83話 魔法の攻防戦
エンマが突然襲われていた。
それも、私たちが知っている相手、エンマが親友とも言っていた人、クウガだ。
どうしてクウガが襲われているのか分からないが、男同士の戦いに私が入る隙間はないだろう。
「───シズク。私、ね。大事な人のためなら人を殺せるかなって思うんだ。だから、さ、許して」
私がエンマ達の方を見ていた時、私の方にも一人の女の声が聞こえてきた。
見知った声。徐々にその人の全貌が見えてきた。
「そう。やっぱり貴方もなのね」
分かりきっていた。
クウガがエンマを襲う理由があるとして、それならばクウガの仲間が私たちの敵になっている可能性もあるのだ。
そして、今まさにそれは現実となって、私の前にはクウガの仲間であるモエカが居る。
涙を流した顔でこちらを見ている。
「風魔法Lv.10 『ウィンド・ハリケーン』」
モエカは私に対して魔法を放ってきた。
既に私を殺す気という事だろう。
ならば、私はモエカを止めるために全力を出して打ち倒さなきゃいけなかった。
「しょうがないわね……炎魔法Lv.8『インフェルノスラッシュ』」
私の魔法は炎が刃となり敵を切り裂く魔法だ。
この魔法ならモエカの使った竜巻を消し去ることが出来るだろう。
案の定、私の魔法とモエカの魔法がぶつかり合った時、相殺されお互いの魔法は消えてしまった。
「やっぱり、戦わなきゃダメなのね……」
未だモエカは次の魔法の準備をしている。
「私は、覚悟を決めたんだ……」
モエカの声が薄らと聞こえてきている。
それを聞く限り、モエカは私へと攻撃したくてしているわけじゃないのだろう。
なら、私はその理由をハッキリと聞くためにモエカを一度戦闘不能にしなきゃいけない。
「それじゃ、私からも本気でいかせてもらうわよ」
さっきの魔法を見て分かったが、以前よりもモエカは強くなっている。
下手に私が手加減しても負けるだけだった。
なら、いっそ本気を出してすぐに決着をつける。それが私の出した結論だ。
「スキル 『二連魔法』『魔力増大』発動」
このスキルを使うのは久しぶりだった。
この二つを使えば、一時的に莫大な魔力を得れるが、やはりその代償は自身の体力だった。
秒ごとに私の体力は減ってきている。
「少しの間眠りなさい。雷炎魔法Lv.8『インフェルノ・ライトニング!』」
二連魔法によって、炎と雷を融合させ、二種類の属性を持つ魔法を両手に創り出す。
それを魔力増大でとてつもない威力に変換し、目の前に立つモエカへと放った。
二回も飛んでくる魔法にモエカは為す術もなく、受けるしかないようだった。
「防御スキル『マジックシールド!』」
だが、受ける直前にモエカは自身の前へとシールドを張り、一度目の私の魔法を受けきっていた。
だが、さすがに二発目を耐えることは出来ず、見事にモエカへと直撃する。
「はぁはぁ。眠ってくれたかしら……」
魔力増大と二連魔法を解き、普通の状態へと戻る。
体力は相当減っただろう。
だが、モエカは依然として地面に倒れたままだ。
眠ってくれてるならいいが、私の頭に悪い予感が流れてきていた。
「あの威力だともしかして……」
死んでるということも充分有り得た。
最後に見えたモエカの顔は死を覚悟していたようにも見えた。
私は急いでモエカへと駆け寄り、生きているかを確認した。
「良かった……生きてる……」
「炎魔法Lv.7『フレイムジャベリン』」
私が安堵した瞬間だった。
モエカは至近距離にいた私へと魔法を発動したのだ。
間一髪で心臓への直撃は避けれたが、お腹へと魔法は直撃した。
「……モエ、カ……あなた……」
モエカはふらふらな状態で立っていた。
目はまともではなく、狂気を宿ったような目をしている。
今お腹を支えている私をこのまま殺す気だろう。
だが、そう簡単に私は殺られない。
今ここで死ぬわけには行かないのだ。
「水、魔法、Lv.9『水の牢獄』」
弱々しい声で呟き、私はモエカを水の中へと拘束した。
フラフラになっているモエカは足掻くことしか出来ず、徐々に徐々にその力も失っていた。
「とりあえず、これで大丈夫かな……」
いつしか、モエカは動かなくなり、目も閉じていた。
そんなモエカを水の牢獄から出し、今度こそ本当に気絶したのを確認すると、私はその場に倒れた。
「お腹……痛いなぁ……」
駆け寄ってくるエンマが見えた。
エンマは私へと回復薬を飲ませ、私を抱きしめた。
「友達を攻撃するのは嫌だったよな……」
自分だって親友を攻撃した癖に何言ってんだか。
なんて、今の私はそんなことを言えなかった。
だけど、抱きしめられる感覚は少しだけ暖かい。
今はひとまずエンマに私を抱きしめさせてあげよう。




