70話 騙し取り
俺達が襲われてから数日。
それからも俺たちは襲われ続けていた。
ただ、幸いにもルシフェルが一人の時を狙ってくるのだ。
未だにルシフェルの容態が安定せず、ずっとブツブツと寝言のように呟いている今、俺たちは交代で見張りをしていた。
一人がルシフェルの側で見守り、二人は睡眠や買い出しなどをする。
これを既に数日続けているわけだ。
当然、体調も優れなくなる。
一度だけ、四人が寝てしまい警戒がなくなった時に襲われたことがあった。
やはり、誰もいない、もしくは警戒されていないときにこいつらは襲ってくるのだろう。
それも、街や宿屋など関係なく、プレイヤーキルが出来ないエリアなんてこいつらには関係ないようだった。
「はぁ。なんか最近めっちゃ疲れてるなぁ……」
独り言を呟きながら、俺はストレッチをして体をほぐす。
周りには寝ているルシフェルしかいない。
シズクとヒマワリは睡眠中だ。
「でも昨日はルシフェルほとんど寝言言わなかったし、安定してきてるのか?」
ルシフェルに近づき、綺麗な顔に手を当てながら、呟く。
安定しているのか、今も寝息だけしかたてていない。
「街でも襲われるんじゃなぁ……早くルシフェルが起きてくれれば良いけど……」
俺たちは一度だけ、複製体に襲われたことがあった。
それも、買い出しの時にだ。
いや、襲われたというよりも、警告されたというのが正しい。
「オリジナルを渡せ。かぁ……」
周りにはNPCしかいない時に複製体は俺たちへと簡潔に言い、どこかへと去った。
だが、さすがにそう簡単にルシフェルを渡すわけがない。
ただ、街での戦闘はデュエル以外禁止されている。
俺達には実際に対抗できる手段がないのだ。
「エンマ!!! 来たわ!!」
ルシフェルが寝ている部屋をシズクがノックもしないで入ってきた。
それも、息を切らしながらだ。
「ど、どうしたんだ?」
「ヒマワリちゃんが襲われたのよ!!」
「どういう事だよ!!」
息切れしているシズクから状況を聞くと、どうやら二人が寝ている時に複製体がやって来たらしく、その音に二人は飛び起きたが、ヒマワリは無理やり複製体に何かをされて眠らされたらしい。
「でも、そうなると俺はここを離れるわけにはいかねえ……ルシフェルが襲われちまう」
「でも、相手は一人じゃないの?」
「複製体だからな、数がいるかもしれねえだろ……」
「ヒマワリちゃんがなにかされても良いの!?」
「ダメだ……だから、シズク。お前はここを見ててくれ。俺が行ってくるよ」
シズクの肩に手を置き、ルシフェルを任せてから俺は走り出した。
そして、ヒマワリ達が寝ていた場所に辿り着くと、思いっ切りドアを開けた。
「……ん? どしたのエンマ……」
「もう交代の時間かしら……?」
俺は唖然とした、ドアを開けた先に寝ぼけた二人が居たのだ。
さっきまで息切れまでしていたシズクが今こうして俺の前で目を擦っている。
そこで、俺はなにかに気付いた。
シズクはいつも、急いでる時でもノックをして部屋に入ってきたのだ。
なら、あの時のシズクは……
「やべぇ!!」
「……?」
「エンマどうしたのかしら……」
俺は駆け出した。二人の部屋のドアを開けたままでルシフェルの部屋へと走った。
「ルシフェル!大丈夫か!!」
俺が部屋に入った時、既に遅かった。
窓の外にはルシフェルを抱えながら羽ばたいている複数の色のないルシフェルがいた。
「オリジナル確保。オリジナルの役目剥奪。これより、オリジナルを主の元へと返し、洗脳の準備をする」
どうやら、ルシフェルは洗脳されていたらしい。
ということは、俺たちといてルシフェルの洗脳が解けそうになったから、役目を剥奪し、今こうして連れ去ろうとしていた訳だ。
だが、そう簡単に行かせるわけにはいかねえ。
「ルシフェルを返しやがれぇぇ!!!」
俺は勢いよく窓から飛び出し、複製体に張り付こうとしたが、難なく躱され、結局俺は地面へと落下した。
そして、複製体達はルシフェルを大事に抱えながらエデンの塔へと運び去っていった。




