88話 欲望の代償
マップデータを参考に、90階層を進んでいく攻略者総勢66人。
雑魚モンスターが幾度となく現れるが、なんとか誰一人として死人は居なく、怪我をする者も出なかった。
だが、やはり数が多いからか、ラストアタックボーナスや、ファーストアタックボーナスをモンスターから奪おうとする人が多い。
その為か、言い争いや、喧嘩が多くなり、ボス前というのにみんなの仲は悪くなっていくばかりだった。
俺やクウガ達が一番後ろを歩いている。
そこから見る、みんなの喧嘩している光景やモンスターを取り合っている様子から、これが人間の欲望なんだと実感してしまった。
「こんなに人数いるとみんな強気だなぁ……」
「そうね。私もこんなにこの人達が欲望まみれだとは思わなかったわ」
クウガ達はクウガ達で雑談を広げながら話していた。
まぁ、確かに俺達がいる一番後ろまではモンスターは一切来ていない。
安心して話しているのも無理はないだろう。
「よし! ここがボス部屋のようだ!! これより、ボスを討伐する!!! 私からは一言しか言わん!!」
『死ぬな!!!!』
攻略ギルドリーダーがみんなへと聞こえる声で叫んだ。
今この場にいる中で、最も人望が厚いのはこの人かもしれない。
いや、間違いなくこの人だろう。
この人の言葉でみんなの緊張感が増し、誰一人として喋ることさえなくなった。
静寂を訪れさせたのだ。
「それでは行くとしよう」
ギルドリーダーが扉を開け、中を確認する。
辺りはまだ暗いが、俺達が徐々に入っていき、奥へと進み始めると周りから明かりが灯され始めた。
「こいつがボスか……各自念の為転移石の準備を!!」
「「「了解!!」」」
明かりが灯され、全貌が確認できた時に初めてボスを見ることが出来た。
そして、その直後に俺は鑑定を発動し、ボスの情報を入手した。
と言っても、仕様なのか分からないが、ボスへの鑑定は効くが、ほとんど情報は見れないのだ。精々名前と、HPぐらい。後はこちらから弱らせた時には全てが見える時もある。
だから、最初の鑑定なんて名前を見るために使ったくらいだ。
『アーク・ハイドラ』
HP:18000
やはり名前とHPしか表示されなかった。
だが、それだけで充分だ。
ボスであるハイドラは9本の首に対し、HPバーも9本ある。
一つの首のHPが2000という所だろう。
そして、俺がその情報をギルドリーダーへと伝えようとした時、俺の横を三人の男が駆け抜けて行った。
「こんなやつがボスかよ!俺でも余裕だぜ!!」
「てめえにボーナスは渡さねえよ!!」
「どけよ! ファーストアタックは俺のもんだ!!」
無謀にも、三人が言い争いをしながらハイドラへと向かっていった。
もちろん、ハイドラはその三人に気付き、迎撃する。
そして、その迎撃方法に俺たちは驚きを覚えた。
「防御班!! シールドの準備を!!!」
ハイドラは口に炎を溜めていた。
そして、その炎は三人の直線上に居る俺たちにまで到達するだろう。
ギルドリーダーは事前に決めていた防御班を前に出し、大盾を構えさせる。
「「「大盾スキル! 『フレイムシールド!』」」」
大盾に炎の力を纏わせ、相手の炎を防ぐ。
だが、我先にと飛び出していった三人を救うものは居なかった。
俺達もさすがに自殺行為をする訳には行かない。
「うわぁぁぁぁ!!」
「助けてくれー!!!」
「嫌だぁぁ死にたくねぇ!!!」
こいつらが叫ぶと同時に、俺たちの中から一人の大盾が飛び出した。
そして、その瞬間にハイドラの口から炎が放たれる。
「固有スキル!!『シールドオブゴッド!!』」
こちらへと転びそうになりながらも走ってくる三人の前に立ち、炎をギリギリで防ぐ。
固有スキルのお陰なのか、完全に炎を一人で防いでいた。
その勇姿に誰しもが魅入ってしまっている。
「……はぁはぁ。危なかった……」
炎を防ぎきり、男は俺たちの元へと戻ろうとしていた。
こういう人のことを英雄と呼ぶのが相応しいのかもしれない。
我が身を顧みずに、仲間を助けるこの男が。
「おい!!! まだ油断をするな!!」
だが、俺は攻略班のリーダーであるこいつの背後にハイドラの首が迫ってきているのが見えていた。
ハイドラは炎を防がれ、完全に怒っている様だった。
「くそっ……俺としたことが、ついつい浮かれちまってたな……」
俺はこの男に昔助言をされた。
その助言の借りを返す為、いや、犠牲者を出さない為にも、俺の体はこいつを守ろうと、こいつへの攻撃を防ごうと走り出している。
だけど、俺の足じゃ間に合わなかった。
あと数歩先。
俺がもう少し、いや、この中の誰かがもう少し早くハイドラの攻撃に気付いて、声を掛ければ間に合ったかもしれない。
攻略班のリーダーは欲望まみれの三人を護り、俺たちの前で9つの首に噛まれ、死んでいった。