90話 最強のスキル
みんなが俺のスキルアップグレードの為に戦っている中、俺は全力でハイドラの攻撃パターンを覚えようとしていた。
ハイドラ自体が大きいお陰か、少し離れているこの距離からでも充分攻撃パターンを見ることは出来た。
「あと1分か……」
戦っているみんなのHPは既に黄色にまで到達している。
さすがに一歩間違えたら死ぬ戦いで、回復する隙なんてないのだ。
「まだか、まだか、まだなのか!!」
すぐにでも俺は助けに入りたい。
例え、このスキルを持ってしても役に立てるかはわからないが、みんなの回復する時間ぐらいなら稼げるかもしれない。
『固有スキル、アップグレード完了しました』
俺は立ち上がりハイドラへと走り出した。
だが遅かった。俺が走る横をまずダンテが吹き飛んできた。
どうやら大盾で防ぎきれなかったようだ。
そして、同じ場所にクウガも吹き飛んできてダンテに衝突していた。
「……くっ、まさか私が吹き飛ばされるとは……」
「いってぇ……おっと、支えてくれてさんきゅーな」
「お前が私のところに吹き飛んできただけだがな。意図していなかったことだ、礼などいらん」
「大丈夫か? 二人とも」
初めてダンテがモンスターに吹き飛ばされるのを見た気がした。
やはり、無敵と称されるダンテでも9つの首を持つ相手に数人程度で挑んだら厳しいのだろう。
「どうやら戦えるようになった様だな。あとは任せたぞ。私の盾はもうダメなようだ」
ダンテが大盾を取り出すと、その瞬間に大盾は光だし、エフェクトとなって砕けてしまった。
モンスターの攻撃を耐えすぎたのだろう。
「クウガも、無理そうだな……」
「あははっ。ごめん。俺も頑張ったんだけどな」
クウガはどうやら身体的にダメなようだった。
明らかに疲労が見えるし、傷も増えている。
回復薬を使ったとしても、疲労がさらに蓄積して最悪死ぬかもしれない。
今は戦闘に参加させない方がいいだろう。
「今、戦えるのは俺だけか」
シズクやクウガの仲間たちもハイドラにやられていた。
だが、幸いなのがハイドラの首が9つから7つになっている事だ。
一人でどの程度戦えるか分からないが、今はやるしかないだろう。
「───クウガ。お前の武器を貸してくれねえか?」
「ん? お、おう。別に大丈夫だが、まさか二刀流にする気か?」
「今は手数が欲しいからな。無理してでもやってみるよ」
「エンマ。無理して死ぬなよ? 悲しむやつは居るんだからな」
「あぁ。大丈夫だよ」
俺はクウガから剣を借り、左手に持った。
ずっしりとした重さがある剣だ。
俺の元々持っている剣は切れ味に重視し、重さはあまりない。
片方に偏っているが、今は武器の質にこだわっている暇なんてない。
「よし。やるか!!」
「エンマ!!! 少しの間頼むわよ!!」
シズクが遠くから俺へと声を掛けた。
「あなたの剣に力を与えとくわ!!」
俺の剣へとシズクが魔法を付呪させる。
それにより、俺の両手にある剣は炎に包まれ揺らめいていた。
「それじゃ、ちょっと頑張るわ!」
俺がハイドラへと走ると、ハイドラの敵意は俺へと向かってきた。
俺の武器を見て近くに寄らせないと思ったのか、7つの首を使い、叩きつけや横薙ぎに攻撃をしてくる。
叩きつけは地面が抉れるほどの威力のようだ。
だが、当たらなければ問題はない。
「もう覚えてんだよ!!」
相手の攻撃に合わせ、ジャンプしハイドラの首へと飛び乗る。
あとはその上を走り抜け、攻撃をするだけだ。
「……ちっ。そう簡単にはいかねえか」
「キシャァァァァァァ!!!!!」
自分の首をどうとも思っていないのか、俺が乗っている首へと思いっきり攻撃を仕掛けてきた。
首に乗られたことにムカついたのか、ハイドラは激しい雄叫びをあげながら、怒り狂い、暴れながらこちらへと近付いてきていた。
まぁ、ここまでは予想範囲内だ。
「ふぅ。体も動けるようになったな。そろそろやってみるか。『アンリミテッド・ブレイド!!』」
ハイドラの攻撃パターンは大体覚えている。
今の俺なら殺れる筈だ。
いや、ここで殺れなきゃダメなんだ。
サウザントスラッシュが強化されたスキル。
攻撃範囲が相手全体となり、そして、俺の剣に応じて斬撃の量が増えていく。
だが、まだ相手のHPは9本のゲージのうちあと7本ある。
二刀流している事により、斬撃は2倍だが、その分疲労も大きく、体への負担も倍以上だ。
「くっ……ってぇ……でも負けれねえんだよ!!」
「キシャァァァァァァ!!!!! 」
ハイドラは俺の攻撃を受けながら俺へと攻撃を繰り出してきている。
だが、ギリギリでハイドラの攻撃をかわしつつ、カウンターのように攻撃を繰り出す。
掠ったりしてダメージが蓄積するが、俺の攻撃は止まらない。
俺の動きが止まらない限り、俺の固有スキルも止まらなかった。
ついに相手の標的は完全に俺一人となり、みんなへの危険はないも同然だった。
もう誰にも傷は負わせない。
今動ける俺とこいつの一騎打ちだ。
死ぬか生きるか、俺の体力が持つかどうかは分からない。
でも、どうしてだろう。
今の俺ならハイドラに勝てる気がしていた。




