76話 生き残り
シズクとヒマワリが泣き止み、離れるまでの間、俺は二人の頭を撫でていた。
しばらくして、泣き止み、俺から離れた二人に俺がここにいる経緯を聞くことにした。
「なぁ、ここは、宿屋であってるよな? ってことは、70層のボスは死んだってことでいいんだよな?」
「うん……ちゃんとエンマが倒してたよ……でも、やっぱりあんなやり方で倒すのはダメだよ。次は死んじゃうかもしれないし……」
ヒマワリは悲しそうな顔をしていた。
「そうよ。自分の体を犠牲にするなんてダメだわ。あなたが死んだら少なくとも私達は悲しむのだから、やめてちょうだい……」
シズクも悲しそうな顔をしていた。
確かに、あの時の俺は自分が最悪犠牲になっても、ここで倒して二人を助けれればいいと思っていた。
それがダメなのだろう。
「あぁ。ごめん。あのやり方は次からはしないよ」
「うん」
「そうね。それがいいわ」
「それで、俺のことは二人が運んでくれたのか?」
「うん!ちょっと重かったけど、二人で運んだよ? 何回かうなされたり、色々呟いてたけど嫌な夢でも見たの?」
どうやら、俺はあの時うなされていたらしい。
もしかしたら、あの時見ていた夢のような空間で喋っていたことを呟いていた可能性もある。
「あー、その時見ていた夢については後で話すよ。大事な事なんだ」
「あ、それとあなたに聞きたいことがあったのよ。どうして、あなた、あのボスと戦ってる時最後体力が減ってなかったの? 本来ならあの時あなたは死んでいたはずなのに……」
「それ!! 私もそれ聞きたかったの! あの時ホントならエンマ死んでたよね? だから生きててホッとしたんだよ!」
二人は問い詰めるように俺へと近付いてきた。
夢によって理由はわかったが、これは一応鑑定してみてから話した方がいいだろう。
「ちょっと待ってくれ。鑑定してみるよ」
二人は同時に頷き、静かになった。
そして、俺はステータス画面を開き、あの時に入手した称号を鑑定した。
『ステータス』
『ステータス』
名前:ヒイラギ エンマ
レベル:78
所持金:235000マニー
HP:621(+100)
MP:184
スタミナ:493
STR:406
VIT:396
DEX:306
AGI:397
INT:300
LUCK:248(+50)
CHARM:10
武器:黒魔の大剣
頭:
胴:防魔の鎧
腕:煉獄のガントレット
腰:
足:煉獄のブーツ
アクセサリー:星空のネックレス
スキル: 【六大魔法Lv.7】【サウザントスラッシュ】【剣技Lv.8】【聖騎士Lv.3】【暗黒騎士Lv.2】【鑑定Lv.10】【感知ガード】【気配察知】
称号: 光と闇を持つ者 お気に入りの英雄
能力振り分けポイント:54
使用可能スキルポイント:45
取得可能スキル:【テレパシー】【ブレインコントロール】【死魔法】【天体魔法】
単純に、あのモンスターを倒したおかげなのか、レベルやステータスも上がっていた。
だが、見るべきところはそこではない。
称号の部分だ。
あの戦闘で何故か貰えた称号。『お気に入りの英雄』
俺はこの称号を鑑定した。
『お気に入りの英雄』: 上に立つ者が数多のプレイヤーの中から選んだ唯一無二のお気に入りに与えた称号。
3度まで死を迎えそうになった時に踏みとどまる。
踏みとどまる代わりに一時的に莫大な力を得る。
代償は寿命と意識の喪失。
3度踏みとどまった時、その者は戦闘を終了した時に死亡する。
「上に立つもの……か」
「ん? どうだったの?」
「称号の効果分かったの?」
俺のつぶやきに二人が反応する。
「いや、な。称号の効果を見てちょっと呟いただけだよ……」
「へぇー。どんな効果だったの?」
ヒマワリとシズクに対して俺は称号の効果を話した。
二人は驚いていたが、むしろ羨ましいとも言っている。
それはそうだ。
本来ならばこの世界は一度の死で終わる。
それを俺は3度まで受けれるんだ。
いや、実質には2度まで。あともう一度なら死んでも大丈夫ということなのだ。
これはこの世界においての大きなアドバンテージになる。
「ねぇ。称号は分かったんだけど、意識を失ってた時になんか悪い夢でも見てたの?」
「そうね。苦しそうにしてた時もあったし、心配だわ」
称号の次は夢の話らしい。
と言っても、初めから夢については二人に話す予定だったから丁度いい。
「そうだな。ちょっと長いけど話すよ。まず最初に、俺が見てたのは夢じゃなくて、映像を見せられてたんだ。まぁ夢と言われても不思議じゃないけどな」
俺はそこから二人へ見せられていた映像の話をした。
エデンの塔の頂上にいるのが、本来の良い天使ではなく、堕天使ということ。それに加え、天使が保管されていること。
なんらかの危ない計画があること。
ルシフェルは二人の堕天使のうちの一人のお気に入りお気に入りである俺に会うために生かされていること。
今まで俺は堕天使が面白いからという理由だけで生かされてきたことを話した。
最後にもらえた称号についてもだ。
ここから先は手助けなんてないらしい。
「やっぱルシフェルちゃん助けないとね! それに、ほかの天使達も!」
「そうね。幸いにも、ルシフェルちゃんがエンマのお陰で生きているのが良かったわ」
「それそうだな。不幸中の幸いってやつか。とりあえず、俺たちはやっぱりエデンの塔を登らないといけない訳だが、今度からは三人でボス戦なんて止めとこう。次は死ぬかもしれないしな」
「そうね。今回はエンマが堕天使のお気に入りだったから生き延びれたけど、次からは助けはないからね」
「ほんとだよ! エンマは二度と死なないでよね!!」
「それはちょっと無理な相談かもな」
その後、俺は二人から説教され、気付けば夜になっていた。
ヒマワリのお腹が鳴り、夜ご飯を食べてお風呂に入ったあとは、シズクもヒマワリも寝てしまった。
泣いてしまい疲れたのだろう。
「ありがとな。二人とも」
二人の頭を少しだけ撫で、俺も自分のベットへと寝転ぶ。
「ルシフェルは今頃どうなってんだろうな……」
寝転ぶとルシフェルのことを考えてしまっていた。
心配なのだ。
確かに、元々は俺たちを監視する役目のルシフェル。
多分だが、この監視の役目は堕天使から請け負ったのだろう。
確かに、堕天使は傍から見れば洗脳やら、命令やらで悪いやつなのかもしれない。
ただ、それでも俺がこの堕天使に助けられていたのは事実だし、お陰でルシフェルという仲間が出来たのも事実だ。
「考えても仕方ねえな。寝るか」
今ここでルシフェルのことを考えても、所詮は何も起きない。
ただ無事を祈るだけにしておくことにした。
「おっと、その前に二人ともゴメンな……」
悪いのは分かっている。
だけど俺は止められなかった。
そして、俺は寝ている二人へと近づき、鑑定を発動する。




