわ」

「では、自分も付き合います。部下が戦ってるのに、先に寝るわけにはいきませんから」


 俺は兵士達に交代で休息を取るように指示すると、セフィリア様のとなりに座る。


 騎士と火竜の取っ組み合いを眺めながら、朝を迎えた。



 ✤✤✤



 結論を言うとカノン様は死ななかった。


 それどころか、水の精霊王(アクエリアス)の守護を受けてパワーアップしていた。


「もーっ! なんで、水の精霊王(アクエリアス)は私を選ばなかったのよ!? くやしぃぃぃぃぃ!」


 昨日見せた、エルフの女王としての凛々しい姿はどこへやら。子供のように地団駄を踏んで悔しがるセフィリア様の姿に一同呆然である。


 歴史上、二柱の精霊王の守護を受けた者は初らしい。その快挙をわずか6歳に持っていかれて、御年800歳の大先輩として立つ瀬が無いのだろう。


 俺だって、ブレイウッドや若い奴の才能に嫉妬の気持ちが湧かないわけではないからな。気持ちはわかる。


「どうか内緒にしてください」


 身内の見せた醜態に、恥ずかしそうに頭を下げるカノン様。


 即、緘口令出したよ。


 言えねーよ。


 精霊王の守護を受けたセフィリア様やカノン様の機嫌を損ねるなんて真似、怖くてできやしないからな。


 特に、炎と水の精霊王の守護を受けたカノン様はやべぇ。


 帝国を除く多くの国は精霊魔法が生活に根付いている。


 かつてセフィリア様に嫌われた国では、風の精霊魔法が使えなくなった。まあ、風の精霊に嫌われても、精々船の速度が遅くなったり、風車の効率が悪くなったり、ファイヤーボールの威力が雑魚になったりする程度で実害は少ない。だが、火と水となるとそうはいかない。なんせインフラの要だ。


 火の精霊に嫌われれば、精霊灯は使えなくなるし、暖をとるにも大量の燃料が必要になる。ファイヤーボールはそもそも撃てなくなるな。


 水の精霊に嫌われると更に悲惨だ。なんせ浄水装置と浄化装置が止まるから、都市機能が完全に麻痺する。新たに水路を通して下水処理施設の建設……


 街ごと移転する方が早いんじゃないか?


 国が傾くぞ? マジで。


 おわかりいただけただろうか?


 世界の半分は、もはやカノン様に跪くしかないということに。


 当然その中には我がセンチュリオン王国も含まれる。


 俺達は、主に忠誠を誓った騎士ではなく、国の為に働く軍人だからな。カノン様の可愛いお願いなら国王陛下の命令より優先するさ。


 セフィリア様の醜態?


 もう忘れた。なんのことやらだ。


 あと、炎と水の精霊王の守護を受けたカノン様の存在は、世界にとってあまりにも影響が大きい。カノン様の公表は、タイミングを見て自分達でやるから、それまで黙っているようにと、セフィリア様に釘を刺された。


 まったく、ブレイウッドといい、カノン様といい、秘密のお姫様が多くて困る。


 当のふたりはというと、あれ以来、より仲良くなったみたいだ。


 馬車の中でカノン様に勉強を教えるブレイウッド。


 運動面ではカノン様の方が上だが、勉学はブレイウッドの方が出来る。


 語学や計算は、もしかしたら俺より出来るかもしれん。言わないけどな。


「カノン。そこ発音違う。せぶんせぶん、ふぉーてないんだよ。もう一回」

「せぶんせぶんふぉーてないん、せぶんえいとふぁいてしくす、せぶんないんしくすてすりー」

「そうそう! 上手いよカノン!」

「わぁい! 褒められました!」

「七の段はメロディ作るの難しかったんだよね。はい、もう一回」


 ブレイウッドがカノン様にナインナインの歌を教えている。


 ナインナインの歌というのは、最近センチュリオン王国で流行り始めたわらべ歌だ。


 わらべ歌と侮ってはいけない。乗算を歌のリズムで暗記することで、覚えれば驚くほど計算が早くなるという実用性故に、貴族、商人と身分を問わず、あっという間に広まった。他国にも翻訳されて広まってるらしい。


 はっきり言って、王国史に残る大発明だ。


 俺も覚えた。人前で歌うのは恥ずかしいが、計算する時つい口に出るんだよな。


 なんだって? ナインナインの歌はブレイウッドが3歳の時に侍女と一緒に作ったって?


 お前なんなんだよほんと。


 王家の教育怖ぇ……エルドリアの奴、いったいどんな英才教育したんだよ?


 おっと、エルドリア様だ。エルドリア様。


 こうして、その後の旅は順調に続き、やがて俺達はフィンレの地を踏むことになる。


 まさか、眠らされて運ばれるとは思わなかったがな。


 起きたらフィンレにあるエルフの里で、ブレイウッドはヘキサ様に連れて行かれた後だっていうんだから、護衛としては立つ瀬がない。


 結局、剣だけ得意でも駄目だってことを、俺はこの旅で嫌ってくらい思い知らされたのさ


読んで頂きましてありがとうございます。


次回から本編に戻ります。

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