71話 ルシフェルの為に
ルシフェルがただ連れ去られるのを俺は見ていた。
地面に立っている人間と羽の生えている天使とじゃ差がありすぎたのだ。
地に立って俺は飛んでいく天使達を見る。
街中では魔法も放てず、見てることしか出来ない。
幸いなのは、あいつらの行き先だけがわかったことだろう。
そして、俺の視界から天使達は消えていった。
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重い足取りで俺は宿屋へと戻っていた。
シズクとヒマワリへどう説明するか考えながら。
「はぁ……完全に俺のせいだな……」
自分が騙されたことに、それに加え、助けることが出来なかったことに腹が立った。
「エンマ。さっさと準備しなさい」
「ほらほら! 行かなきゃでしょ!」
宿屋の中を下を向いて歩いていると、俺の前に二人分の足が見えた。
そして、声も聴こえた。
もちろん、シズクとヒマワリの声だ。
「お前ら、本当にすまん……助けれなかった……俺が悪いんだ……」
片膝をつき、二人に対して謝る。
こんなので許されるとは思わない。だけど、俺の気持ちはせめて謝りたかったのだ。
「だから! 早く行こ!」
「……?」
「何言ってるのよあなた。ルシフェルちゃんが連れ去られたのは私達も悪いの。エンマが必死な時に私達は寝ぼけてたわけだし。それに、あなたは複製体に騙されたのだからしょうがないわよ」
シズクとヒマワリは俺を励ましてくれた。
俺が悪いのに、しょうがないという言葉まで掛けてくれた。
「あ、ありがとな」
「は、はいはい。ほら!行くわよ!」
「いや、シズク? どさくさに紛れて手とか繋がなくていいからね?」
「あんたはこんな時にそんなこと気にしなくていいでしょうが!」
「いや、これは大事な事だから」
「……あはははは!!」
俺はいつも通りの二人のやりとりについ笑いをこらえきれず笑ってしまった。
「なんで笑うの!?」
「あんたが変なこと言うからよ!」
「えぇ……」
「すまんすまん。なんかお前ら見てたら癒されたわ。それじゃ、助けに行こうぜ!」
「そ、そうね! 行きましょ!」
「よし! エンマも立ち直ったし、しゅっぱーつ!」
俺は本当にこの二人と出会えて良かったと思う。この奇跡的な出会いに感謝だ。
だから、俺はこいつらともう一人の仲間を助けなきゃいけない。
例え、エデンの塔が過酷な道だとしても、諦めるわけにはいかないのだ。
そして、俺たちは宿屋を飛び出し、エデンの塔攻略を始めるのだった。
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「ふぅ。ここに戻ってくるのも数日ぶりくらいか」
俺達が今いるのはエデンの塔70階層。
それも、初めて複製体と出会った分かれ道のある場所だ。
と言っても、今回は水の道を選ぶわけにはいかなかった。
以前見た時に、明らかにやばいモンスターが多数生息していたからだ。
死ねば終わるこの世界において、ルシフェルを助ける前に死ぬわけにはいかないのだ。
「ここは無難に真っ直ぐの道にするか」
「それもそうね。きっとこの道が一番安全だわ」
「私はエンマの判断に従うよー!」
俺たちは真っ直ぐの道を進んでいく。
進むにつれて、段々と横幅が広くなっていき、次第には広く開けた場所に到達した。
明らかにモンスターと戦う場所だ。
「……お前ら……逃げろ……」
どこから声が聞こえた。
周りを見渡して、声の主を探す。
すると、俺はあることに気づいてしまった。
「ここ、プレイヤーが倒れてるぞ……」
俺から見える位置からでも、10人程度が息はあるが、動けない状態であることがわかった。
それに、今俺たちの近くにも一人倒れている人がいる。
先ほど、声を発した人物だ。
「今助けるから! シズクとヒマワリは今近くにいる人に回復薬を与えてくれ! 俺はちょっと離れたところにいる人を回復させてくる!」
俺たちは三人でその場にいる人達を全員回復させた。
幸いにも、回復させているあいだ何も起きなかった。
「ありがとう。ここにいる人達を代表してお礼を言うよ」
どうやら、ここにいる人達は三パーティーで攻略している人達だった。
それをまとめているのが、今俺たちの前にいる声を出している男の人だ。
「すまないが、とりあえず俺はこいつらを街へと避難させる。警告しておくが、君たちも俺たちと一緒に付いてきた方がいい。三人じゃ適わない相手が出るぞ」
「でも、まだモンスター来てませんよ?」
「油断するな。俺は警告したぞ。あとはお前ら次第だ。とにかく、回復はありがとう。命の恩人として、今度お礼をするよ」
「あぁ。帰る時も気をつけろよ」
俺が男と会話し、シズクとヒマワリは周りを警戒していた。
そして、パーティーの人達が俺たちに頭を下げて戻っていった時、ある異変が起きた。
「なぁ、あそこにさっきまで扉なんてあったか?」
俺たちは男の警告に従わず、その場に残っていた。
というのも、ルシフェルのために戻るわけにはいかないのだ。
だから残っていた。そして、男たちを完全に見送ったあとに、何故か今まで無かった扉が出現したのだ。
「ねぇ、あれって、ボス部屋の扉じゃない?」
ヒマワリがちょっと震えた声で扉を指さしていた。
確かに、よくよく見ると、大きくてごつい扉。
ボス部屋の扉に酷似していた。
「二人とも! モンスターが来るわ!」
警戒していたシズクが声を上げる。
それと同時に、扉は大きな音を立てて閉まってしまった。
「キシャァァァア!!!!」
どこからが姿を現した、ムカデのような骨のモンスターが現れた。
体力ゲージは8本。
そして、体力ゲージの上に書いてあるのは、ボスのマーク。
やはり、この部屋はボス部屋だったのだ。
「こんな近くにいんのかよ……」
「みんなここでやられてた訳ね。だから、男の人が注意してくれたのかしら」
「私たちで勝てるよね?」
「どうだろうな」
モンスターは骨を鳴らしながら近づいてくる。
そして、モンスターの全貌が見えた時、俺たちは驚愕した。
「こいつ、デカすぎだろ……」
「時間が掛かりそうね……」
モンスターは相当な大きさだった。
ムカデの範疇を超えた大きさだ。
それに加え、このモンスターにある無数の足は鎌のように鋭く、刺されただけで致命傷は確実だろう。
「ま、倒すしかねえよな!」
「そうね! ルシフェルちゃん前に怖気づいてなんていられないわ!」
「ルシフェルちゃんの為だもんね!」
俺たちは武器を構え、モンスターと相対する。
そして、警戒していたモンスターが動き出して、俺たちの戦いは始まった。




