知的財産法
2018
授業内評価(期末試験)
<出題意図>
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。 論述式 2題
問題1は、ピアノ演奏について問題になる著作権の支分権と、非営利目的の演奏についての著作権の制限の成否について、基本的な理解を問うた。
問題2は、特許権侵害とされる技術の範囲をどのように解釈するかについて、基本的な理解を問うた。
<講評>
Ⅰ。マークシート方式については、授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ。論述式について。
問題1の(1)は、ピアノ演奏に対する著作権の支分権である「演奏権」が解答で、極めて易しい問題であり、よくできていました。なお、「上演権」は間違いです。著作権法2条1項16号で「演奏」と「上演」は区別されています。
問題1の(2)は、非営利目的の演奏等に対する著作権の制限規定(著作権法38条1項)が適用され、演奏権の侵害にあたらないことを、その要件を設例の事実から挙げて論ずることが正解です。しかし、「著作権」と「著作権の制限」の区別ができていない答案が散見されました。著作権(本問では演奏権)とは、著作者が有する権利であって、他人に自己の著作物を無断で利用することを禁止する権利です。「非営利目的の演奏」は、著作権を有しない人が、著作権者から演奏権侵害を主張された場合に、これに対抗するための抗弁として、演奏権が自分の演奏行為には及ばないと述べるための「著作権の制限」の主張です。まったくの誤解をして、「演奏権」を著作権者ではない者が、非営利目的等を要件として有する「権利」であるかのように記述する答案がかなりみられましたが、著作権法の基本を理解していませんので、勉強し直してください。なお、「非営利目的」「無料」「無報酬」は別々の3要件であり、「入場無料だから非営利目的である」とするのは間違いです。
問題2の(1)は、「特許発明の技術的範囲」が解答でした。「クレーム」という誤答が多かったですが、「クレーム」は、「特許請求の範囲」と同じ意味です。
問題2の(2)は、特許発明の技術的範囲を解釈するに際しては、出願の経過を考慮するという点が論点です。出願人が意識的に除外した事項は、禁反言の見地から技術的範囲に含まれないという趣旨まできちんと書けている答案も少数ながらあり、感心しました。そうした答案は高く評価しています。
なお、単なる暗記は意味がありません。なぜそうなのかという理由をしっかり理解する学習習慣を身につけてほしいと思います。解答・解説・講評・採点結果をe-classに掲載していますので、受講者は必ずそちらを見て、誤解をそのままにしないでください。
2017
<<出題意図>>
Ⅰ.マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ.論述式 2題
問題1は、音楽CDのコピーについて問題になる著作権の支分権と、私的複製についての著作権の制限の成否について、基本的な理解を問うた。
問題2は、従業者が転職した場合の職務発明の権利に関し、職務発明制度の基本を理解しているかを問うた。
*試験問題と解答・解説・講評・採点結果をe-classに掲載していますので,受講者は必ずそちらを見てください。
<<講評>>
Ⅰ.マークシート方式については、授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ.論述式について。
問題1の(1)は、コピー行為に対する著作権の支分権である「複製権」が解答で、著作権法の基本中の基本である用語でしたので、極めて易しい問題でした。ところが、「私的複製権」と書いた人が散見されたのは驚きです。このような「権利」はありません。著作権とは、著作者が有する権利であって、他人に自己の著作物を無断で利用することを禁止する権利です。「私的使用のための複製」は、著作権を有しない人が、著作権者から複製権侵害を主張された場合に、これに対抗するための抗弁として、著作権が自分の複製行為には及ばないと述べるための「著作権の制限」の主張です。「著作権」と「著作権の制限」をきちんと区別して理解してください。なお、「権利が及ぶ」という用語を誤って用いている答案もかなり見られました。著作権や特許権が「及ぶ」というのは、及ぶ相手に対して侵害であると主張できるという意味です。
問題1の(2)は、①家庭内で使用するという私的使用目的で、②本人が複製しているので、③著作権は制限され、④著作権侵害にあたらない、というポイントが書けていれば結構です。②の要件がぬけている人が多かったです。また、③の著作権の制限という性質を理解していない答案も見られました。
問題2の(1)は、発明の完成と同時に発明者が原始取得する、「特許を受ける権利」が解答でした。一見、権利の名称には見えない用語なので気を付けるようにと、授業中、強調したのですが、正解を書けた人は驚くほど少数でした。
問題2の(2)は、従業者が転職後に完成した発明は、転職後の会社における職務発明となり、これにつき従業者が特許権を取得した場合、使用者として通常実施権を有するのは転職後の会社であること、そして、転職前の会社は無権利であることを理解できているかを問いました。本問では、従業者が特許権を取得した、と事実を明記しているにもかかわらず、会社が特許権を有すると書く誤答が目立ちました。まず、設例を正確に読みましょう。また、設例に、会社が発明に関する社内規程を有していないと書いてあるのは、職務発明の権利は会社に帰属するという社内規程があると、従業者の特許権取得がこれに反することになり複雑な法律問題が発生するため、そのような問題はないことを示すために挿入した事実だったのですが、社内規程がないから職務発明ではないなどとする誤答が見られました。特許法35条の要件を充たすものはすべて職務発明ですので気を付けてください。職務著作と混同した答案も見られました。「特許権が及ぶ」という言葉の用法についても、上記問題1の箇所で書いた間違いが多く見られました。また、「過去の発明は含まないから」などと何の説明もなく書いている答案が相当数ありましたが、この言葉だけを書いても何のことか全く通じません。「従業者の現在又は過去の職務に属する」という職務発明の要件の「過去」とは、退職した場合の過去を含まない、という意味を書かなければいけません。
なお、単なる暗記は意味がありません。なぜそうなのかという理由をしっかり理解する学習習慣を身につけてほしいと思います。解答・解説・講評・採点結果をe-classに掲載していますので、受講者は必ずそちらを見て、誤解をそのままにしないでください。
2016
<<出題意図>>
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。 論述式 2題
問題1は、著作権の保護を受けるための「著作物」に該当するための要件と、複製権侵害が成立するための要件および私的複製の抗弁の成否について問うた。
問題2は、特許権を付与する保護対象としての「発明」に該当するための要件と、特許発明の「実施」の意味について問うた。
<<講評>>
Ⅰ。マークシート方式については、授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ。論述式について。
問題1の(1)は、著作権法上、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであること(著2条1項1号)、イラストαはAが個性的なタッチで架空の生命体を描いたものであり、「著作物」に該当することが解答のポイントでした。基本的な問題でしたので、よく出来ている答案が多かったですが、著作物性の要件が抜けている答案もみられました。まずは条文の要件をしっかりと書いてほしいと思います。
問題1の(2)は、BがイラストαをTシャツβに印刷する行為は、Aの著作物の有形的再製行為にあたり(著2条1項15号)、複製権の侵害が問題となること(著21条)、しかしこのTシャツβは、Bが個人的に使用する目的で製作したものであるから、Bの行為は私的複製の例外に該当し(著30条1項)、複製権の侵害は成立しないことが解答のポイントでした。よく書けている答案もある反面、複製権侵害の成否について、「公表」や「公衆に見せる目的」の有無を問題にしている答案が多数みられた点が気になりました。Tシャツを家の中で着ているだけなら非侵害となるが、Tシャツを他人に見せる目的で家の外で着れば、あるいはTシャツを公表すれば、複製権の侵害にあたる、といった内容の答案です。こうした答案は、複製権の内容(著21条)と上演権・演奏権の内容(著22条)とを混同しています。条文を見れば分かるように、上演権・演奏権の場合には、「公衆に直接見せることを目的としている」ことが権利侵害の要件になっていますが、複製権の場合には、著21条のどこを見ても、そうした要件は登場しません。また、私的複製の例外(著30条1項)に関しても、条文は、あくまで「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的としている」かどうかだけを問題としており、「公表」の有無に関しては問題にしていません。授業で繰り返し強調したように、レジュメに書かれている内容を眺めるだけでなく、必ず条文を確認して勉強・復習するようにしてください。
問題2の(1)では、特許法上、「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)であること、うまみの成分が物質Aであることの解明は、自然法則の発見であって「発明」ではないが、結晶化して調味料とした点に創作行為があり、「発明」に該当することがポイントでした。授業で解説した「味の素」事件大審院昭和17年12月4日判決(審決公報号外23号725頁)と同様の事案でしたので、授業をよく勉強していた人には易しい問題だったようです。しかし、問われているのは「発明に該当しない」という主張が認められるかという発明該当性の問題なのに、特許要件(新規性、進歩性、産業上利用可能性)について書いた答案が少なからずありました。発明に該当するかは、特許要件の前提となる要件であって、特許要件とは別であることを復習しておいてください。
問題2の(2)では、特許発明の「実施」(特許法2条3項)としての「使用」は、発明の目的、効果を得るために用いることをいうと、授業で解説しました。本問では、特許発明の実施にあたらないという結論は、ほとんどの人が理解できていましたが、その理由として、「防腐剤は調味料と違うから」というだけでは不十分です。また、「防腐剤は丙自身の発明であるから、甲の特許発明の実施にあたらない」という解答は間違いです。誰の発明であるかということと、発明の実施かどうかは関係ありません。
2015
<出題意図>
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。 論述式 2題
問題1は、著作権のうちの上映権について、非営利行為に対する権利制限の要件と、具体的行為へのそのあてはめについて問うた。
問題2は、特許権侵害の成否をめぐる問題のうち、「業として」の要件の充足性および先使用の抗弁の成否について問うた。
<講評>
Ⅰ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ。論述式について。
問題1では、「上映権の制限(=著作権の制限)」という著作権法の基本用語を正反対に解している答案がかなりあり、驚きました。上映権等の著作権は、著作物を著作権者以外の者が利用することを禁止する権利です。ですので、「著作権の制限」とは、他人に利用を禁止する権利が制限されることであり、その結果、他人は自由に著作物を利用することができます。本問でいえば、上映権が制限される場合は、福祉施設において自由に(上映権侵害にあたらずに)上映することができます。
ところが、「上映権の制限」を、上映の制限=禁止と受け取ったのか、非営利等の要件を満たすと「上映権は制限されない」と書いた答案が相当数みられました。上映権=著作権を有している者は誰かを考えれば、このような誤解は生じないはずです。間違えた人は、著作権という権利の内容と、「著作権の制限」の意味を、よく見直しておいてください。
なお、非営利行為に対する上映権の制限の要件として、「非営利目的」と「無料(聴衆・観衆から料金を受けない)」は別の要件であり、これら双方を満たす必要があります。授業でも強調しましたが、これらを同一の要件のように書いてはいけません。
問題2では、特許権侵害が成立するための要件を整理したうえで、特許発明を家庭内で実施する行為が「業として」の要件を満たすかどうかを検討できている答案が数多くみられた点は、良かったと思います。他方で、一部の答案では、単に家庭内での実施だから特許権侵害は成立しないとのみ書いてあるものもみられました。授業で話したように、特許権の侵害にあたるかどうかの判断は、原則、特許法の条文の定めに基づいて行われます。そのため、まずは条文に定められている特許権侵害の成立要件を確認し、その上で本件の事実関係(e.g. 家庭内での実施)がそれらの要件を満たすかどうかを確認する、というプロセスで考えるようにすると、特許法の理解がより深まるように思います。
特許法79条の先使用権の成否については、条文の規定が少し複雑で心配していましたが、比較的多くの答案が書けていたように思います。授業では十分に時間をかけて説明することができなかった箇所でもありますので、書けた人も書けなかった人も、もう一度、レジュメと条文を確認しておいてください。
2014
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。 論述式 2題
問題1は、①手紙の著作物性、②著作者の死後における公表権侵害の成否、③著作者の死後における故人の人格的利益の保護について問うた。
問題2は、職務発明に関する事例に基づいて、①「職務発明」の定義、②職務発明の特許を受ける権利の予約承継、③特許を受ける権利の承継に対する相当の対価の判断方法についての基本を問うた。
<<講評>>
Ⅰ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ。論述式について。
問題1では、(1)の手紙の著作物性はよく書けていました。一方、(2)(3)は、それぞれ公表権の法的性質(一身専属性、著作権法59条)と、著作者の死後における人格的利益の保護(60条)について、順に答えてほしかったのですが、この点の出題意図が伝わっていない答案が多くみられました。
公表権(18条1項)は、著作者人格権の1つです。著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であるため、著作者の死亡とともに消滅します(59条)。したがって、著作者の死後は公表権の侵害は成立しません。(2)では、この点をしっかりと書いてほしかったです。しかし、「公表権の保護は著作者の死後50年間存続するため、著作者の死後にも公表権侵害が成立する」と書いている答案が散見されました。これは間違いです。こうした答案は、著作権(21条~28条)の存続期間と、著作者人格権(18条~20条)の存続期間の区別ができていません。著作権は、原則として著作者の死後50年が経過するまで存続しますが(51条2項)、著作者人格権は、上記のとおり著作者の死亡とともに消滅します。
著作者の死後における人格的利益の保護(60条)については、授業のなかで質問を受けたので、東京地判平成11.10.18判時1697号114頁「三島由紀夫書簡」を取り上げながら説明をし、その補足資料もアップしました(第5回補足資料)。(3)では、この60条について書いてほしかったです。具体的には、Aは死亡したのでAの公表権侵害(18条1項違反)は成立しないけれども(これは大前提)、もしAがまだ生きていたと仮定すれば、Bの行為はAの公表権の侵害となることが明らかな態様の行為かどうか(60条違反の有無)を検討してほしかったです。この点、問題文にAの署名の話が書いてあったためか、氏名表示権侵害(19条1項違反)の有無について書いている答案も多くみられました。氏名表示権について検討すること自体は間違いではありません。しかし、その場合でも、氏名表示権は著作者人格権の1つですので、Aの死亡とともに消滅し(59条)、Aの死後には氏名表示権の侵害は成立しない、ということが大前提となります(この点は(2)と同様)。この前提理解が間違っている答案は得点になりませんので、注意してください。
問題2では、職務発明制度の基本を問いましたので、よく勉強した人にとっては易しかったようで、結論や大まかなところでは、正しく答えていた人が多かったです。しかし、理由付け等では、ポイントを外している答案も多く見られました。
また、問題文をきちんと読んでいない答案も見られました。たとえば、「職務発明とは」という問題に、「職務発明制度」について長々と説明した解答は、問題に正しく答えたとはいえません。まず、何を聞かれているのかを正確に理解してから答えましょう。
2013
出題意図
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 35題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。 論述式 2題
問題1は、翻案権および公衆送信権の侵害が問題になる事例において、著作物とは、思想または感情の創作的表現であるから、既存の著作物の中の事実やアイデアのみを利用しても、著作物の利用とはいえず、著作権侵害にはあたらない、という論点について問うた。
問題2は、①物を生産する方法の発明についての特許権は、その方法の使用およびその方法により生産した物の譲渡、使用等に及ぶこと、②どのような行為につき試験又は研究のための特許発明の実施に該当するか、について問うた。
講評
Ⅰ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅱ。論述式について。
問題1で問うているのは、「Yの反論」です。これを論ずるときの方法として、「著作権法の考え方とその当てはめに分けなさい」と指示しているのです。この題意を理解せず、一般的に「著作権法の考え方」の「そもそも論」を展開した答案が多くて驚きました。試験では、まず何が問われているのかを読み取り、問われたことに答えることが基本です。問と無関係に、勉強してきたことをとにかく書いたのでは、全く得点になりませんので、注意してください。
また、「引用」や「私的使用目的」など、本問の事案では全く問題にならない論点を、長々と論じた答案も多くてびっくりしました。当然のことながら、事例問題においては、あくまでも事例に則した論点を問うています。本問の事例は、授業の第4回で扱った「江差追分」事件最判平成13年6月28日(民集55・4・837、判時1754号144頁)の事案の一部をそのまま使用したもので、授業で添付資料も配布して解説しましたから、授業にきちんと出席して勉強していた人には、易しかったはずです。
なお、「事実及びアイデアのみ」であるのは、ナレーションの(イ)が著書の(ア)の中から利用した部分のことです。(ア)の文章自体が事実及びアイデアのみであって(ア)は著作物ではない、と書いた答案がありましたが、それは間違いです。
問題2では、特許法ではどのような行為を行うと特許権の侵害となるのかという侵害成立要件や、どのような行為については特許権の効力が及ばないのかという権利制限規定の要件を書いた上で、乙と丁の行為について、丁寧に当てはめの検討を行うなど、良く書けている答案も少なからずありました。他方で、問題文を写しているにすぎない答案も多く見られました。例えば、「乙社は、特許権Pに基づいて製造し、販売しているから、侵害。」「丁社は、特許発明αの新規性や進歩性を調査する目的で製造しているから、非侵害。」といった答案です。本問では、この場合に、なぜ特許法上侵害・非侵害となるのか、の理由を問うています。問題文を写すだけでは、答えになりませんので、注意してください。
2012
出題意図
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 50題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。マークシート方式 穴埋め問題 2題(各5語)
①は著作権法上の創作者主義の原則、および著作権と著作者人格権の異同について、②は渉外的要素を有する特許侵害(国際私法との関係)、および特許要件について、基本的な用語の意味を問う問題。
Ⅲ。 論述式 2題
問題1は、他人の講演を無断で録音し、講演録を作成し、講演録を100名に配布する行為について、著作権の侵害が成立するかどうかを問う問題。著作権侵害の成立要件について理解しているかどうか、要件のあてはめを適切に行うことができるかどうかを問うた。
問題2は、生産方法の発明についての特許権は、その方法により生産した物の使用、譲渡等に及ぶこと、この場合の生産物は直接生産物に限られることがポイントであり、これを具体的な事例にあてはめることと併せて問うた。
講評
Ⅰ。Ⅱ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅲ。論述式について。
問題1では、丁寧に解答すべきは、Bの行為の支分権該当性と権利制限事由(私的複製)該当性の2点です。問題となるBの行為のうち、3つともすべて挙げ、問題となる支分権を正確に書けている答案もありましたが、他方で、単に「録音行為、配布行為は法定の利用行為にあたる/著作権侵害にあたる」とのみ書いて終わっている答案も目立ちました。これだと、具体的な支分権の内容が分かっているのかどうか伝わらず、得点になりません(少なくとも減点の対象となります)ので、「複製行為」「譲渡行為」という法律用語を正確に書くようにして下さい。次に、権利制限事由については、Bの行為が非営利だから非侵害と書いている答案が散見されました。確かに、著作権法38条は、営利を目的としない著作物の利用行為について権利制限事由を規定していますが、授業で説明したように、38条の適用を受ける支分権の対象は限定されており、21条の複製行為や26条の2の譲渡行為はそこに含まれていません。「非営利だから非侵害」と感覚で考えるのではなく、著作権法の条文をしっかり読んで復習するようにして下さい。
問題2では、生産方法の発明の実施に生産物の使用等が含まれることと、その生産物は直接生産物に限ることについては、授業における「本日の問題」でも採り上げた論点でもあったので、理解できている人が多かったようでした。ところが、丙が直接生産物である小麦粉を使用してパンを製造する行為が、直接生産物の使用として侵害に当たることを理解していない答案が目立ちました。「使用」という言葉だけ覚えるのではなく、その具体的な内容まで理解してください。
2011
出題意図
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 50題
「本日の問題」をはじめ毎回の授業で解説した問題の応用問題を通して,各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。マークシート方式 穴埋め問題 2題(各5語)
①は著作権法上の制限規定について,②は特許要件および特許権の効力について,基本的な用語の意味を問う問題。極めて初歩的な用語ばかりを問うた。
Ⅲ。 論述式 2題
問題1は,他人の俳句を無断で複製して複製物を販売する行為,及び,関西では周知となっている他人の商品の商品名と同一の表示を無断で自己の商品に使用して大阪で販売する行為について,著作権侵害および不正競争防止法違反がそれぞれ成立するかどうかを問う問題。問題2は,他人の特許発明を業として実施する行為が,当該特許発明の技術的効果を確認するための調査を意図したものである場合に,特許権侵害が成立するかどうかを問う問題。問題1.2.とも,権利侵害等の成立要件について理解しているかどうか,要件の当てはめを適切に行うことができるかどうかを問う出題であった。
講評
Ⅰ。Ⅱ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので,授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅲ。論述式について。
問題1では,問題文は,「なしうる主張を,すべて挙げて」と聞いているのですから,著作権侵害と不正競争の両者を書かなければなりません。著作権侵害について,「俳句イを利用(使用)しているので著作権侵害にあたる」という答案が多かったですが,著作物の利用行為のすべてが侵害になるわけではありません。「複製」「譲渡」という支分権にあたる行為を明記してください。また,不正競争防止法2条1項1号は,同一又は類似の「商品等表示」の使用が不正競争にあたる場合です。漠然と「商品が同一又は類似」と書いている答案が目に付きましたが,間違いです。なお,答案のなかには,商標権侵害の主張について書いている人もいましたが,問題文に「ここに書かれていない事実は一切考慮しないこと」という注意書きがあり,問題文に商標登録の事実についての記述はないわけですから,問題文にはない事実を前提として解答することは厳に慎むべきです。
問題2では,結論自体は多くの人が正しく書けていましたが,その結論に辿りつくまでの過程の記述や理由づけの記述を正確に書けていた人はそれほど多くありませんでした。特に,問題文の記述をそのまま書き写して理由づけとしている答案が多かった点が気になりました。例えば,「乙社は調査を目的として乾燥機を生産しているので,特許権侵害とはならない。」といった答案です。これは正確な理由付けとはいえません。正当な権原なく,他人の特許発明を業として実施する場合において特許権侵害の成立が否定されるのは,基本的に当該行為が特許法上の制限規定に該当する場合でした。そして,そうした制限規定の一つが特許法69条1項(試験又は研究のためにする特許発明の実施)であったわけです。このように,試験又は研究のための実施を理由として特許権の効力が及ばないのは,特許法69条1項に明文規定があることが根拠なわけですが,法目的や解釈などからこれが導かれるという書き方をしている答案が多く,これは間違いですので正確に理解してください。
2010
出題意図
Ⅰ。マークシート方式 正誤問題 50題
毎回の授業で解説した「本日の問題」の応用問題を通して,各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ。マークシート方式 穴埋め問題 2題(各5語)
①は著作権法上の著作者について,②は職務発明の法的効果について,基本的な用語の意味を問う問題。極めて初歩的な用語ばかりを問うた
Ⅲ。 論述式 1題(小問2問)
発明の技術内容を解説する書籍に依拠してアイディアを利用する行為,及び特許発明を業として実施する行為について,著作権と特許権の侵害がそれぞれ成立するかどうかを問う問題。権利侵害の成立要件について理解しているかどうか,要件の当てはめを適切に行うことができるかどうかを問う出題であった。
講評
Ⅰ。Ⅱ。マークシート方式については,授業で解説した基本的な問題ですので,授業に出席していた人にとっては比較的易しかったようです。
Ⅲ。論述式について。著作権法の問題では,「Cは書籍ロに依拠しているから侵害」「Cは100人に配布しているから侵害」という解答が多く見られたのが,気になりました。著作権侵害が成立するためには,原告記載の著作物性,被告の依拠性,類似性,法定の利用行為の要件を全て充足する必要があります。次に特許法の問題では,「発明イを用いた農薬を作成する行為は特許権侵害に当たるが,水田に使用する行為は侵害に当たらない」という解答が多く見られたのが,気になりました。
2009
出題意図
Ⅰ.マークシート方式 正誤問題 50題
毎回の授業で解説した「本日の問題」の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ.マークシート方式 穴埋め問題 2題(各5語)
①は著作権法上の権利について、②は特許を受けるための要件について、基本的な用語の意味を問う問題。極めて初歩的な用語ばかりを問うた。
Ⅲ. 論述式 1題
キャラクターの保護を問う問題。著作権法では、抽象的な概念としてのキャラクターは、著作物に該当しないとして保護しないこと、商標法で保護されるためにはどうすればよいか、不正競争防止法で保護されるのはどのような場合かについての理解を問う問題である。
講評
Ⅰ.Ⅱ.マークシート方式については、授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては易しかったようです。
Ⅲ.論述式については、勉強した人とそうでない人の差がよく表れていました。勉強したと思われる人にもよく見られた間違いは、本件小説が著名だから、即、不正競争防止法上の周知性も認められるとしているものです。小説として著名であることと、「商品等表示として」周知であることは全く別問題です。不正競争防止法の趣旨をよく理解してください。全般に言えることは、キーワードを単に暗記するのでは意味がないということです。なぜそうなのかという理由をしっかり理解する学習習慣を身につけてほしいと思います。解答・解説・講評・採点結果を e-class に掲載していますので、受講者は必ずそちらを見て、誤解をそのままにしないでください。
2008
出題意図
Ⅰ マークシート方式 正誤問題 60題
毎回の授業で解説した「本日の問題」の応用問題を通して、各回で勉強した基本的な論点を理解しているかどうかを問う問題。授業の全ての回からまんべんなく出題した。
Ⅱ マークシート方式 穴埋め問題 2題(各5語)
職務発明および職務著作について、基本的な用語の意味を問う問題。極めて初歩的な用語ばかりを問うた。
Ⅲ 論述式 1題
物のパブリシティの権利が認められるかどうかを問う問題。競走馬パブリシティに関する最高裁判決の事例を出題した。パブリシティ権とは何か、知的財産権の制度はどのようなものかについて理解しているかどうかを見る意図であった。
講評
Ⅰ、Ⅱ マークシート方式については、授業で解説した基本的な問題ですので、授業に出席していた人にとっては易しかったようです。
Ⅲ 論述式については、非常によく勉強した人、そこそこは勉強した人、全く勉強しなかった人、ということが、それぞれありありと分かる答案で、よい問題であったと思いました。しかし、「そこそこ勉強した人」の答案の中に、キーワードは書かれているものの、その意味を誤解している解答がかなり見られたのが、気になりました。「馬は物だからパブリシティ権が認められない」という時、その理由は、馬が権利主体になれないということではありません。問題文にも、「馬主が」請求できるかどうかを問うている旨、明記してあります。