84話 真実
疲れきったシズクを抱きしめ、数分経った。
何故かシズクは抵抗もせず俺に抱きしめられている。
これはこれで幸せだが、まだ俺にはやることがあった。
「シズク。ちょっと、二人を拘束してくるな」
シズクから離れ、俺はまずモエカの元へと近付いた。
「エンマ。あんまり強く拘束しちゃダメよ」
「分かってるよ」
シズクにとっても大事な友達なのだろう。
まぁ、それは俺も同じだ。モエカに対しても、クウガに対しても強く拘束する気はない。
暴れられて抜け出されるのも困るから、ある程度は仕方がない。
「よし。これで大丈夫だろ」
「あなた……そんな頑丈な縄なんていつ手に入れたのよ……」
「あー、昔にフィールドに落ちてたんだよ。多分モンスターを拘束してたやつなんだろうけど、まだ全然綺麗だったから一応拾っといたんだ」
「モンスターを拘束なんて無謀よね。それならどうにかして、エクストラスキルのモンスターテイムを入手すれば良いのにね。ま、エクストラスキルの入手方法がまだよく分からないらしいけど」
クウガとモエカを同じ位置に拘束して、とりあえず目覚めるまでは待つ事にした。
ヒマワリを追いたい気持ちはあるが、今ここで二人を置いていったらどうなるか分からない。
それに、二人には誰に洗脳されたのかも聞かないといけないしな。
あとどれ位で目覚めるかは分からない今、とりあえず俺はシズクと軽く雑談しながら待っていた。
「……んん……あぁ……」
先に起きたのはクウガだった。
既に洗脳は解けているようで、周りを見渡して少しだけ驚いている。
一体どこからの記憶が残っているんだろうか。
「起きたか」
「あぁ、エンマか。俺は、多分お前を殺そうとしたんだよな。すまん」
「まぁそこは良いよ。洗脳されてたっぽいしな。それで、誰に洗脳されたんだ? 仲間がどうとか言ってたけど……」
俺がクウガと話しているうちに、モエカも起きたようで、とりあえず対応はシズクに任せる事にした。
「洗脳……か。やっぱり、洗脳されてたんだな俺。多分だけど、俺とモエカを洗脳したのはクルミだよ。結構前にクルミと出会ったんだ」
「そん時からクルミに洗脳されたのか? それと、レントはどうしたんだ? 仲間が殺されるとか言ってたからレントがクルミに人質に取られたのか?」
「察しが良くて助かるよ。エンマの言う通り、レントは人質になってるんだ。って言ってもな、クルミも俺たちと出会った時は前みたいに普通だったんだ……」
クウガは少しだけ悲しそうな顔をしてクルミと会った時の話を始めた。
全てを聞いた上にまとめると、要はクルミはつい二ヶ月前に急におかしくなったらしい。
それから、段々とクウガやモエカも俺たちを殺すということが頭に離れなくなってたとか。
そして、最近になってレントが人質に取られてクウガとモエカが仲間の為に殺しに来たけど、途中からは記憶が一切ないと言っていた。
「そうか……まぁ仲間がそうなればな。俺だって同じ立場なら殺しに掛かってたかもしれねぇし」
「本当にごめんな……それと、出来たら力を貸して欲しいんだ。多分、今もクルミは俺達が殺したっていう報告を待ってると思う。レントもそこで待ってるはずなんだ」
「俺達も仲間を追ってたんだけど……よし。わかったよ。あとで俺たちにも力を貸せよな?」
ヒマワリを追うことは確かに大事だ。
だけど、今ここでクウガとモエカを置いて俺とシズクがヒマワリを追えばまた洗脳されて襲ってくるかもしれない。
ならいっそ今すぐさっさと助けて、クウガ達にも力を貸してもらった方が得策だろう。
「ありがとな。もちろん、エンマには殺しに掛かった借りもあるしな。エンマの仲間は俺たちの友達も同然だし、精一杯助けるよ」
「さんきゅ。あ、それと、クウガ。お前、強くなったな。結構手強かったぞ。ってか一瞬負けそうになったわ」
「……そ、そうか」
クウガは柄にもなく嬉しそうにしていた。
と、こんな話をしていたらモエカとシズクも話が終わったらしい。
どうやらほとんど同じ話のようだ。
「やっぱりエンマも手助けしてあげるのね」
シズクは笑顔で俺の肩を叩いた。
「まぁな。クウガ達にも後で力を貸してもらえるんだから良いんだよ」
「多分こっちの道から行けるはずだ。79階層の端あたりにある隠し部屋に二人は居る」
「エンマくんもごめんね。シズクを殺そうとしちゃって。まぁ、やっぱり魔法の力でも適わなかったんだけどね」
「何言ってるのよ。モエカも充分強かったわよ?」
「ま、シズクが許してるなら別に俺は良いよ」
久しぶりにクウガ達と出会い、襲われた。
だけど、今はこうして洗脳も解けて前のように戻っている。
ヒマワリのことがまだ頭から離れないが、今はとりあえずクウガ達の仲間を救うことを優先しよう。




