公認イマジナリーフレンド
あの奇術は暫定魔法と呼ぶ事にした。その方が収まりがいいだろう、語感にもしっくりくる。
それで早速魔法習得に取り掛かろうとした私だったが、最初から躓いた。
当たり前だ、指の一つも動かせないのにどうしろと。そもそも指があるかどうかすらも分からんというに…
……まだ詰んでいない
希望ははすぐそこに掲げられているじゃないか
力が必要なんだ、分かるだろう検体077?
お前はこの試験管の中でプカプカと一生を終えるつもりか?
諦めはそれ即ち敗北
見ろ、あのタウルの姿を。
私をこのザマに陥れたあんちくしょうは今もマグ片手に悠々と日常を過ごしているのだ。
「これより検体QRS-or077の魂殻の定期検査を開始する」
「時刻18:15。第10回魂殻検査の記録を開始」
なんで俺はこんなにも辛いのに
「アンクペタル波観測は」
「進んでいます」
「ならそのまま継続してくれ。先に干渉領域の成長率も測ってしまおうか」
「了解です博士」
なんで俺はこんなにも苦しいのに
「あれ………おかしいな…?なんだこれ」
「どうしたウートル君、また機材の不調か?」
「いや…多分違いますけど……う〜ん、僕にはちょっと分かんないんでデータ送りますね、博士」
「はっきり言い給えよ、歯がゆいな」
元凶のお前が何故のうのうと生きている
「………うん???なんだいこれは?本当に機器の故障ではないのかい、ウードル君?」
「メンテ仕立ての奴ですからね、それは無いかと。あとウートルです」
「いや、だとしたら余計分からないよこれは。どうなってるんだい?ーー
観察するのだ
お得意の物体浮遊術を俺に、私に見せてみろ
ーー魂殻が二つあるなんて」
ほら、はやく見せてみろ
もしくはマジックのタネ明かしでも良いぞ
「それって双子みたいなもんですかね?」
「何を馬鹿な事を言っている。それでもこのタウル博士の助手か貴様はぁ!このっこのっ」
「ちょっ痛い、痛いって!冗談ですよ博士!一つの体に魂が二つある異常性くらい普通に気付いてますって!」
ほぅ、タブレットを浮かせたか
この頭は妙に物覚えがいいからな
その手の動き、逐一記憶しているぞ
「全く……そう、魂殻が二つあるなんて本来ことは本来あり得ないことなんだ。二重人格だとかの単なる脳機能の異常とは訳が違う、正真正銘の異常。一つの命に二つの命が宿っている事に等しい訳だよ、分かるかねウードン君?この検査結果が正しいならだよ?
検体077は!存在そのものが!矛盾を表しているんだ!」
「ウートルです博士」
ガラスを叩いて熱弁するな、鬱陶しい。
可愛い我が子を大切に扱おうと言う気持ちが無いのか、クソアマ
「これは要研究だねぇ、管理場所も変更だ。より厳重に保管しなくちゃ…………ムートン君、検体QRS-or077はB5層からB9層に移動のこと」
「ウートルね」
「製造時は確かに魂殻は一つだった…分裂でもしたか?いや、魂殻は細胞じゃないんだ、そんな挙動できるはずが……だが解明できれば…………」
本人の同意無くお引越しが決定していた。
なにやらブツブツ呟く不審者じみた博士と、不満気な顔をした助手が機材を持って視界からフェードアウトしていったのを見送る。
結局魔法について、今回ほとんど新しい収穫は無かった。発光する手の秘密も未だ分からず、無い無い尽くしの未知だらけ。
魔法習得への道のりは長い。
が、その代わり少し興味深い話も聞けたぞ。
どうも私は今シェアハウスに居るらしい。
同居人の声も聞きたいものだ。