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魔界鬼譚  作者: ふじ零
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双子

 「お客様、危険ですので窓から身を乗り出すのはやめてください」

突然、背後から声をかけられた。振り向くと、席のすぐ傍の通路に一人の少年が立っていた。

 顔面が僕より頭一つ分上の高さにあるが顔立ちはまだ幼い。端正な顔立ちには営業スマイルの類の微笑が貼り付けられていた。その苛立ちか何かを秘めた美顔に気圧され、慌てて言われるがまま上体を中に引っ込めた。言われてもいないのに窓も閉めてしまった。

 僕の一連の動作を見届けて満足したのか、少年は少しだけ頭を下げた。「ご協力ありがとうございます」その言い方は何となく人を小馬鹿にしたような響きが含まれていた。少々ムッとしたが仕方ない。確かにあの高さから風に煽られて落ちたりでもしたら一溜まりもないだろう。それを見越していれば僕の行動は何とも軽率だった。

 「ごめんなさい、でもまさか――」

その先を言おうとして我に返った。そうだ。まさか〝誰も列車が空を飛んでいるとは思わないじゃない〟か。銀河鉄道じゃあるまいし、僕が取り乱したのは微塵もおかしい反応ではない。だってこんな非日常的情景を見たら誰だってパニックになるに決まっている。

 「申し訳ないんだけど、車掌を呼んでくれないかな」

こんな事態に陥っても僕は「今すぐ地上に戻せ」だとか「一体これは何なんだ」と喚いたり怒り狂ったりしなかった。


 初めて頭が混乱しショートしたのはその少年が車掌を呼び、並んだ二人の顔を見比べた時だった。

「どうかなさいましたか、お客様」

その時、初めて気付いた。


背の高さも表情も、それどころか髪の色まで違う車掌と少年の顔がまったく同じ造りであることに。

頭髪を全て刈り取って頭部を切り取れば二人は瓜二つの人間だった。その時、僕は林檎の落下を見て万有引力の存在に気付いたニュートンの気持ちがよくわかった。

 「クローン?」つい口を突いて出たその一言に、車掌は瞼を僅かに持ち上げた。上に鉛筆が乗っけられるのではないかという量の睫毛もそれに連動する。

 おそらく僕が彼の表情に変化を見たのは、この時が初めてだったろう。


 「双子と尋ねられる事は多々あるのですが、クローンは初めてですね」

「あっ、す、すいません」

いつもの癖で低頭するも、車掌は特に意に介した様子もなく「いえ、お気になさらないでください。確かに顔の造りだけしか似ていない兄弟です」と宣った。まだ彼らとほんの少ししか接していない僕でも、彼の言う事に頷いてしまった。それは二人の無表情と笑顔が並んでいるのを目の当たりにしたからか、将又(はたまた)かっちり制服を着込んでいる車掌と制服を着ていてもそれを着崩している少年の二人を見比べたからか。もしくはそれ以外の何かを、二人に感じたからか。


 「そんな事よりも、最終車両でお食事は如何ですか?当列車自慢の料理人が腕に縒りをかけています」

なんだか車掌はこの話題に触れてほしくないようだった。まるで自分たち兄弟の話題は取り上げて欲しくないような、そんな雰囲気が感じ取れた。


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