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神から委託を受けた者

ご無沙汰しております<(_ _)>

「この馬鹿娘! ここがフィンレだったから良かったものの、普通の人の国だったらどれほどの被害が出ていたことか! わかってます? わかっています?」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 へキサ様は激おこだった。


 踵落としでダウンした私にのしかかると、足を脇に挟んで逆エビ固め。


 痛い! 苦しい! あと逆エビ固めは死者が出たこともある危険な技だから、素人は絶対真似しちゃいけないよ?


 前世で、よく兄とプロレスごっこをしていたから、私はこういった技に少しばかり詳しいのだ。


「さて、守護者様? どうしてこうなったか弁解があるなら言ってみてください」

「だってだって! おちんちんが! おちんちんがいっぱい! いっぱいのおちんちんがぷらんぷらんって!」

「はあ?」

「おちんちんなの! おちんちんがいっぱいだったの!」

「ふ・ざ・け・る・なーーっ!!」


 逆エビ固めを解くかれたと思ったら、ころりと転がされる。ヘキサ様は細い脚で私の首を絡めとるように締め付けると、頭を股に挟み込んだ。三角締めだ。


 前世では兄をこれで失神させてしまった事がある。当人は笑って許してくれたけど、両親からは滅茶苦茶怒られた。


「おちんちんの群れくらいでビビるんじゃないです! あなたは今や世界中のおちんちんの守護者なんです! ミノタウロスのおちんちんの10本や20本くらい、鼻で笑って迎え撃って見せやがれです!」

「やだやだ!! おちんちんやだぁぁぁぁぁ!!」

「まだ反省が足りないようですね?」

「うにゃあ!?」


 続いて袈裟固め。腋でがっちりと頭をホールドされて私は悲鳴を上げた。締めつけられる苦しみの他に、別の痛みが側頭部を襲う。


「痛い、痛い! ギブギブ! あばらが! あばらが刺さる!」

「何かいいましたか?」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!! 鋼の洗濯板がぁ!!」

「殺!!」


 更に力を入れてくるヘキサ様。頭蓋骨がミシミシと悲鳴を上げるのが伝わってくる。


 まじで死ぬ!?


 ちょっと護衛!! 私の護衛は何をしている!?


 声が出せなかったので、視線でオバリー大尉とリオン君に助けを求める。


「あの、オバリー大尉。助けなくていいんですか?」

「ああ? どう考えてもブレイウッドが悪いだろう? 他国の領土の一部を消し飛ばしちまった落とし前をどうつけるかなんて、俺には見当もつかん。王族が自らの不始末の責任を身体はって果たしてるんだから、邪魔するわけにはいかないさ」

「しかし、そういうわけにも……」

「あんなじゃれ合いいつものことじゃないか」

「まあ、確かにそうですけど……」


 役にたたねーー!! 


 ヘキサ様はカノンやレノア達と違って固いんだよ! あと力加減にも容赦がない。壊れたら治せばいいくらいに思ってるんだよ!


「さあ、守護者様。もう一度聞きます。なにか弁解の言葉はありますか?」


 ヘキサ様の力がわずかに緩む。私は肺いっぱいに空気を吸い込んで叫んだ。


「ドスケベ衣装の変態まな板アンドロイド!!」

「はい死刑」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 カンカンカンカン!


 えりゅたんノックダウン!


「きゅう……」


 大丈夫。私生きてるよ。


 ぐったりと動かなくなった私を開放するヘキサ様。


「まあ、このくらいで許してあげましょう。幸い人的被害は無かったことですし。それに守護者様には、カノンを助けてもらった借りもあります」

「あう……どうも……すみませんでした」

「まったく。とにかく、今はまだSFX-0との接続には制限が必要ですね。精神面が未熟すぎます」


 返す言葉もない。流れて来たエネルギーにびびって『プロミネンス砲』を暴発させてしまった時から、私は何も成長していないのだから。


 ヘキサ様の言う通り、もしここがフィンレで無かったら大変な被害を出していた。


「ふう……どうやら穏便に話が付いたようでなによりだ。まったく、どうしてこう次から次へと厄介ごとが起こるんだよ」


 外交問題に発展しなかったことに胸をなでおろしているオバリー大尉。


 いや、全く穏便じゃねーからな!?


 お前ら護衛なんだから、お賃金分の仕事しろ!


「それにしても、なんなんですかね。あの子」

「わからんが……すげえ格好だな。おいグランス。あんまり見るな」

「は、はい!」


 素直に目を背けるリオン君。確かにハイレグレオタードの美少女は少年には目に毒だ。


 あと、おっさんが見るのはなお悪い!


「服装についてはあなた方に言われたくないですね」


 しっかり聞こえていたヘキサ様に睨まれて、褌一丁の男共はばつが悪そうに愛想笑いを浮かべた。


 ……激しく同意である。


「さて、自己紹介が遅れました。私はフィンレの管理者。ヘキサと申します」


 背筋を伸ばしたヘキサ様が、インターフェイスアンドロイドらしい綺麗なお辞儀を見せると、オバリー大尉とリオン君がその場に片膝を付いて礼をする。まるで王族に対するような仰々しい態度だが、実際他国の人間からしてみれば、ヘキサ様はフィンレを治める女王である。相応の礼儀を払うのは当然だ。


「頭を上げてください。フィンレには平民や貴族といった身分制度はありません。私はこの地を治める役割を負ってはいますが、別に王というわけではありません。最低限のモラルとマナーを守って接して頂ければそれで構いませんよ?」


 その最低限のモラルとマナーの中に、ドレスコードは含まれないんですかねー?


「はっ! 寛大なお心遣い痛み入ります。自分はセンチュリオン王国軍大尉ランド・オバリーと申します。どうか儀式の日まで、部下3名と共にエリュシアリア王女の護衛としてこの地での滞在をお許し頂きたく思います」

「はい? 儀式ですか?」

「ええ、確か天空の剣を授けて頂けるというお話でしたが……?」

「それならもう終わっていますよ?」

「え? 終わった……のですか?」

「はい。天空の剣、SFX-0イクスショアラは守護者様に正式に譲渡されました。あなた達も見ていたでしょう? 暴走した精霊王と戦ったあれですよ」


 ぽかんとしているオバリー大尉。まあ、それも仕方ない。


 私がフィンレに来たのは、地上に守護者生まれしとき、フィンレにてあらゆる外敵を打ち払う天空の剣を授け賜う。という盟約に従って、天空の剣を受け取りに来たからだ。


 わたしも聖剣かなんかを想像していて、まさかスーパーロボット貰えるとは思わなかったんだけどさ。


 盟約が結ばれたのはセンチュリオン王国が建国された1000年前。それだの時を経て、ついに盟約が果たされるわけだから、誰もが盛大な授与式が行われるのではないかと予想していた。


 生産力の低いこの世界は何をするにも時間がかかる。衣装を仕立てるのも、会場を設営するにも、手間と時間がとにかくかかるのだ。


 オバリー大尉もまさか全部終わっていたとは思わなかったのだろう。


「あの、授与式などは?」

「しませんよ? めんどくさいでしょう?」

「セフィリア様と話し合って、半年ほど滞在する日程を組んでいたのですが……」

「はて? セフィリアには、長くても1週間程で終わると言っておいたんですけどね?」


 移動時間含めて一ヵ月もかからなかったね。


 イクスショアラのマニュアルのインストールは一晩で終了。あとの4日は、宇宙へ行ったり、シミュレーションでの訓練だった。


 半年という余裕を待った滞在期間は「私もシーリアちゃんと遊びたいし~」と言いうセフィリア様の我儘と、冬場の移動を避けたいという、至極まっとうな理由とが合わさって決められた。


 アイアンライン近辺は温暖で冬でも雪は降らず、他の土地よりは比較的過ごしやすい。しかし、虫や爬虫類に属する一部の魔獣は休眠に入る為、餌が減り、飢えて凶暴化した大型魔獣の出没が増える傾向にある。また、アイアンライン周辺には、国を追われて行くあての無い人々が数多く生活している。そんな人々が、冬の寒さと飢えに耐えかねて盗賊になる事も少なくない。


 少しでも安全を考慮するなら、冬場の旅は避けるのが常識なのだ。


「フィンレでの滞在については、セフィリアが許しているのなら構いませんよ。私は基本的に人間に対して干渉することはありません。フィンレでの暮らしについては、それぞれの里の長と、セフィリアに任せていますからね」


 私の頭をがしっと掴むヘキサ様。痛い! 痛い!


「でも、結果として良かったですね。守護者様をこのまま帰しては危険であることが分かりましたから。フィンレでみっちりと鍛えてから帰った方が良いでしょう」


 ぽん! とヘキサ様が手を叩くと、私が吹き飛ばした森や山間部が元の姿を取り戻す。


「なっ!?」

「すごい。消滅したはずの森が……地形まで!?」


 目の前で奇跡を見せつけられて驚くオバリー大尉とリオン君。でも私は知っている。ヘキサ様が元に戻したのは地形だけだ。動植物といった生命体の修復は、アスラネットワークサービスの規則で認められていない。森の木々はナノマシンで作ったフェイクであって本物ではない。とはいえ、本物と同じように光合成するし、種を落として勝手に増える。ただ、食べるのはお勧めしない。栄養にはならないから。


「この一帯をあなた方の鍛錬の場として提供しましょう。魔獣も元に戻してあるので、存分に守護者様を鍛えてあげてください」


 森の中からは大型の獣の気配が伝わってくる。


 ヘキサ様は木々だけでなく、魔獣などの生物もナノマシンで再現して配置したようだ。確かに訓練には最適だけど、魔獣が局部丸出しでいるのは何とかしてほしい。


 私だけじゃなくて、レノアやファーファもいるんだぞ? カノンやきっとセフィリア様も面白がってやってくるに違いない。


 雌の魔獣とか、リオン君だって嫌だろう。私から見てもミノタウロスの多連装おっぱいは衝撃的だった。


「あのぉ……ヘキサ様? 魔獣に服を着せることはできませんか? おちんちんもおっぱいも丸出しなのは、子供の教育に良くないです」

「は? お前何言ってんだ?」

「魔獣が服を着てたら不気味ですよ?」


 オバリー大尉もリオン君も、わけがわからないという顔をして、ヘキサ様はヘッドロックをかけてきた。


 痛いってば!


 私の発現は議論の価値も無いらしい。地球のファンタジーではみんな隠してるぞ? 何故だ!?


 私を無視して話は進む。


「少し黙っていてください守護者様」


 痛いのは嫌だし、ヘキサ様の固い脇に挟まれて私は大人しくしていることにする。


 雉も鳴かずば撃たれまいってやつだ。


「ヘキサ様。確かにありがたいお話ですが、訓練にはヘキサ様にもご参加頂けるのでしょうか?」

「たまに見学に来るつもりですが、手を出すつもりはありません。守護者様の育成はあなた方が行うべきことでしょう? 違いますか?」

「まあ、確かにそうなのですが……」

「思いっ切り手を出してるじゃないですか! 放せ洗濯板! 痛たたたっ!」

「お黙り」


 ぴぃ!


「しかし……エリュシアリア姫が、もしまた暴走した場合、我々では止める手段がありません。また、同じような事態が起こることが考えられます」


 簡単に街を吹っ飛ばせるような魔法をほいほい使えるような危険物を、どうやって人の社会で受け入れればいいのか?


 その力は是非有効に活用したい。だけど、王都に置いておくには危険すぎる。


 娘は可愛い。だけど、市民の安全には代えられない。


 答えが出せず、結局お父様は私を軍に預けた。 


 『プロミネンス砲』の暴走は、現在センチュリオン王国において頭の痛い懸案事項のひとつになっている。


 命を奪ったり意識を奪うことで停止する保証はない。制御を失ったエネルギーがその場で消失せずに爆発すれば、より大きな被害が出ることも予想されるからだ。なにより、私の安全第一なので、実際に試してみるわけにはいかない。


 本当は頭を一発殴れば止まるんだけどね。殴られるの嫌だから私はそのことを秘密にしている。


 私が今後暴走させなきゃ済むことだしね。


「ああ、それなら頭を殴れば止まりますよ?」


 だが、私の秘密はあっさりヘキサ様によってばらされてしまった。


「『プロミネンス砲』の発射には10秒の充填時間がありまして、その間に頭を一発殴れば、安全に発射をキャンセル出来ようになっています。おや? ご存じありませんでした? 守護者様は知ってたはずですけれど?」

「ほう?」


 にやりと笑みを浮かべるオバリー大尉。


 ヘキサ様のあほっ! 私の最大の弱点をよりにもよってこの男にばらすんじゃない!


 こいつ絶対試すぞ? 賭けてもいい!


 殴れば止まるは、ゲーム中にもあった『プロミネンス砲』の弱点だ。


 生身での『プロミネンス砲』の発射には、10秒間の充填時間が存在する。その間、聖刻(タリス)が派手に光って唸るんだけど、実はこれ、安全対策としてあえて設定されている発射猶予時間なのだ。発射を外部から止められるように、弱点をあえて設定していりるのである。


 10秒の無防備状態。オバリー大尉なら、それだけあれば100発は殴れるだろう。


「知ってたのか?」


 ぷいっ! 


「こいつ……まあ、いざって時に『プロミネンス砲』を停止させる方法が分かったのは重畳だな。だが、あまり広まっても危険だ。グランス。この件は陛下に直接報告するから、沙汰があるまで絶対に誰にも言うな」

「はっ!」


 『プロミネンス砲』は王国の最大火力だ。その弱点を他国や敵対勢力に知られるわけにはいかない。弱点の扱いに慎重になるのは当然だった。


「さて」

「ぐえっ!?」


 容赦なく私を締め堕とすヘキサ様。


「ブレイウッド!」

「大丈夫ですよ」


 ヘキサ様は崩れ落ちた私を抱き上げて、オバリー大尉に預ける。


「守護者様の力に再び制限をかけるために一度眠ってもらいました。明日の朝には目を覚ましますから安心してください」


 眠らせたんじゃないよね? 締め堕としたよね? などと、ツッコミを入れる空気の読めない人間は今この場にはいない。


「ヘキサ様……あなたはもしや……」


 あなたはもしやタグマニュエル様なのではないか?


 オバリー大尉はそれ以上聞けなかった。知ってしまうことへの不安から、あと一歩が踏み出せなかった。


 だが、その場にいた少年は違った。オバリー大尉と同じ疑問を持った彼は、子供の無邪気さと素直さ故に、ブレーキをかけることをしなかった。


「あの、あなた様は女神タグマニュエル様なのでしょうか?」

「お、おい! グランス!」


 オバリー大尉が窘めようとするのを手で制して、リオン君に向き合うヘキサ様。彼女は好奇心に耐えられなかった少年を咎めたりはしなかった。


「違います。私は神ではありません。そうですね。わかりやすく言うと、神から委託を受けて、あなた方に加護を与えている存在といったところでしょうか? でもこのことは秘密ですから、誰にも言ってはいけませんよ?」


 そう言って人差し指を立てたヘキサ様はパチンとウィンクを決めたのだった。

読んで頂きましてありがとうございます!

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