8話 逃走
そろそろストックヤバイかな?
巨大ムカデに襲われ、行き止まりに追い詰められた俺とヒマワリ。
ムカデは強さ故の傲慢からか、まだ俺たちを襲おうとしていない。
「ヒマワリ。とりあえず俺が鑑定してみる。お前はなんか使える魔法とかないか? 多分、お前の見た目的に物理は無理そうだし」
「あー。うん。正解。私物理無理。その代わり、一応火魔法と水魔法の初期魔法なら使えるよ」
「おっけー。んじゃ、鑑定中の注意逸らし頼むわ」
「いやいやいや。無理無理。私死ぬよ? いいの? 死んじゃうよ?」
なにかヒマワリがブツブツ言ってるが、俺は無視して鑑定を始めた。
既に何回も聞いたアナウンスが俺の頭を刺激する。
『鑑定開始。鑑定中。鑑定完了。鑑定結果を表示します。
タイラントワーム
推定レベル79』
鑑定のレベルが3になったからなのか、それともこいつがモンスターだからなのか分からないが、そこら辺の石とかよりもしっかりと鑑定出来て安心した。
だが、それと同時に、俺は絶望もした。
「ねぇエンマ。あいつのレベルとか分かった?」
ヒマワリが火魔法を撃ちながら俺に訊ねてくる。
「あぁ。あいつのレベルは79。俺たちよりも相当上だ。このままだと死ぬだろうな。俺達」
なんとなくだけど、こいつが俺たちより強いのは目に見えて分かっていた。まず、ヒマワリの魔法が一切効くとか効かないの次元じゃなく、まず痛くも痒くもなさそうなところを見れば一目瞭然だ。
「よし。逃げよう!」
「はっ? あいつムカデだよ? 足速いからまずすり抜けるのも無理じゃない?」
「いやだって、俺の攻撃も多分効かないし、俺の剣折れるぞ?絶対」
「分かんないじゃん! 一回攻撃してみてよ!」
「えー。しょうがねえなぁ……」
俺は恐怖で体が少し震えながらもモンスターの前に立ち、剣を構えた。
そして、剣を振るイメージを高めて、スキルを放つ。
「ソードスラッシュ!!」
だが、俺のスキルは無残にも効かなかった。むしろ、俺の予想通り剣は折れてしまったのだ。
さらに、俺が思いっきり攻撃してきてイラついたのか、モンスターは遂に俺達を殺そうとしてきている。
「やっぱり逃げるしかない!」
「でもどうやって?」
「あー。多分、あのモンスターは挑発すれば突っ込んでくるから、壁に激突させてその隙に逃げるぞ!」
「死んだら恨むからね!!」
俺とヒマワリは、短い時間ながらも、必死で作戦を決めた。
まず、俺が折れた剣をモンスターに投げつけ、注意を引く。その後、ヒマワリの魔法でさらに怒らせるという作戦だ。
「んじゃ、逃げる準備と魔法の準備よろしくな!」
「はいはい。あんたも気を付けてね」
「おう!」
俺はヒマワリから少し距離を取り、落ちている折れた剣を拾って投げつけた。
だが、ここで俺達の作戦とは全然違うことが起きたのだ。
「エンマ!危ない!! しゃがんで!!」
ヒマワリの声が俺の耳に届いた時、俺は反射的に身を屈めた。俺が身を屈めた次の瞬間、モンスターが俺の上を猛スピードで通過し、行き止まりの壁にぶつかった。
「エンマ早く!今しかチャンスないよ!!」
「うるせー! 分かってるよ!ってか、お前なにもしてないからな!」
「まぁまぁ、二人共生きてるんだしオッケーだよ!」
俺達はモンスターが壁に挟まって動けないことをいい事に、走り出した。あの勢いとスピードから考えて、当分追いかけて来ないだろう。
「はぁはぁはぁ。ほんと、マジなんなのこの森」
「ほんと……早く抜け出したいんだけど……」
二人して早く抜け出すために、疲れても尚走り続けていた。
「ほんと、あんなムカデがこの森に大量にいるんでしょ? 無理だわー。私死ぬかも……」
走りながらよく喋れるなと思っていた時、俺は鑑定結果のムカデの名前を思い出した。
「そういや、あいつムカデじゃないっぽいぞ。確か、タイラントワームだかだった気がする」
「嘘でしょ!? 完全に見た目ムカデなのに!? 有り得ない!!」
「そんなに驚くことなのか!? 別にどっちでも良くね!?」
ヒマワリはよっぽど驚いたのか、走るのをやめて、息を整えながら歩き始めた。それに続いて、疲れた俺も歩き出す。
「えー。なんかあいつがムカデじゃないなら、一体何がムカデなのか分からなくなったじゃん。まぁ別に困りはしないけどさぁ……」
こいつは一体何に対して悩んでるんだろうか。結局モンスターはモンスターだし、ムカデじゃなくても虫は虫。キモイもんはキモイんだから俺的にはどっちでもいいんだが。
「まぁ落ち着けよ。あいつの事は忘れよう。さ、とりあえずちょっとその辺で休もうぜ」
「んー。そうだね! ちょっと休もっか!」
俺達は手頃な木の切り株を見つけた時、それに座ろうとした。
そんな時だった。俺達の前方。木が密集している所から、どんどん木が折れていく音が聞こえてきた。
「なぁ、この音近づいてきてね? やばくね? 逃げる?」
「そ、そうだね。早めに行動しとこっか」
私たちがまだ息を上手く整えてないのに走ろうとした時、木をへし折っていたそいつは俺達の目に入った。
「嘘だろ!? あいつ、もう壁から出たのかよ!」
「エンマ!いいから行くよ!」
俺は唖然として動きが止まったが、動けたヒマワリがなんとか手を引っ張ってくれた。
「とりあえずまた逃げなきゃ! 森だから多分、いつか抜けれるだろうし!」
ヒマワリの言葉は正解だった。
俺達がタイラントワームから逃げ始めて数分経った時、既に俺達の体力は底をつきそうで、喰われそうになっていた。
「ヒマワリ! 外の光が見えるぞ! あそこまで飛び込め!」
「エンマもだよ!!」
俺の予定ではヒマワリだけを投げて、俺は犠牲になるつもりだったが、どうやらそれを許してはくれないようだった。
俺達は最後の力を振り絞り、タイラントワームの攻撃を避けた後、走った。
足が痛い。走りすぎて足の裏が痛い。足もくじいたのか、捻ったのか、激通が走っている。
だけど俺達は数メートル先の光へと走った。
そして、最後にダイブした俺達は森から抜け出し、また初めに居た平原へと戻ってきたのだった。