国際社会と民事法
2018
<林担当分>
問題1から15は、国際家族法・国際財産法の分野から出題した。国際的な事案における問題解決方法を理解しているかを確認するため、抽象的に問いかける問題とともに具体的事例において法の適用に関する通則法(以下、通則法)をもとに正しく準拠法を決定し適用できるかを問うた。
全般的によくできていたと思われる。正答率が低かったのは、問題4と9のみであった。
問題4の「日本民法上の強行規定に反する外国法規は、日本の公序に反することから、原則として通則法42条により適用されない。」について誤って正しいと判断した答案が半数を超えた。しかし、講義において日本民法の親族法の強行規定を例にあげながら説明したように、日本民法上の強行規定と異なる定めをする外国法規であるからといって直截に日本の公序に反するわけではない。通則法42条の要件に照らして公序に反するか否かは判断されるのであって、原則として準拠法として指定された外国法はそのまま適用されるべきであり、公序則の適用は例外である。
問題9の「フランス国籍と日本国籍を有する重国籍者がフランスで生まれ育った場合、フランスとより密接な関係を有することから、その本国法は、フランス法となる。」については、通則法38条1項ただし書により考えなければならない。同規定によれば、当事者が二以上の国籍を有する場合において、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法が当事者の本国法とされるため、設問の場合には、その本国法は日本法となる。
<高杉担当部分>
問題16から30は、国際民事手続法に関する理解を確認するための問題である。特に、財産関係事件に関する国際裁判管轄、外国判決の承認・執行、仲裁について理解できているか否かを確認した。
全体的によく理解できていた。正答率が低かったのは、問題16、24、28の3つだけであった。問題16は、財産関係事件の国際裁判管轄に関する日本の法源を確認する問題であった。国内法上の問題であって、民訴法に規定が置かれている。問題24は、国際訴訟競合に関する問題であった。民訴142条は、国内の二重訴訟に関する規定であり、国際訴訟競合に直接適用されない(判例・多数説)。問題28は、仲裁という制度の基本的な理解を確認する問題である。「調停」と誤認した解答が多かった。
<総括> 高杉・林担当分ともに、すべて授業中に説明した事項である。教科書を読んで勉強していれば、十分に8割以上の正答ができた筈である。
2017
林担当分の試験に関して
<出題意図>
講義で取り扱った国際家族法・国際財産法の分野から,国際的な事案における法の適用方法を理解しているかを確認するため,抽象的に問いかける問題とともに具体的事例において法の適用に関する通則法(以下,通則法)をもとに正しく準拠法を決定し適用できるかをみる問題をだした。
<講評>
50点満点で,平均点は35.8点である。全般的によくできていたと思われる。
正答率が比較的に低かったのは,1,6,12である。
1の「日本に国際裁判管轄があり,当事者の一方が日本人であるときは,法の適用に関する通則法(以下,通則法という。)により外国法が準拠法となるとしても,最密接関係地法として日本法を準拠法として適用することが可能である。」について正しいと判断している答案が多かった。しかし,通則法において,そのような一般的な例外規定は置かれていない。
6の「フランス国籍と日本国籍を有する重国籍者の本国法は,例外なく日本法となる。」について誤っていると判断した答案が多かった。しかし,通則法38条1項ただし書によると,重国籍者の国籍の一つが日本の国籍である場合には,その者の本国法は常に日本法となる。
12の「日本人Aは,日本において甲国人BからPを買い受ける契約を締結し,甲国法を準拠法とする旨の合意をした。当該契約を書面でなく口頭のみで締結することができるかは,通則法7条に従い,契約準拠法である甲国法による。」について正しいと判断した答案が多かった。しかし,契約を書面または口頭のいずれによって締結することができるかという問題は,契約の方式の問題であり,通則法10条に定める準拠法によることになる。
2016
<講評>
全体的によくできており、国籍法に関する2は、正答率100%であった。正答率が最も低かったのは19であり、次いで7であった。
19は反致に関する問題である。通則法41条の条文を見ながら、どのような場合に日本国際私法上反致が成立するかを再確認しておいてもらいたい。7は、抵触規則における概念に関する問題である。授業で再三注意していたが、抵触規則上の概念は、日本民法の概念よりも広いものである。なぜそうなるのか、教科書等を読んで理由を考えてもらいたい。
2015
<講評>
正答率が最も低かったのは、7であり、次いで8、18であった。
7については、授業で触れた条文であるが、通則法38条1項ただし書により解答が導かれる。8については、法律関係の性質決定について解説した際にふれたものであるが、外国法の適用も前提とする国際私法において、その概念が日本民法の概念と同じであれば、狭すぎることは容易に想像できよう。18については、授業で取り扱かった例題の類似問題であり、反致の成否について問うたものである。
2014
【出題意図】
本講義では,国際私法という法律がなぜ必要であるのか,そして,国際私法が国際的な事案においてどのように問題に対処するかを中心に解説してきた。本試験では,設問1で,後者の国際的な問題への対処の仕方を問い,設問2では,前者に関する問題を出題した。
【講評】
設問1は,非常によくできていた。論点は,婚姻の形式的成立要件であり,8割程度の答案が法の適用に関する通則法24条2項・3項に言及し,検討を加えることができていた。ただし,それ以外の婚姻の効力や離婚などの不要な論点についてまで論述している答案も半分程度あった。そのような答案については減点している。
設問2は,①なぜ跛行的法律関係の発生を完全に回避することが難しいのか,②できる限り,そのような状態の発生を少なくするための方策としてどのような方策が考えられるかの2点について問うている。②については比較的よく論述できていた。これに対して,①については,跛行的法律関係の定義だけを書き,①の問いに答えていないもの,また教科書等からよく理解せず言葉を抜きだし,書いていた答案が多かったのが残念である。問題をよく読み,出題の意図をくみ取る必要があるように思われた
2013
【講評】
論点としては,①XY間での婚姻の成立(実質的成立要件と方式)の有無と②子とXの親子関係の成否がある。
それぞれ根拠条文を示したうえで準拠法を特定できているかが採点ポイントである。全体的によくできていたが,通則法のみでなく,反致とは関係のないところで甲国国際私法に基づき準拠法の決定をしている誤答も多かった。また,本問では,「Xの主張が認められるか」という問いが立てられているが,これに答える形で答案を書いていないものも一部あった。
①に関しては,特に方式が問題となる。日本での戸籍や甲国での身分登録簿への登録の有無に関係なく,通則法24条2項の婚姻挙行地法または3項の当事者の一方の本国法である甲国民法G条(2)によりXY間の婚姻が有効に成立していることを導かねばならない。
②に関しては,①の検討により,XYが夫婦であることが判明するため,ここではYが出産した子が二人の嫡出子となるか否かを通則法28条により検討しなければならない。28条も選択的連結をとっており,準拠法とされる日本民法772条および甲国民法H条により,子は嫡出子たる身分を取得する。Xの嫡出子である以上,もはや認知を検討する必要もなく,Xの主張が法的に何の根拠もなく,認められないことがわかる。
2012
設問1は、離婚の国際裁判管轄に関する理解を確認する問題である。離婚の国際裁判管轄に関する明文規定がないことを指摘した上で、条理に基づき、昭和39年大法廷判決(または平成8年判決)を参考にしつつ結論を提示することが求められている。
設問2は、離婚の準拠法に関する理解を確認する問題である。通則法27条を解釈・適用して甲国法が準拠法となることを示した上で、甲国法の適用が日本の公序に反しないかどうかについて言及することが求められている。
設問3は、財産関係事件の国際裁判管轄に関する理解を確認する問題である。民訴法3条の2以下の規定の管轄原因があるかどうかを判断することが求められている。契約債務履行地管轄の判断を行う際には、インコタームズへの言及が必要となろう。
設問4は、ウィーン売買条約と契約の準拠法に関する理解を確認する問題である。ウィーン売買条約の適用の判断に関連して、通則法7条によって契約準拠法が日本法とされることへの言及が求められる。また契約解除と損害賠償に関連して、ウィーン売買条約上の根拠条文を示すこと必要である。
設問5は、外国判決の承認・執行に関する理解を確認する問題である。特に民訴法118条の各要件に関する判断が求められる。
2011
第1問は、離婚(または婚姻無効・取消)の国際裁判管轄と準拠法に関する理解を確認する問題である。管轄については、昭和39年大法廷判決または平成8年判決を参考にしつつ結論を提示すること、準拠法については、離婚と性質決定した場合には通則法27条を解釈・適用して結論を提示することが求められている。
第2問は、国際海上物品運送法、財産関係事件の国際裁判管轄、インコタームズ、ウィーン売買条約、契約の準拠法、外国判決の承認要件など、多数の論点について説明することが求められている。
2010
第1問は、家族法分野の国際私法についての理解を問うものであった。婚姻の実質的成立要件の準拠法と反致について、法の適用に関する通則法24条1項・41条を解釈・適用して説明することが求められている。
第2問は、財産法分野の問題であり、現行の国際裁判管轄に関する判例法理、ウィーン売買条約の適用条件、契約の準拠法についての理解を問うものであった。
これに対して、講義の出席していなかった答案の中には、基本的な事項・考え方を理解していないものが目立った。例えば、第1問では、婚姻の実質的成立要件と方式の区別(法性決定の基本理解)ができていないもの、外国の国際私法の位置づけが理解できていないものが多かった。第2問では、講義で何度も指摘したにもかかわらず、国際裁判管轄に関する法規範を提示できていない答案が多かった。また、裁判管轄と準拠法の違いや、契約と不法行為の区別ができていない答案も目についた。
2009
出題意図
【高杉先生】
高杉出題部分は、具体的な国際取引事例をもとに、主に外国判決の承認・執行の問題ついての基本的な理解を問うものである。
第1に、財産所在地国以外の国家は強制執行を行うことができないことを理解しておくことが必要である。財産所在地国で裁判がなされる場合、強制執行の可能性を前提に対応する必要がある。
第2に、財産が日本だけにしか所在しない場合、外国で裁判がなされても日本で強制執行がなされないという訳ではない。一定の要件を満たす外国判決は、日本でも強制執行が可能となる。
以上の点に注意して、法的根拠を挙げながら説明することが求められている。
【林先生】
講義で取り扱った国際家族法・国際財産法の分野から、国際的な事案における法の適用方法を理解しているかを確認するため、抽象的に問いかける問題とともに、具体的事例において法の適用に関する通則法をもとに正しく準拠法を適用できるかを確認する問題をだした。
講評
【高杉先生】
講義で何度も触れたにもかかわらず、民事執行法22条・24条および民事訴訟法118条を取り上げることができていない答案が散見されたのはきわめて残念である。もっとも全体的にみれば、多くの受験者が合格水準に達していた。
【林先生】
50点満点で、Ⅰ に40点(4点×10問)、Ⅱ に10点(2点×5問)の配点である。 クラス1・2ともに平均点は36点(小数点以下四捨五入)で、各クラスに満点をとったものが6,7人いた。
Ⅰにおいてもっとも正答率が低かったのは、(5)であり、次いで(6)が低かった。ともに授業では似たようなケースを扱わなかった応用問題である。Ⅱにおいては(12)と(13)の正答率が低かった。
試験問題の解説はe-CLASSにアップしてあるので、ぜひ間違えた個所を復習してもらいたい
2008
出題意図
(高杉先生担当分)
高杉出題部分は、事例をもとに、主に国際民事手続法・国際取引法の基本的な理解を問うものである。
設問(1)は、インコタームズのfob条項の売主の義務ないし引き渡し地についての理解を確認する問題であり、難易度は高くない。なお、この前提として契約準拠法が問題となり得るので、問題文に日本法を準拠法とする旨を挙げていた。
設問(2)は、財産関係事件の国際裁判管轄についての理解を確認する問題である。判例の立場(修正逆推知説・特段の事情論)を前提に論述すれば足りる。
設問(3)は、仲裁法14条により、仲裁合意が防訴抗弁となることを示していれば足りる(その前提として、日本の仲裁法が適用されることを示していれば加点事由とした)。
(林先生担当分)
1 日本の国際私法である通則法の方法論の基本的知識や基本的概念の習得を確認するための問題である。
2 授業でも取り扱った具体的事例を用いて、通則法を正しく適用できるかを問うための問題である。本問は、不法行為の問題であるが、通則法においては不法行為の準拠法は1か条のみを適用しただけでは決定することができない。そのような構造を理解できているかを問うている。
講評
(高杉先生担当分)
全体的に、多くの受験者が合格水準に達していた。
(林先生担当分)
1(1)⑤⑦⑨⑫に誤答が多く見られた。
(2)比較的よくできていたが、条文のあげ方が不正確な答案や、問題後半の「そこでは、どのような価値判断がなされているか」という部分の出題の趣旨を理解できていない答案が多かった。解答として具体的にあげた条文での具体的な価値判断を問うているにもかかわらず、「法律行為の成立をしやすくするため」とのみ答えるものがあった。すでに冒頭の問題文で、選択的連結は特定の法律行為を成立しやすくするための連結方法であるといったことが書いてある(一部は空欄補充ではあるが)ことから、このような答え方では不十分である。
また、授業では扱わなかった条文10条をあげる答案も一定数あり、それは正解ではあるが、「価値判断」を問う部分についてそういった答案の多くは、出題の趣旨を理解せず、教科書の24頁の記載をそのまま写して誤答していたのが残念である。 2 比較的よくできていたが、試験中に注意を喚起したにもかかわらず、法例の条文を適用したもの、事例を授業で扱ったものとまったく同じように考え、授業で紹介した裁判例の判旨を書き写したものがあった。あくまでも、授業で扱ったケースとは違うケースである。 その他、気になった細かな点をあげる。
•・17条但書の予見可能性の対象は、結果発生地であるが、これを結果の発生と誤答しているものが少しであるが、見受けられた。
•・20条の適用にあたり、「当事者双方が日本人だから」、「日本で治療費がかかっているから」、「日本で訴訟をしているから」、日本法が例外的に準拠法となると展開している答案が多かった。不正確な表現である。20条を再度読み直し、どういったことが例示されているかを確認してもらいたい。
•・21条により当事者が選択できる準拠法は、限定されていない。にもかかわらず、「日本法を選択すべきである」…といった答案が多く見られ、また授業で扱った事例と混乱してか、当事者の黙示の準拠法選択について言及する答案が多く見られた。