73話 覚醒
繭が崩れ始め、中から現れたのは人と同じサイズのモンスターだった。
確かに、さっきまではムカデ型の巨大なモンスターだったはずだ。
ここまで突然変異するということがあるということにも驚きだ。
「まだ眠ってるのか?」
一向に動かず、目を閉じたままのモンスターは遠目から見れば眠っているようにしか見えなかった。
体力ゲージはやはり、元々の半分。
今までは足が弱点であり、体力の減らし方も分かれば簡単だった。
体力が無駄に多いし、攻撃はしてくるという点から、確かに削るのに苦労はしたが、倒れているオトコから三人では無理と言われるほどではないはずだ。
現に、最近はあまりモンスターと戦っていない俺たちですら、半分付近までは削れたんだし。
だが、今俺たちの目の前にいるモンスターはなんなんだろうか。
骨の形が激変というより、別のモンスターになっているこいつに弱点なんてあるのだろうか。
「倒すの大変そうかな……」
ヒマワリがぼそっと呟く。
俺も内心では、簡単に攻略できるかもと考えていた。
だが、そんな考えは間違いだった。
「エンマ! ヒマワリちゃん! 動き出すわよ!!」
辺りが静かになった時にシズクが俺たちへと警告をした。
そして、今までは無数の足があったモンスターは2本の足で歩き始め、手がなかったはずなのに、大きな鎌となっている手が存在していた。
「エンマ! 前!!」
「えっ?」
俺がシズクに言われ前を向いた時、既にモンスターの鎌は俺へと振り下ろされる直前だった。
「───あっぶねぇなぁ!!」
咄嗟に剣を取り、鎌に対して対抗する。
激しい音が鳴り響き、モンスターの片方の鎌と俺の剣はぶつかり合っている。
だが、ここで問題が一つあった。
俺は両手で剣を支えているのだ。
その点、モンスターは片手しか使っていない。
「闇魔法Lv.8『ダークバインド!!』」
残された鎌で俺を横から攻撃しようとしていたモンスターの鎌にヒマワリの放った魔法が絡みつく。
「炎魔法Lv.7『フレイムジャベリン!』」
そして、今俺の剣とぶつかり合っている鎌にはシズクの魔法が直撃した。
その衝撃でモンスターは少しだけ仰け反り、俺は上手い具合に離れることが出来た。
「こいつ、強いぞ……」
さっき剣で攻撃を耐えていた時に分かったことだが、このモンスターの力が桁違いに高かった。
あの状況であと10秒耐えろと言われたら、俺では無理だろう。
「ヒマワリちゃん! 上よ!!」
シズクが真っ先に上を指差す。
さっきまで、俺の前にいたはずのモンスターはものすごいスピードで、少し離れたヒマワリの位置へと行き、飛べるとは思えない骨の羽で飛んでいた。ヒマワリとモンスターに少しだけまだ距離があったのが幸いだった。
「聖騎士魔法Lv.4 『シールドウォール!!!』」
俺の声が響き、俺とシズク、それに加え少し離れたヒマワリの前にすら、まるで城壁のように強固な壁が生まれていた。
というよりも、壁に俺たち自身が囲まれたと言っていいだろう。
だが、そんな壁はこのモンスターには意味すらなかった。
空を飛び、その勢いで振り下ろされる鎌は容易く壁を破壊し、やはりヒマワリへと向かっていく。
「ヒマワリ!! 俺と交換しろ!!」
「エンマ!? なんでそれを!?」
「早く!!!」
「わ、分かった! 次元魔法Lv.1『テレポート!』」
ヒマワリの魔法が唱えられた時、俺はヒマワリの位置へと転移した。
そして、ヒマワリは代わりに俺の居た場所に転移する。
それがこのテレポートという魔法だ。
対象を選択し、自分と位置を変えれる、下手をすれば相当強い魔法。
「『サウザントスラッシュ!!』」
振り下ろされる両手の鎌に対し、俺は無数の剣撃で対抗する。
ギリギリで俺の力が上回ったのか、激しい音を鳴らせた後に、モンスターはまた仰け反った。
その隙を狙い、シズクとヒマワリが魔法を放ったが、死角から撃ったにも関わらず、モンスターは意図も簡単に避けてしまった。
「嘘でしょ!?」
「なんで!?!?」
「あいつの目が原因か……」
今になってわかったが、やはりこのモンスターはカマキリをベースにしていた。
目は大きく、2本の鎌は鋭い、それに加え羽まで持っている。
見た目もほぼカマキリだった。
「二人とも。多分だが、あいつの目は特性上、360℃見れるはずだ」
「それはきついなぁ……」
「死角というものがないわけですもんね……」
俺たちは少しだけ話すと、先程のムカデ型のモンスターと同じように三人で別々に分かれた。
「ほら、かかって来いよ」
俺はモンスターへと挑発をする。
このモンスターはどう考えても、近接だろう。
ならば、相手としてうってつけなのが俺というわけだ。
そして、他にも俺が挑発した理由はある。
「聖騎士魔法Lv.3 『エンチャントシールド!』」
自身へとシールドを張る。
まぁ、気休め程度にしかならないかもしれないが、このモンスターの攻撃は地面を割るほどの威力だ。
これを纏わなければそくしということも有り得るだろう。
「来ないならこっちから行くぜ!!」
俺はモンスターへと剣を構えながら突撃し、スキルを発動する。
「剣技スキル『アーマーブレイク!』」
上から振り下ろし、相手の堅い所だろうが、関係なくダメージを与える技だ。
だが、もちろんこんなの防がれることは分かっている。
むしろそれが狙いだ。
何故かモンスターは俺の攻撃を両方の鎌で防いでくれた。運が良い。
「今だ!」
「えぇ!! 炎魔法Lv.7『フレイムジャベリン!』」
「任せて!! 土魔法Lv.8『アースインパクト!!』」
二人から放たれた魔法を、モンスターが避ける術はなかった。
後ろと下から放たれた魔法は、俺を巻き込みながらモンスターへとダメージを与える。
「はははっ。やっぱりか、これなら勝てそうだぜ」
俺はモンスターから少し離れ、回復薬を使う。
魔法に巻き込まれた故に、ダメージが少し受けているのだ。
だが、それ以上にモンスターはダメージを受けていた。
モンスターは確かに、動きは速い。俺達が目で追うのもやっとだろう。
それに加え、攻撃力もあり、死角もない。
それでも、欠点はあった。
それは、防御力が低い事だ。
数度に渡って受けたシズク達の魔法によって、既に一ゲージの半分は削られていた。
さっきのムカデ型のモンスターとは相手の体力の減り方が桁違い違うのだ。
「おっと、まじ速いな……」
俺が一息つく暇も与えず、モンスターは俺へと迫ってくる。
ギリギリで避けたにも関わらず、頬に切り傷が出来てしまった。
「ま、今の俺のやることは一つだけだからな」
モンスターの敵意を俺一人に集め、二人には魔法を溜めてもらう。
俺を相手にしていればさすがにモンスターも隙が生まれるはずだ。
そうして、俺はモンスターの注意を引き付けつつ、応戦した。剣で鎌を防御する。重い一撃だが、両手でなんとか耐える。もう片方の鎌はシズクが魔法を放ち、攻撃させないようにする。
そのあいだにヒマワリが俺を巻き込みつつ魔法を放つということだ。
それを利用して、何度か体力が大きく削られたり、ヒマワリやシズクが狙われて俺が庇って死にかけたりとあったが、少しづつモンスターの体力はなくなっていた。
「はぁはぁ……あと少しか……」
「エンマ! もう回復薬がないよ!?」
「マジかよ……やべえな」
「えぇ。そろそろ決着をつけないと、私達は負けるわよ」
三人の体力は既に半分近くしかなかった。
回復薬もない、絶望的な状況だ。
だが、モンスターもダメージを受けすぎた結果、速くは動けないようだった。
こうして俺達が話せてるのもモンスターの動きが遅くなったお陰だ。
「それじゃ、二人は休んでてくれ」
既に二人のMPは底をつき、攻撃手段はほぼなかった。
唯一攻撃出来るのが俺くらいだろう。
「ちょっと終わらせてくるわ」
「あなた、死ぬわよ?」
「ダメ!! 今回は逃げよ? ここまでやったけど、このボスなら転移石も使えるし……」
「大丈夫。俺に任せとけって」
そして、俺は二人の言葉を無視して、モンスターへと歩き始めた。
1月1日は流石に休みます……ごめんなさい!!
次回の更新は1月2日の深夜12時頃ですよー!




