75話 夢
目覚めた時、俺は真っ暗な世界にいた。
意識もあり、考えることも出来る。
実際に手を握ってみた感じ、動くことも出来そうだった。
そして、俺はこの世界が夢であるということを自覚していた。
どうして夢だと思えるのかは分からないが、既に脳が夢だと思っているのだから考えようもない。
「…………?」
言葉を喋ろうとしたが、どうやら口が動くだけで声は出ないようだった。
心で考えるしかないらしい。
数分何も無い時間が経つと、次第に真っ暗な世界に色がつきはじめた。
いい加減暗いのにうんざりしていた頃だ。有難い。
「……!?」
だけど、そこで見えたのは、二人の天使だった。
モニターのようなもので誰かを監視している天使達だ。
なにか喋っているようだが、この距離からだと聞こえなかった。
だから、俺は少しだけ動くことにした。バレるという危険性を考えつつ、動き出す。
近くに寄るにつれ、天使が誰を見て、誰について話しているのかが分かった。
「…………」
ついつい言葉に出しそうになる。
口だけが動くものだから助かったが、驚くのも無理はなかった。
いや、最初からなんとなく心では分かっていた。
ルシフェルが天使だった。そして、役目は俺を監視すること。
そして、この二人も同じ事をしていた。
いや、ルシフェルが何かの機械を俺やシズク達に付けたのかもしれない。
だから俺達は天使達に見られているのだろう。
俺はさらに近くによった。
より詳しく話している内容が知りたかったからだ。
「なんで姉さんはいつもあの人をギリギリで助けるのさ! 今回も前回も、何回かあの人死んでるのに! 毎回毎回、生きてるように仕組んでさ!!」
「いいじゃないか。見ていて飽きないのだよ。なんていうんだ? 玩具? まぁそんなものだ。また飽きたらすぐに捨てるさ。ま、その前にきっとここに辿り着くだろうけど」
「姉さんが変な称号とか、固有スキルとか与えちゃうからでしょ!? それに、あの人の周りの人にも影響与えて、魔法のレベル上げたりとか。なに? クリアしてもらいたいわけ?」
こいつらの会話を聞く限り、俺の命は一人の天使に助けられていたらしい。
面白いからという理由だけで俺の命は繋がっていたのだ。
「いやいや、私だってまた面倒な召喚なんてやりたくないから、クリアして欲しいわけじゃないんだよ。でも、見ていたい。どうしても、あいつの物語を見ていたいんだ」
「あ、そう。勝手にすれば? 姉さんのお気に入りだかなんだか知らないけどさ、もう知らないから。クリアされたら姉さんが召喚魔法使ってよね!」
「いや待て、すまない。分かった。私はもう見るだけにするよ」
どうやら、相当召喚魔法を使うのに苦労が必要らしい。
姉さんと呼ばれている方が必死に妹に謝っている。
「ふーん。じゃ、これ以上あの人を助けないって約束して。監視はいいよ。もう、オリジナルは帰ってきたから、モニターでずっと見れるしね」
「……分かった。私は見ることに徹するよ。それで、オリジナルはどうする? あいつにはまだ使い道はあるが、そろそろ捨て時か?」
「うーん。とりあえずは保管かな。そろそろ戻ってくるだろうし、戻ってきたら実験室に他の天使と同じように保管しとくよ」
俺が見ている方へと二人の天使は振り向いた。
だけど、俺には気づいた様子すらなかった。
果たしてほんとうにこれは夢なのだろうか。
ようやく、俺の脳が疑問を持ち始めた。
きっと、これは予知夢だろう。
どうして俺がこんな予知夢を見ることが出来るのかは分からないが、姉さんと呼ばれている天使が俺に力を使ったからなのかもしれない。
それはそれで、俺はどこにオリジナルであるルシフェルが保管されるか分かるわけだから、感謝出来る。
それも、気付かれることなく見ているのだから、千里眼の類を俺は眠りながら使ってるのかもしれない。
「堕天使さま……オリジナルを連れてきました」
「ありがとう。それじゃ、オリジナルは実験室に保管しといてくれ」
「うんうん! まだ計画に必要だしね!」
「了解しました」
俺はここで衝撃の事実を知った。
この二人の天使は、真っ白な天使じゃない。
片方は悪魔、片方は天使。
そう、堕天使だ。黒と白を合わせ持つ天使。
だから、この二人は天使を実験室に保管しているのだろう。
何のためなんだ? 分からない。
そんな時、二人の堕天使は俺の方と顔を向け、言葉を放った。
「ふふっ。待ってるからね」
「見せてあげたこと、感謝しなさい」
二人の堕天使の顔が笑った時、俺の意識はもう一度落ちた。
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「はぁはぁ……俺は見せられていたのか……」
布団から起きた俺の体は汗で濡れていた。
そんなことには目もくれず、俺は今まで見たことを思い出す。
決して予知夢でもなく、千里眼でもない。
俺自身に気づいてなかったのではなく、わざと気づかなかった。
そして、最後の言葉ではっきりした。
あの映像は俺へとわざと見せていたんだ。
ルシフェルを助けさせるために。
俺と会うためにだ。
俺の力を試しているのかもしれない。ここからは、あの堕天使が言う通り、助けなんてないのだろう。
今までは上手く手のひらで遊ばれてただけなのだ。
「だから、捨てるじゃなく、保管にしたのか……」
だが、このお陰でルシフェルがまだ生きているということがわかる。
それだけで俺がこの堕天使の元へと赴くには充分な理由だった。
そんなことを考えているうちに、端の方にあったドアが開いた。
ノックもせず入ってきた二人は、俺を見るなり飛び込んできたシズクとヒマワリだった。




