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よいこのマジキチ短編集

アリスは君に恋をした

作者: 佐藤悪糖

「トレイシーからの手紙」


 やあメイファーリン。お元気かい? 僕だよ、トレイシーだ。

 こうして君に手紙を送るには深い深い事情があるんだ。でもね、かくいう僕も多忙の身で、そうそう長くも語れない。

 手早く行こう。お互いに時間が無いのは同じだろう? もっとも、僕の方は君が思っているより時間がないかもしれないけどね。


 そちらの様子はどうだい? 僕と同じく忙しい身だとは思うけど、できれば君が少しでも緩やかな時間を過ごせていることを祈るよ。

 そもそも君は働きすぎだ。そんなに働いてばかりだと、君は歯車になってしまう。それも上から二番目のとびきり上等なやつにね。少し強引だったかな?

 多少の無礼は許してくれよ。なにせ僕には時間がない。最近は目まぐるしいことばかりで参っちゃうよ。

 なんたって、アリスは僕に恋をしたのだから。



「メイファーリンからの手紙」


 私だ。お前からの手紙を受け取って、すぐにこれを書いている。これで三通目だ。今度こそお前のもとに届けば良いのだが。

 災難だったようだな。だがお前のことだ、文面ではそう言いつつもさぞかし息災であるだろう。またお前のギクシャクしたコサックダンスを見せられるのかと思うと、今から頭が痛い。

 時間が無いんだったな。手短にやろう。用件は分かっているな?

 アリスのことだ。



「トレイシーからの手紙」


 やあメイファーリン。拙速を尊ぶ君にしては随分と遅かったようだね。でも、手遅れではないよ。そこは喜んでくれ。

 僕の自慢のコサックダンスを所望だそうだけど、残念ながらそれはもう叶いそうにない。アリスと遊んでいる時に足をくじいてしまってね。

 アリスの様子は落ち着いてるよ。今のところは、だけどね。今日も僕の膝下で寝息を立てている。こうしてみると可愛いものだよ。


 可愛いと言えば、この前街で猫を見たんだ。猫だよ、猫。信じられるかい? 街中に猫がいたんだ。

 すぐに手を伸ばそうとしたけど、怯えてしまったのか逃げてしまった。ニャンてこったい。どうやら僕は動物には嫌われるらしい。

 知らなかったよ。でも助かった。あれが近寄ってきたらと思うと、いくら僕でもゾッとするね。

 アリスは元気だ。今日も僕に恋してる。



「メイファーリンからの手紙」


 まずは手紙がちゃんと届いたようで安心した。仕方ないとは言え、お前の居場所は分かりづらい。

 こちらはようやく落ち着いたところだ。少しなら手も離せるだろう。近いうちに会いに行く。

 そちらには猫がいるのか。お前がこうして取り上げるのだから、さぞかし珍しい猫なのだろう。見かけたら世話しておこう。

 では、旅支度をするとしよう。眠っているアリスを起こさないよう、コーヒーでも飲みながら待っていてくれ。



「トレイシーからの手紙」


 やあメイファーリン。君が飲めと言うからコーヒーに手を出したよ。これは本当に嫌なものだね。目覚めた時に君が側に居なくて本当に良かったよ。きっと笑われてしまうだろう。

 ああ、でもきっと飲まないほうが辛いんだろうね。これを書き終えたらもう一杯ひっかけるとするよ。変なところに出くわしたとしても、どうか笑わないでくれよ。

 それと猫には手を出さないほうが良い。いくら君でもね。あれはとてもじゃないけど手懐けられるようなもんじゃない。

 直接的な物言いが増えてきてごめん。頭が上手く回らないんだ。もうこれ以上は書かないほうがいいだろう。


 最後にひとつだけ。

 アリスが起きた。アリスは僕に恋してる。



「メイファーリンからの手紙」


 すぐに向かう。



「トレイシーからの手紙」


 やあメイファーリン。随分と焦っているようじゃないか。いつもは仏頂面な君も、たまには顔色を変えるのかな? 今の君の顔、是非とも見てみたかったよ。

 時間が無いって話だったけど、時間ならできたんだ。たった今ね。だから急がなくて良いって伝えたかったんだけど、それはできそうにないや。

 時間というのは通貨のような役割も持つと思うんだ。希少な時間、貴重な時間。それを手に入れるためには何かを売らないといけない。

 そうとも。見ての通り、君との語らいがしたくて売ってしまったのさ。おかげでこの手紙を送ることはできそうにない。だからこれはここに置いておくよ。いつか、君が僕に会いに来た時のためにね。


 それとメイファーリン。ひとつだけ伝えておかないといけないことがある。もう手遅れだったとしてもね。

 すぐに逃げろ。アリスに記憶を見られた。君が来ることを、知られてしまった。


 アリスは君に恋をした。

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