85話 仲間を助けるのが仲間
クウガに案内され、俺たちは79階層の端の方へと進んだ。
未だに79階層にはモンスターは居なく、ただ異臭だけが放たれていた。
いつかは慣れると思っていたが、未だにまだ匂いには慣れていなかった。
「そろそろ78階層攻略してた奴らが79階層に来る頃かな?」
みんなが気絶させられてから数時間は経っただろう。
攻略班ならそろそろ向かってきてもいい頃だ。
と言っても、多分この匂いと、モンスターが出ない現状、ボスまでいない階層にビックリすると思うが。
「それもそうね。幸いにも、この階層は匂い以外はキツくないし、死ぬ心配はないわよね」
クウガ達が敵対していない今、本当にこの階層には敵が居ないのだ。
匂いさえ我慢できれば誰であろうと攻略出来てしまうのが、攻略班にとって幸運だろう。
「そういえば、クウガ達がボス倒したんだよな? どんな敵だったんだ?」
俺達がボス部屋に来た時にはもう倒されていた敵だ。
この階層に相まってか分からないが、どんな敵か少し気になってしまう。
「あー。確か、泥みたいな敵だったな。めちゃくちゃ弱かったから瞬殺出来たんだけどさ」
クウガの話を聞く限り、本当に弱そうなボスだった。
なぜこの階層だけそんなボーナスステージのようなエリアなのだろう。分からない。
「そろそろだわ。二人とも、私たちの事情に巻き込んじゃってごめんね。それと、本当に殺そうとしちゃって……」
「モエカ? もうその話はいいのよ。私たちが友達と思って助けるんだから、こっちから首突っ込んだだけなんだから」
「しかも俺達負けたんだよなぁ……本気出したのに……」
「ま、強くなってたのは確かだし、いつかは俺にも勝てるようになるだろ」
クルミ達がいるはずの部屋に入る前に少しだけ場を和ませる。
みんなの緊張もほんの少しだけ和らいだようだった。
「さてと、それじゃ入るとするか」
そして、俺たちはクルミの居るはずの部屋へと入っていった。
「あら、早いじゃない。良く倒せたわね」
扉が開いて、クウガ達が帰ってきたと思ったのかクルミの懐かしい声が聞こえてきた。
「なぁ、クルミ。そろそろ終わりにしようぜ」
俺を見て驚いたクルミに対し、2番目に入ってきたクウガかクルミへと警告を告げた。
「へぇ。まさか裏切るなんてね。ま、私は言ったわよね。これでレントの命は無いわ」
クルミはクウガの言葉に一切の聞く耳を持たず、縛られて放置されているレントへと魔法を放とうとした。
「待て! 話を聞けよ!」
俺が怒声を上げるが、依然としてクルミは魔法をやめようとしなかった。
そんな時、俺の横で走り出した奴がいた。
「やめろクウガ!来るな!!」
レントが必死にクウガを止めるが、クウガは全速力で走っている。
「レント! 歯ァ食いしばれ!!」
クウガはクルミの魔法が放つ一瞬前にレントを蹴り飛ばし、遠くへと飛ばした。
そして、クルミの魔法は止まることなく、丁度来たクウガへと直撃する。
「えっ……なんで? クウガ? 嘘でしょ? レントを庇ったの? レントなんてなんで庇ったの? ねぇ」
レントになにがあったのだろうか。俺には分からないが、クルミはレントの事が嫌いなのだろうか。
それとも、クウガにダメージを与えてしまった影響で頭の中がグチャグチャになって適当なことを喋っている可能性もある。
「……ハァハァ……いてえじゃねえか……それに、レントなんて言うんじゃねえよ……仲間だろうが…」
本気でレントを殺すつもりだったのか、クウガも瀕死になるくらいのダメージを受けていた。
それに、クウガの言葉になんて耳も貸していないようだった。
いや、既にこの時からクルミの頭の中は狂い始めてたのかもしれない。
「どうすれば……みんな一緒に死ねば……」
クルミはブツブツと呟いていた。
そして、突然俺たちの方へと顔を向け、自分の手に魔法を溜め始めた。
「風魔法Lv.5『ウィンド・インパクト!』」
クルミは俺へと魔法を放つ。
だが、気が動転しているのか、俺の横を魔法は飛んでいった。
「ごめんな。ちょっと眠っててくれ」
頭を抱えているクルミに近づき、剣の柄で気絶させる。
ずっと喋ってなかったシズクはいつの間にかレントを縄から解き、クウガの傷を回復させていた。
「クウガ。後は任せていいか?」
クウガに気絶させているクルミを渡そうとした瞬間、クルミは体をビクンっと跳ねさせ、俺の腕から暴れ落ちた。
「あははははっ!!みんな殺す!! みんなで天国行く!!」
クルミは狂ったようにそこら中に魔法を放ち始めた。
もちろん、自分の仲間など関係なく、文字通り皆殺しするつもりのようだ。
「エンマ。クルミも俺らと同じように誰かに洗脳されてるんだと思う。だから、ここは俺たちに任せて洗脳してるやつを探してくれねえか?」
この世界に来て、洗脳がどれほど脅威かは分かる。
人を自在に操るとまではいかなくても、仲間割れをさせることは出来るし、自我までも無くさせることが出来るのだ。
このままクルミを洗脳されたままにすればどうなるか分からない。今はクウガに従って犯人を見つけた方が正しいのかもしれない。
「エンマ! ここはクウガとモエカに任せましょ! 大丈夫よ。二人は強い。それは私達も保証したじゃない!」
今のモエカは自我もなく、リミットは外れている。
正直、いつもの数倍は強いだろう。
───だけど、きっと二人なら大丈夫だろう。
「シズク!行くぞ! 」
「えぇ!」
「死ぬなよ二人とも!」
「もちろんだよ。仲間を正常に戻すのも仲間の役目だからな!!」
「二人も無理はしないでね!」
クウガとモエカに気絶しているレントとクルミの相手を任せ、俺とシズクは部屋から出た。
後はあいつら自身の問題だろう。あいつらならクルミを洗脳から解放出来るはずだ。
どこに洗脳している奴が居るかなんて分かるはずもない。
けど、どうしてもこの犯人は近くに居ると思えた。
何処かでこの光景を見ているんじゃないかと。
ただ、俺たちの役目はただこの悲劇を繰り返させないように止めるだけだ。




