81話 異様な空気
79階層へと足を運ぼうと思った時、シズクが俺の裾を引っ張り引き止めた。
今になって行くのが嫌になったのだろうか。
「ねぇエンマ。一応、ここに寝てる人起こした方がいいんじゃない? 無いと思うけど、ここだと寝てる間にプレイヤーキルとか出来ちゃうから」
「それもそうだな。魔物がもし来ても困るし、念の為起こしとくか」
どうやらシズクは嫌になったとかじゃなく、単に他の人が心配だったようだ。
「んん……俺たち寝てたのか……」
「起こしてくれてありがとな。あとは俺達が起こしとくよ」
「あのボスに勝ったの? やっぱりあんた達凄いわね!」
ひとまずリーダーとリーダーの仲間を起こした。
これならば、俺達が全員を起こさなくて済むからだ。
リーダー達ということもあり、やはり皆を起こしてくれている。
「それじゃ、後は任せたからな」
「進むのか?」
俺が歩きだそうとした時、起きたばかりのリーダーが俺へと話し掛けてきた。
突然で驚いたが、話したいことでもあるのだろうか。
「あぁ。ちょっと、追いかけなきゃいけないんだよ」
「気を付けるんだぞ。仲間と言えど、自分の命を大切にな。仲間ばかりに囚われて、本来の目的を見失うなよ?」
「シズクが居るからな。俺一人だとどうなるか分からんけど」
「それは頼もしいな」
「だろ?」
俺とリーダーは二人してつい笑ってしまった。
「ほら、エンマ。行くわよ?」
「あぁ。ちょっと待ってくれ。なぁ、あんたの名前教えて貰ってもいいか? 気が合うするんだ」
「奇遇だな。俺もそう思ってた所だ。俺は、沖田 京間だ。またお前とは会えることを祈ってるよ」
「俺もだよ。一応フレンド登録しとくからな。それじゃ、俺は行くわ」
「あぁ。また酒でも飲み交わそう」
こうして、俺は京間に別れを告げ、シズクと共に79階層へと上がった。
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異様な空気が漂っていた。
血の匂い、重苦しい、足取りが重くなる空気だ。
「シズク。大丈夫か?」
シズクの方をチラリと見る。
やはり、と言うべきか、シズクの顔は青ざめていた。
だが、この状況において普通の顔が出来る人が居るとは思えない。居るとしたら、サイコパスだろうか。
「エンマ。これ、他の人が79階層に来た時も体験するのかな……」
「いや、分からねえ。本来、ダンジョンのモンスターは血が出たあとにエフェクトとなって消えるはずだけど……もしかしたらこの空気が79階層本来なのかも……」
仮にもここはダンジョンだ。
色んな階層があってもおかしくはない。
こんな血の匂いのする重い空気の部屋があってもおかしくはないし、海のマップだってあるのだ。
「この階層、魔物出るのかな……」
シズクが呟いた言葉に反応してしまうが、確かにこの階層で魔物と戦うのは困難だ。
79階層ともなれば魔物自体も強いはずだし、正直この匂いとかに慣れる気がしない。
「と、とりあえず行くしかないし行こうぜ」
「そ、そうね。鼻で息を吸い込まなければなんとかなるし、行きましょ」
こうして、俺とシズクは足取りが重い中進み始めた。
だか、どんなに進んでも空気や匂いは変わらない。
でも、魔物はいなかった。気配もなく、襲っても来ない。
魔物もこの空気に耐えれないのだろうか。いや、そもそもこの階層自体が精神的にダメージを与えてくるから魔物を配置しないのかもしれない。
「なんとか、ボス部屋っぽい所に着いたわね」
「そうだな。ただなんで扉が壊されてるのかは分からないけどな」
俺達が今いるのは、壊れた大扉の前だ。
中が微妙に見えるが、細部までは見えない。
「よし、入るか」
「ボスが弱ければ良いけど……二人じゃ勝てそうにないかしら。70階層を三人でギリギリだったし……」
「ま、そん時はそん時だろ」
俺は壊れた扉の隙間から中へと入った。
入った瞬間から分かったが、この臭いを出しているのはこのボス部屋だった。
「ボスはどこ……って、死んでる?」
「ボスが死んでる? そんなことあるのかしら? だって、私たちの他に先に行ける人なんて居る? そういえば、みんなが眠ってる間なら進めるわね……」
驚きだった。
ボスと戦うと思っていたのに、そのボスが部屋の真ん中で死んでいるのだ。
エフェクトにまだなっていない所を見るに倒されたばかりなのだろうか。
「来たわよ皆」
部屋の中から俺たち以外の声が聞こえた。
「ごめんな。エンマ。もう、止めれねえんだ」
後ろから俺の名前を知っている男の声と共に剣で風を切る音が聞こえた。
「痛えじゃねえか……なぁ、クウガ……」
俺の腕へと突き刺さる剣。
同時に、シズクも襲われていた。警戒してたからなのか、俺のようにダメージは受けていないようだ。
「どういうことか、理由を教えてくれねえのか?」
クウガの顔つきは重く、以前の様な顔とはまるっきり変わっていた。
「エンマ。俺は、お前を倒さなきゃいけねえんだ」
「答えになってねえぞ……」
俺の腕に刺さっている剣をクウガが引き抜き構える。
さすがに黙って殺られるわけにもいかない俺は、負傷していない方の利き腕ではない腕で剣を構えた。
「仲間の為だ……分かってくれ」
小さくクウガは呟くと、俺目掛けて本気で剣を振り下ろし、殺しに掛かってきた。
シズクもクウガ達の仲間と戦っている。
どうして突然こうなったのかは分からないが、今はひとまず全員を無力化させる以外に道はないようだ。




