9話 新しい機能と初めての別れ
草原に戻った俺たちは、まず真っ先に後ろを見た。
もしかしたらまだタイラントワームが追ってきているかもしれないと思ったからだ。
「ふぅ。大丈夫そうだ。とりあえず休むか……って、もう寝てるし!」
俺はヒマワリに話しかけているつもりだったのに、こいつはいつの間にか寝ている。それほどまでに疲れたのだろう。
「とりあえず俺は、ステータスでも見てるか」
さすがに二人寝るわけにはいかないと思った俺は、とりあえず自分のステータスを見ることにした。
だが、その時俺の頭の中にまた聞き覚えのあるアナウンスが響き渡る。
『ゲーム開始から半日経過。新機能追加情報。
1.ギルド及びフレンド機能の解放
2.決闘の解放
3.街などの特定エリアにて武器使用不可及び、プレイヤーネーム、ギルド紋章の表示
以上』
言うだけ言って、アナウンスは俺の頭から消えた。
きっとまたゲームのように新情報が追加されしだいアナウンスされるんだろう。
「とりあえず、調べてみるか」
追加された新情報は幾つかあった。その中でも、調べれそうなものを俺はとりあえずメニューから探す。
「うーん……」
メニューを開く時に思ったのだが、指を自分の前にスッと下ろすだけでメニュー画面が見えるのは相当凄いんじゃないかと思ってしまう。さすがVRゲームといえば、まぁ有り得ないことではないんだけど。
「これ、デスゲームじゃね?」
思いついた言葉をつい口にしてしまった。
確かに、今回のこのゲーム内に閉じ込められ、クリアするまで出れず、死ねば現実で死ぬというのはライトノベルや小説でよくあるデスゲームというやつだ。
ということは、俺はそれに巻き込まれたということになる。
「ま、とりあえず現実より楽しいしから良いかな」
ゲームの中で暮らす方が現実よりも楽しい。それは俺の中で紛れもない事実だった。
「……ん、ふぁ〜……おはようエンマ。魔物に襲われてないー?」
俺が結局新情報について調べる間もなく、ヒマワリは起きてしまった。
「あぁ、大丈夫だぞ。それとだな、ヒマワリは寝ててたから知らないだろうけど、なんか新情報が追加されたらしい」
「えぇ!?そうなの!? なになに!!どんな情報!?」
ヒマワリは興味津々のようで、俺に飛び跳ねながら聞いてきた。
だから、俺はアナウンスで聞いたことを覚えている限りヒマワリに伝えた。
「ふむ。ギルドに決闘、それにフレンドかぁ。ま、ゲームにありそうな機能だよね!」
「そうだな。で、お前も起きたことだしこれからの方針を決めたいんだが」
「えぇ……その前に新情報について調べよっ!どうせ、メニューのヘルプに載ってるだろうしさ!」
「載ってるのか。んじゃ見てみるわ」
まさかヘルプというのが存在しているとは思わなかった俺は、メニューを開き自分の目で確認した。
確かに、ヘルプには今回の新情報がnewという文字がついて表示されている。
「これは覚えとかないとな」
『フレンド機能の説明
メニュー画面より、新しくフレンドという項目が追加され、そこに自分のフレンドIDも載っている。それを使って、メッセージなどのやり取りが出来るフレンドを作ることが可能』
『決闘の説明
決闘は1体1、または2対2での戦闘。お互いに体力は半分までもしくは、降参と言うまでの戦闘。決闘中は如何なる事があっても、相手もしくは味方を殺すことは出来ない。殺そうとした者は、運営によって瞬時に脳波を焼かれ死亡する』
『ギルドの説明
特定の人数であらゆる街によるギルド申請所にて申請する。ギルドマスターがまずお金を払いギルドの家を購入。そうすることでギルドは完成する。ギルド内でのルールは自由。だが、ギルド同士での殺し合いなど、殺人に当たる行為や、殺害は禁止。それを破ったものは、運営によって死が与えられる』
俺が見た情報はシンプルでわかりやすい説明だった。特に、決闘やギルドついてはもはや怖いと言えるくらいの説明だ。
「ってことは、人を殺さなきゃいいって事ね」
俺はメニューを閉じて、とりあえずヒマワリに話し掛けようと思った矢先、ヒマワリは俺の前にいて何故か俺に話し掛けてきた。
「エンマ。人を傷つけちゃ絶対ダメだからね!」
「分かってるよ。俺だって人なんて殺したくねえしな」
「そ、わかってるならよし! んじゃ、私も新情報についてあらかた分かったし、これからどうする?」
俺は真っ先にヒマワリがフレンド依頼をしてくると思ったが、案外そうでもないようだ。それよりも、こいつは街に興味があるらしかった。
「お前は街に行くか?」
今の俺達の居る平原から真っ直ぐ見える距離にある街。あれは、俺が最初に行こうとした街だろう。きっと、プレイヤーもたくさんいる。優しい人もいるだろう。ヒマワリに俺はもう必要ないかもしれない。
「そうだね。私、街に行こっかな」
「じゃ、俺とはお別れだ。俺は強くなるためにまた旅に出るよ。じゃあな、また会えたらフレンド登録しようぜ」
「大丈夫。絶対すぐ会うから! その時は絶対パーティー組んでもらうからね! 」
「会えたらな!」
こうして、俺はヒマワリに背を向け街とは違う方向に歩き出した。森へは行かず、大回りで森を回る感じだ。
「エンマっ!短い間だったけど、楽しかったよ! また強くなったエンマに会うこと期待してる!」
「……おう! 任せろっ!」
俺は、一人強くなることを決意した。
パーティーなんて絶対に誰とも組まない。そう、またいつかヒマワリと会う時までは。