66話 警戒は必要
花畑から街へと向かおうと思った時、既に日は沈みかけていた。
だが、この夕暮れの中、転移石を使わずに俺たちは街へと歩いて向かっていた。
特にこれといって危険があるわけではないので、夜でも出歩いて大丈夫なのだ。
「エンマ。あの花、綺麗」
「お、そうだな。取ってきてやろうか。と言いたいところだが、さすがにこれ以上は花要らねえだろ」
「欲しいけど我慢する」
「お、偉いな」
俺とルシフェルは何故か、仲良く手を繋ぎながら街へと向かっていた。
俺の中で、ルシフェルは妹のようなものなのだ。
手を繋ぐくらいどうってことはない。
というか、ルシフェルから求めてきたのだから、俺は悪くない。……はずなのに、どうして俺はこんなにも睨まれているのだろうか。
「「…………」」
時折振り返っては、俺のことを睨んでくる二人。
なにか悪いことでも俺はしたのだろうか。
「ねぇルシフェルちゃん? ほら、お姉さんと手を繋ご?」
ヒマワリが先に動き出した。
俺の傍へと来て、ルシフェルを俺から引き離し、手を繋ごうとしているのだ。
ようやく、俺が睨まれている理由が分かった気がする。
いわゆる嫉妬されていたのだ。
「ほら、ね? エンマには私がいるから、ルシフェルちゃんはシズクっていうお姉さんと手を繋ぎな?」
こいつは何を言っているんだ?
てっきりルシフェルを俺から離して自分が繋ぐのかと思いきや、むしろヒマワリ自身が俺と手を繋ごうとしてきやがる。
何考えてんだこいつは……
「やだ」
「えぇ……そんなにエンマのこと好きなの?」
「……好き? そんな感情抱いたことないから分からない。だが、エンマの近くは落ち着くから離れない」
「ちょ、ちょっと待って? ヒマワリちゃんもどいて! ルシフェルちゃんはエンマのことどう思ってるの!?」
「わかんない」
「ほらお前ら、ルシフェル困ってるからもういいだろ。そろそろ街につかねえと、真っ暗になっちまう」
確かに、この付近は危険はないが、真っ暗になると周りか見えなくなる。
めんどくさいことになるから、それは避けたかった。
「そ、そうね。でも、とりあえず私もエンマの近くを歩くわね」
結局の所、ヒマワリとシズクも俺の近くを歩き、何故か俺は重要な人物化のように囲まれて街へと歩いて行った。
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無事に街へと辿り着き、真っ先に俺たちは宿屋へと向かった。
この街も小さな街であり、宿屋は二つ三つしかない。
ただ、その宿屋はどれも高品質というか、相当良い宿屋だった。
部屋は大きな街にも劣らずの綺麗さ、まず入口からとても綺麗だった。
「おぉ……始めてきたけどこの宿屋良いなぁ!」
俺はついつい感嘆し、声を上げてしまった。
「落ち着きなさい」
シズクに止められ、俺はひとまず落ち着く。
そして、宿屋の部屋を取ることにした。
幸いにも、部屋は二つ空いていて丁度よかった。
「それじゃ、エンマ一人と、私たち三人で良いわね? 二人部屋だからちょっと狭いかもだけど、まぁ男女が同じ部屋なのは危ないわ」
シズクが淡々と話すが、こいつは何ヶ月俺とひとつ屋根の下で暮らしていたか覚えていないのだろうか。
「ま、俺はそれで大丈夫だな。久々に一人でゆっくりさせてもらうよ」
ほかの人もみんな同意し、俺たちは鍵を貰って部屋へと向かった。
ルシフェルは同意というか、よく分かっていないままヒマワリとシズクに連れていかれただけなのだが。
「よっしゃー! 一人だ!!」
俺はベッドへと飛び込み、少しのあいだ寝転んだままでいた。
ふとそんな時、俺はこれから先にについて頭の中で考え始めていた。
「(エデンの塔をクリアしたらどうなるんだ?)」
心に中で考える。声には出さず、ただひたすらに。
考え出すと止まらないのだ。
映像通りならば、俺たちは確かに元の世界へと戻るだろう。
だが、またこの世界は魔物に脅かされ、俺たちのような見ず知らずの人が強制的に呼ばれてゲームと称され攻略させられる。
それは止めなければならない。被害者が出ないというのが大事だ。
……いやでも、この世界に残りたいという人はどうすればいいんだ? 強制送還されるならば、不本意の内に日本へと戻される事となる。
「本当にゲームにする……?」
ふと考えていたことを呟く。
「おーい!エンマ!! 私たちお風呂行くねー! なんか下に大浴場あるらしいからー!」
ドアの向こうから、ヒマワリの声が聞こえ、俺は我へと帰った。
「おう! 了解!」
ひとまず言葉を返し、俺も自室にあるシャワーで汗を流す。
シャワーで体を流したあと、疲れきっていたのか、俺はベッドへと倒れ込み、瞼が落ちそうになっていた。
「そいや、鍵閉めたっけな?」
虚ろゆく視界の中で、俺はドアへと近付こうとする。
そんな時、ドアが開き、誰かが入ってきたのを見たあと、俺の瞼は完全に落ちた。
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「……んん……いい朝だな」
次気づいた時、俺はベッドの上で寝ていた。
そして、妙に違和感のある物体が俺の横に寝転んでいる。
小柄な少女。一人しか居なかった。
「ルシフェルかぁ……」
不可抗力なのだが、現に今もルシフェルが勝手に抱きついてきて寝てるし、何気に力が強くて離れないのだ。
この力ならばもしかしたら、この小柄な少女でも俺をベットの上へと運べるかもしれない。そう思った瞬間だった。
少しのあいだ時間が経ち、時々ルシフェルの寝言を聞きながら俺はヒマワリとシズクが来るのを待っていた。
「……ドールのそば……落ち着く……」
ちょうどルシフェルが4度目の寝言を言った時だった。
昨日からやはり開けっ放しだった、俺の部屋の扉を思い切り開け、シズクとヒマワリが入ってきた。もちろん、すっぴんだし、服も寝間着のままだ。
二人に何故か睨まれたが、俺は潔白を証明し、少し信じてない様子だが、ひとまずルシフェルを連れて部屋へと戻っていった。
俺は呆然としてそれを見て、その後我に返り支度を始めた。
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「エンマ。今日の朝の私たちの顔は忘れなさい。さもなくば、あなたの頭を魔法で爆破しなければならないわ」
部屋から出た瞬間、俺はシズクから脅迫された。
「とりあえず落ち着け。もう忘れてる。うん。覚えてないから落ち着いてくれ」
「エンマ? 何を焦ってるの? 大丈夫だよ? 忘れてるんでしょ?」
女の子のすっぴんを見たのはそんなにダメだったのだろうか。
男の俺には分からなかった。
ルシフェルに至っては、この騒ぎでも寝ぼけた顔で顔を擦っていた。
「忘れてるから!! とりあえず朝食食おうぜ?」
「それもそうね。これから先の話をしないとだし」
「うんうん! お腹すいたから行こっ!」
「まだ眠い……」
突然いつも通りの二人に戻ったことに俺は驚いていた。
こんなにも、すっぴんというのは見てはいけないのだろうか。どうせ、このまま一緒にいればいつかは見られるというのに……何故なのだろうか。本当にわからない。
「ん! 美味しい!」
「おお!確かに美味いな」
「美味しい……」
「美味ね……」
結局はすっぴんの事など本当に忘れ、みんなで仲良く朝食を食べた。
そして、今後のことを話し合い、次の俺たちの目的地はエデンの塔という事となった。
ただ、未だに俺が思うのは、神殿があった街で起きた事件だ。
あの時ドールが現れたのは抑止力なのか、それとも、元々少女が計画して人間の魂を使ったのか。ただの殺人ギルドが思いついた事なのか。
その時のルシフェルには記憶があったのかもしれない。
だから俺は、ひとまずルシフェルにこの疑問を訊ねなければならなった。ルシフェルが白ならば、殺人ギルドを潰さなければならない。
ルシフェルが黒ならば、俺は対策を考えなければならなかった。
だが、記憶がない今、聞く方法は無い。その為、記憶が戻ってからだが、真実を知るその時までは今までのように俺はルシフェルと仲良くしているだろう。