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魔界鬼譚  作者: ふじ零
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食堂車

 最終車両は今まで僕の乗っていた車両とは違って、座席の座面が向き合って並んでいた。その間には白いテーブルクロスのかけられた正方形の食卓が存在を主張しており、ちょうど四人座れるテーブルが車両中に並列している状態だった。コース料理が出てくるような如何にも、な高級料理店の香りが辺りを漂っている(真っ先に手持ちの現金の数を心配していた)。

そして相変わらず僕以外の乗客は人っ子一人見当たらない。


 「では、ごゆっくりお過ごしください」

そう言って、車掌と少年は食堂車から姿を消した。どうやら用事が済んで言いたい事だけ言えたら仕事はお終いらしい。

 もう少しサービス精神と接客精神が旺盛でもいいのではないだろうか。無表情な車掌と身なりの乱れたやる気の見られない従業員。普通の客だったら見ていて不気味に思うか不愉快だと感じるだろう。だから僕以外の客の姿が見られないのではないだろうか。嫌味は一切抜きにして、ここの経営状況が心配になった。別に僕が心配しなくてもいいはずなのに………。


 「いらっしゃいませ」

また突然に、背後から声をかけられた。それとも僕がぼうっとしているのが悪いのだろうか。でも空飛ぶ列車に異様な雰囲気をまとった従業員たち。この非日常的空間にいて正常な意識を保っていろだなんて、それこそ無理な話だ。


 「こちら、本日のおすすめとなっております」

鱸のポアレ、ロースカツ丼、八宝菜、チョコレートバナナパフェ……。振り返った直後に、視界に広がるメニューの一覧。反射的に顔を退いてしまった。

 それにしても奇妙な一覧表だ。この食堂車の風格と合わない、近頃コンビニ弁当ばかり食していた僕が見慣れた名称もそうでないものもあった。当然、その調子だから品数もかなりのものだった。懐石料理のお品書きの比ではない。順々に読んでいったら太陽が沈んでしまうのではないかという量だ。僕は真っ先に目に付いた一番安そうな料理…「じゃあ、この、幕の内弁当を」と指差した。それと同時にメニューも引かれる。

 そこでようやくメニューを持った従業員の顔が確認できた。僕より僅かに背が低い、金髪のウルフカットの少年だった。車掌と先ほどの少年とは違い、染み一つ見当たらない白いコックコートに身を包んでいる。屈託のない笑顔が眩しい。表情に関して言うならば、この少年が一番優秀な従業員だった。

「かしこまりました、幕の内弁当でございますね」

外見に不相応な慇懃な言葉遣いが、なんだか不均衡さを感じさせる。先ほど会った車掌と瓜二つの少年とは違って、小柄だからだろうか。こましゃくれた感じが一切ない。

「出来上がるまでの間、少々お待ちください」そう言い残して、少年はキッチンがあるらしい、奥の扉へと姿を消した。…扉が完全に閉まった、次の瞬間。


 ――っしゃあ、久々の客だ!!腕が鳴るぜ!


その歓喜の叫びは、扉を挟んだこちらでも鼓膜を叩いた。

(やっぱり、ここの経営状況が心配だ……)

乗客が少ないからって、ぼったくられやしないだろうか………。


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