夢魔の試練~序~
第2章に入ります。引き続きよろしくお願いいたします。
既にちらほら出ている女神様の名前ですが今後変更されるかもしれません。
この春に誕生日を迎えて、私、エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンは六歳になった。
六歳といえば日本でなら小学校一年生。私の勉強や習い事の時間もがっつり増えて、外国語、礼儀作法、歌、ダンス、芸術、護身術と、それはもう本物の英才教育を受けている。教えてくれる先生も超一流の方ばかりだ。なんといってもプリンセス。要求される水準が高い。
中身は二十年近く生きてる私だけど、知識チートが通用するのも数学くらい。初めて覚えることばかりで、目が回りそうな毎日だけど、エリュシアリアの名に恥はかかせられないという思いで、必死について行っている。
そして、今日またひとつ授業が増えた。もう勘弁してほしいところだけど、私はその授業だけは楽しみで仕方がなかった。何故ならそれは魔法の授業だったからだ。
第一回の授業は夜遅く、それも城にある騎士団の訓練場を借りて行われた。
当直の騎士がたまに見回っているだけで、暗く静かな訓練場にちょっとわくわくしている。夜の学校に忍び込んでるようなそんな気分。
魔法の授業の先生は侍女長のハンナさんだ。実は彼女は優秀な魔女でもあり、黒のローブと帽子姿で現れたとき、あまりにも似合いすぎていて私は吹き出しそうになった。
「それでは授業を始めましょう」
訓練場には燭台がいくつも用意されていた。ハンナさんがパチンと指を鳴らすと三十本くらいある蝋燭に一斉に火が点く。
手品じゃない。本物の魔法だ! 私は幻想的なその光景に心を奪われる。
「姫様。今私がどうやってろうそくに火を点けたのかはわかりますか?」
「えっと、精霊にお願いした?」
私が答えるとハンナさんは満足そうに頷いた。
「正解です。私達には見えないだけで、今この場にはたくさんの精霊が存在しています。私はその中の火の精霊にお願いしてろうそくに火を点けてもらいました。これが精霊魔法です」
精霊の力を借りて発動する魔法。それが精霊魔法だ。
指パッチンだけで沢山の蝋燭に一度に火を点けたハンナさん。実はこれ相当凄い。
本来、精霊ってのは人に無関心でそうそう力なんて貸してくれない。火をつけるにしても、普通は魔法陣と火の精霊が好むパンや焼き菓子などを用意して、ようやく小さな火種を起こしてくれるという程度。それでもマッチがまだ発明されていない中世の世界なら十分に便利だと思う。火打石でカチカチしたり、木をこすり合わせたりしなくていいんだからね。
私もこっそり精霊魔法による火おこしを試してみようとしたんだけど、シナリィに見つかってめちゃくちゃ怒られた。
子供が火遊びするなってさ……
私は周囲を見回してみる。だけど精霊らしいものは見えないし、気配も感じない。
その様子を見てハンナさんが笑う。
「姫様。精霊は人の前で姿を見せてはくれないのです」
「では、誰ならば見ることができるのですか?」
「エルフ様ならばご自身の守護精霊を具現化することができます」
「エルフ様……」
この世界にはエルフの他にもウェアウルフのような獣人、ヤシャ族と言われる鬼人など多くの亜人種が暮らしている。ゲームでも登場していたしいずれ会うことになるだろう。
「精霊の守護を受けたエルフ様は、我々人では使えないような強力な精霊魔法を使うことができます。私も精霊の守護を受けられないものかと研究しているのですが、残念ながら……」
この世界の精霊はエルフ以外の種族には基本的に無関心だ。エルフ以外の種族に対しては、気まぐれや、少し気になる相手にほんの少し力を貸す程度でしかない。
それでも、あきらめが悪いのが人というもの。どんなに塩対応をされても精霊に憧れ、敬うことをやめず、魔法陣や呪文、供物など、あの手この手で精霊の気を引きながら、精霊魔法を発展させてきた。
ハンナさんのようにほんの少しだけでも気にしてもらえる幸運な人達が、魔法使いとして活躍しているのは、まさに精霊に対する人の執念の結果なのである。
「精霊との付き合い方は、これから追々学んでいきましょう。けれど勝手に火の精霊を呼ぼうとしてはなりませんよ?」
「はい……ごめんなさい」
私がこっそり火遊びしようとしたことを、当然ハンナさんは知っている。だから念を押したんだろうけど、厳しい口調とは裏腹にその目はとても優しかった。普段は堅い印象のハンナさんだけど、精霊が絡むとどうやらそんな目をするらしい。ちょっとした発見だった。
「では姫様。精霊魔法の他にも魔法には種類がございます。魔法は現在大きく六つの系統にわけられていますがそれを答えることはできますか?」
「精霊魔法、黒魔法、仙術、加護魔法、心霊魔法、奇跡の六つです」
「結構です。よく予習をされていますね」
「ありがとうございます」
前世で丸暗記するほど設定資料を読みましたからとは言えないが、普段厳しいハンナさんに褒められるとやっぱり嬉しい。
この世界では物理法則では説明のつかない現象をすべて魔法という言葉で片付けている。だから六つの系統というのも、実は全て原理が違う別物だ。あと、国や民族、信仰する宗教によっては認められていないものもあるし、まだ発見されていないものもあるかもしれない。だから、いま私が答えた六つの系統についても、北西諸国連合内で現在確認されているものでしかない。
精霊魔法は前述の通り、精霊の力を借りる事を言う。この世界で最も一般的な魔法であり、多くの恩恵を与えてきた魔法だ。その為、多くの国では精霊は信仰の対象とされている。
精霊魔法の威力は使い手と精霊との親愛度で変化する。火おこし程度なら誰でも簡単に使えるが、ハンナさんみたいな精霊魔法の使い手になるには、普通より精霊に好かれていることが条件になる。
黒魔法とは悪魔に生贄を捧げ、その力を行使する魔法だ。かつて戦争で、帝国が捕虜や占領した街の住人を生贄にして、強力な魔法攻撃を連発したことから忌み嫌われており、センチュリオン王国や北西諸国連合の国々では使用が禁止されている。
仙術は気功とも呼ばれ、気と呼ばれる生命エネルギーを体内に循環させ、瞬間的に肉体を強化したり、回復能力を上げたりする技術だ。
今のところ、空を飛んだり手からビームを出せるといった話は聞かないが、達人は衝撃波を出したり、数メートルをジャンプしたり、明らかに人間じゃない動きをしたりするらしい。
因みに、ゲームのエリュシアリアも使い手である。
加護の会得が遅れていたエリュシアリアは、独学で仙術を学び加護が無いハンデを補っていた。
さて、精霊魔法、黒魔法、仙術は一応人の努力次第で、誰でも使うことができる魔法だ。しかし、魔法の中には人の力だけではどうにもならないものや、全く原理が解明されていないものもある。それが、加護魔法、心霊魔法、奇跡である。
まず加護魔法だが、これは神様に力を借りて行使する魔法である。
実は、センチュリオン王国をはじめとする北西諸国連合において加護魔法は珍しいものではない。女神タグマニュエル様からの加護は、国土を護る為の力であり、最近は平和なせいで減っているが、かつては成人の大半は加護を受けていたという。
だけど、世界から見ると、女神の加護を受けてる北西諸国連合がおかしいという話で、恩恵を預かれない他の国や地域から北西諸国連合が嫌われる原因になっている。
また、支配者を神格化してる国なんかは、そもそも加護というものを認めていない。その最たるのが帝国で、皇帝は地上の覇者となるべく使わされた神の子とされている。だから他国の神だの加護だなんて認めたら、自分たちが聖戦と言い張って他国を侵略し支配してきた歴史の正当性を失うことになる。帝国が北西諸国連合を目の敵にしてるのはそういった事情らしい。
心霊魔法は生物の思念をエネルギーにして発現する魔法だ。呪いや超能力もこれに該当する。ただ、不人気であまり研究が進んでいない。まあ、わかる。怖いし。
そして、定義そのものがあやふやで、発動条件など全く不明なのが奇跡だ。これも説明しようがないんだけど確かに奇跡はある。
だって私転生者だもん。奇跡の体現者である私が言うんだから間違いないでしょ?
魔法の授業では、主に精霊魔法と加護魔法を学ぶことになる。
仙術も学びたかったけど、幼いうちに無理な鍛錬をすると身体を壊すからと却下されてしまった。残念。
「さて、姫様。精霊魔法の他に我々になじみ深いのが加護の力です。この国に住む人々が女神タグマニュエル様の加護を受けていることはご存じですね?」
「はい」
「帝国という強大な敵に対抗するために女神は我々に力を与えてくださいました。それが聖炎です」
ハンナさんは火のついていない燭台を一本用意すると、それににそっと手を触れて火を点けた。
それは精霊によって点けられた火ではない。神々しい光を放つ金色の灯だった。
「これが聖炎?」
「はい。どうぞ触れてみてください」
ハンナさんはまず自分の手を聖炎にかざしてみせる。火に手をかざす行為に驚いたが、彼女の手が焼かれることはない。
「タグマニュエル様は人の身体、特に筋肉を愛された女神です。その力が人を直接傷つけることはありません。ですがろうそくには触れないように、あと服も燃やさないように気を付けてください」
聖炎そのものが人の身体を焼くことは無い。けど、物は普通に燃やすため、溶けたろうや、服が燃えるときの熱などで、間接的にやけどを負ってしまうことはある。
私は袖をまくって、恐る恐る聖炎に手をかざす。
「温かい……」
それはまるで温泉にでも浸かっているかのように心地よい感覚だった。だが聖炎はやがて小さくしぼんで消えてしまう。体外に放出された聖炎は長く維持することができないのだ。
「タグマニュエル様から授かった聖炎を身体に宿すことによって、我々は身体能力を強化し、治癒能力を高めることができます。我が国が圧倒的兵力を持つ帝国と互角以上に渡り合えたのはこの加護の力があってのことなのです」
ハンナさんの手の甲にアルファベットを合わせたような奇妙な文様が現れる。聖炎による魔法を使うときに出現する聖刻だ。
ハンナさんはポケットからジャガイモをひとつ取り出すと、易々と片手でそれを握りつぶした。
「……」
ハンナさんの見た目は普通の年配のご婦人です。これが筋肉を愛する女神、タグマニュエル様の加護の力なのです……
「タグマニュエル様の加護を得ることは我が国の貴族の嗜みでございます。その会得には苦痛を伴いますが、お覚悟はよろしいですか?」
「……さー、いえっさー」
「はて? 声が小さいですね?」
「サー! イエッサー!」
「結構。では試練を始めましょう」
聖炎を得るための試練が今日の授業だ。なんといきなりテストである。
読んで頂きましてありがとうございます。<(_ _)>
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