86話 終止符
クウガ達が今居る部屋に俺が入った時、妙な違和感を感じた。
まず、あの部屋はどこかしらの上から見えるのだ。
上から監視できるようになっている。
例えば、あの部屋付近に階段のようなものがあり、洗脳している敵がずっと見ていると仮定することもできるだろう。
そして、多分最も敵がいる可能性が高いのは今俺が考えている場所だろう。
とにかく、今やるべき事はあの部屋を見下ろせる場所を探す事だろう。
「シズク! あの部屋周辺で階段かもしくは、上に上がれそうな坂を見つけてくれ! 」
「分かったわ!」
この階層にモンスターが出ないことを利用し、二手に分かれて探すことにした。
なにかあればフレンド機能を使って、連絡するように……待てよ? 確か俺はヒマワリともフレンドのはずだよな……
「……やっぱりそう簡単にはいかねえよな」
シズクが走っていく中、俺は一度立ち止まり、フレンドリストを見る。
未だ数少ないフレンドの中に今までは居たはずのヒマワリが居なくなっていた。
まぁさすがに俺たちの前から居なくなる時にフレンド解除をしたのだろう。
「よっし! とりあえず探すか!!」
まぁ端からこのフレンド機能に期待なんてしてなかった。
一瞬もしかしたらと思っただけだ。
シズクが先に探している中、俺だけ立ち止まっているわけにはいかない。
それから、俺は部屋の周りから少し離れた所までくまなく探した。
だが、ずっと平坦な道が続き、坂なんてもちろん、階段なんてものもなかった。
実はあの部屋を見下ろせるのは80階層なのかもと思った瞬間だった。
俺の目の前に『メッセージが届きました』の文字が現れた。
一瞬の希望が俺の中に芽生えた。
だが、希望なんてすぐに砕かれてしまった。
『こっちの方にも階段なんてなかったわ。一旦最初に居たところに戻るわね』
やっぱり上の階層に行かなければ上から見下ろせるないのか?
まだそこにいるかも分からないのに?
「俺も戻らねえとな」
今はひとまずシズクと合流して探していないところを探さないといけない。
といっても、あの部屋周辺は大体探したし……いや、探していないところが一箇所あるな。
急いでいたせいか気付かなかったぞ。
「エンマ! あなたからメッセージが帰ってこないから心配したのよ? 貴方なら進む道を見つけたら突っ走りそうだし」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しながらここまで来たんだよ」
それから俺は、シズクに唯一探していない所を話した。
都合が良すぎるのか、今思えばあの部屋の周りに坂のような階段があったような気がしなくもなかった。
「そうね。一度行ってみましょ。少しの可能性にも賭けるべきだわ」
「それもそうだな。行ってみるか」
そうして、俺とシズクはクウガ達の居る部屋付近まで近づき、くまなく探した。
だがやはり見つからない。
俺のあったような気がするなんて所詮はよく出来た妄想に過ぎなかったのだ。
「あれ? 待てよ? この扉の向こう側に……」
少しだけ違和感があった。
開いている扉の向こう側に曲がり角があることに気付いた。
「ちょっと行ってみるわ」
「頼むわね」
扉の前を走り抜け、一瞬クウガ達を見る。
どうやらまだ戦っているようだ。
そして、俺は曲がり角へと到達し、その先になにがあるのかを確認した。
「シズク。ちょっと来てくれ」
小声と手招きでシズクをこちらへと引き寄せる。
「なによ。なにか見つけたの?」
「なぁ、これって階段だよな?」
俺の言葉に驚きつつも、シズクは曲がり角から覗く。
「そ、そうね。階段かはわからないけど、上には繋がってそうね」
「よし! んじゃ行くか!」
「ちょっと、あんまり大声出さないの」
シズクに怒られつつ、俺は階段に見えなくもない道を登っていった。
少しだけ長い。
2分程度登っただろうか、ようやく一番上まで辿り着く事が出来た。
そこは、やはりクウガ達の居る部屋を真上から見下ろせる小さな空間だった。
周りは暗い。かろうじて近くにいるシズクが見える程度の暗さだ。
そんな暗い中、俺たちの前に何者かが二人居ることに気付いた。
「どうやらエンマの推理が当たったみたいね」
「あぁ。あとは話を聞くだけだな」
まだ洗脳した犯人とは限らない。
だけど、その可能性は高いだろう。
ここからずっと見ているなんて怪しいにも程がある。
「なぁ、お前らそこでなにしてんだ?」
「怪しい行動は取らない方がいいわよ?」
俺とシズクが警戒しながら近付く。
やがて、二人の人物の顔はより鮮明に見えてきていた。
「……天使と───ヒマワリか」
こんな結末は嫌だった。
もしかしたらヒマワリが関係するんじゃないかと薄々思っていたけど、信じたくはなかった。
いや、でもまだもしかしたら違うかもしれない。
ただ、ここで見ていただけと信じたい。
「エンマとシズク……か。ごめんね」
俺とシズクはヒマワリから話を聞いた。泣いている声で聞き取りづらかったが、やっぱり犯人は天使とヒマワリだった。
話を聞く限り、主犯は天使でヒマワリは命令されたことを天使に伝えただけらしい。
「なぁヒマワリ。今からでも遅くはない。戻ってこな───」
「もう、無理だよ……」
ヒマワリの所へと行こうとしたら、ヒマワリは涙を流しながらまた天使と共に先へと行ってしまった。
どうして命令を素直に聞いたのかという理由は聞けずに居たが、犯人が分かったことを伝えるために俺たちはクウガたちの元へと戻る。
俺とシズクは部屋へと向かってる時一言も喋れなかった。
シズクとしても、ヒマワリをいざ前にしたら言葉も出ないようだ。
「エンマ。どうだった? 犯人は見つかったか?」
部屋に入った途端、クウガに話し掛けられた。
さっき見た感じはまだ戦っていたが、どうやら今はもう決着が着いたようだ。
無事に気絶させれたようで、クルミはその場に寝ていた。
「みんな無事なのか?」
「あぁ。少し傷はあるけどな。ま、俺とモエカ以外は寝ちまってるけどな」
レントは未だ寝ていた。
クウガとモエカは疲れ果てて息切れしながら座りはじめた。
相当な戦闘だったようだ。
「なぁクウガ。犯人は分かったんだ。だけど、多分、犯人にも理由があると思うんだよ……」
みんなを操った犯人と、それに協力したのがヒマワリだということを俺は伝えなきゃいけない。なのに、言葉をつい濁してしまう。
「エンマ。多分だけどさ、今エンマの近くにヒマワリちゃんが居ないのも何か訳があるんだろ? そして、そのヒマワリちゃんが犯人に協力してたとかでしょ?」
クウガは鋭かった。
「ははっ。うん。よく分かったね。犯人を見た時、ヒマワリもそこに居たんだ」
その後、みんなはヒマワリが犯人に協力したと知っても、助けると言ってくれた。
命令されたことも伝えたら、
「きっと、騙されてるか俺たちみたいに洗脳されてるとかだよ。」
とか言いながら、
「ヒマワリちゃんはいい子だからきっとわざとじゃない」と言ってくれた。
クウガ達の優しい言葉につい泣きそうになったが、今はそんな暇はない。
俺たちとクウガ達で別れてエデンの塔を登ろうと伝え、俺とシズクは80階層へと目指す事にした。




