65話 プレゼント
お花畑で遊んでいるシズク達から離れて寝ていた俺は、不意にのしかかる重さにびっくりして飛び起きた。
いや、飛び起きれなかったが正解だ。
寝ている俺の上に乗っていたのは、シズクとヒマワリとルシフェル。
さすがに三人を乗せたまま起き上がることなど出来ず、しょうがなく俺は三人を無理やりどかし、立ち上がった。
「荒いよエンマ!!」
「私が怪我したら責任取ってくれたのかしら?」
「痛い……」
ヒマワリとシズクはともかくとして、ルシフェルにはさすがに謝っておいた。
多分こいつらが俺の上に乗ったからノリで乗っただけだろうし、ルシフェルには悪気はないだろう。
「まぁ、さっきの出来事はとりあえず置いといて。エンマ! さっきなんかカップルが話してるのを聞いたんだけどさ! このお花畑の端っこ? に崖みたいのがあってめっちゃ綺麗なバラが咲いてるらしいよ!」
「ヒマワリちゃん……曖昧すぎてエンマに伝わってなさそうよ……」
シズクの言うとおり、俺の頭は色々こんがらがっていた。
ヒマワリの言葉には所々疑問符があったり、ちょっと適当なのだ。
まぁ大体は合ってるから分からなくもないんだが。
「綺麗なバラ……欲しいな……」
ヒマワリの言葉を聞いてボソッと呟いたルシフェル。
「なぁ、端っこってどの辺なんだ?」
「そうね。私の感だとここから東方面だと思うわ。西には町があるし、まぁただの勘だけど」
「んじゃ、そっち行ってみよー! どうせモンスターも出ないし安全だから間違ってても大丈夫でしょ!」
「それもそうだな。とりあえず行ってみるか!」
「歩くの頑張る……!!」
俺たちは多少なりとも会話しながら東へと進んで行った。
カップルが話していたという信憑性の薄い情報を元に、存在するかも分からないバラを見つけに。
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「はははっ……こんなの取れねえよ……」
俺達が東へと進み、どんどん進んでいった時、シズクの感は当たった。
確かに、崖はあったし、カップルの情報も本当のようで、綺麗なバラというか、ダイヤモンドのように光っているバラが咲いていた。
たった一輪だけのバラだけど、問題は咲いている場所だった。
「これはちょっと私でもキツいなぁ……」
「あらそう? 私の魔法使えば簡単に取れそうだけど?」
「そんなこと言ったら私だって魔法使えば取れるわよ!!」
「んじゃどっちが先に取れるか勝負しようよ!」
そして、二人の勝負は始まった。
まず、シズクが『ウィンドカッター』で切って、その後、『ウィンド』という微弱な風魔法で上空に打ち上げて、取ろうと思った時に、ヒマワリがジャンプして先に取ってしまった。
シズクは怒っているが、まぁヒマワリが結果的に取ったからヒマワリのものだろう。というか、完全にヒマワリはこのタイミングを狙っていたようにも見えた。
えっ? 俺は何してたって? ただ突っ立ってただけだよ。
俺はそんなに器用に魔法使えないしな。
「はいこれ! あげる!」
「いいの……?」
「うん! その為に取ったんだし!」
「崖から取ったのは私よ!!!」
「いや、まぁ手にしたのは私だし!」
「ありがとう。嬉しい」
俺はその時、初めてルシフェルの笑顔というものを見た。
今まで全くもって感情を表現しなかったルシフェルがヒマワリからバラを貰って少しだけ笑顔になっのだ。
ほんの少しの反応だが、これも何かに繋がるかもしれない。
「まって!私はこれあげるわ! 密かに作ってたの!」
「花……冠?」
「おお! シズクお前すげえな。そんなもんまで作れるのか」
「わ、私だって作れるし!」
ルシフェルの頭に乗せたシズクの花冠はとても綺麗だった。
そして、あまりの綺麗さに俺はシズクを褒め称えるが、ヒマワリはシズクに対抗して花冠を作ろうとする。
が、焦って作ったところで上手く作れるわけもなく、花はぐちゃぐちゃになっていた。
「ま、とりあえずそろそろ街行こうぜ! 宿屋も取らないといけねえしさ!」
時刻はそろそろ夕方に突入しそうだった。
このままだと街に着く頃には日は沈むだろう。早いうちから街へと向かった方が良かったのだ。
「それもそうね。また明日遊べばいいし、街に向かいましょ」
「色んな人が居てちょっとこわい……かも?」
「大丈夫大丈夫。俺達が居るし問題ないぞ」
「うんうん! 私が守るから大丈夫だよ!」
あまり人と接しなかったからなのか、俺たち以外の人と会うのが少し嫌なのだろう。
「それじゃ、街へと向かうか!」
「「はーい!」」
シズクとヒマワリは先々歩き、ルシフェルは俺の袖をつまみながら俺と共に歩く。
こうして、お花畑で遊んだ俺たちは、太陽に背を向けながら街へと向かっていった。
途中、俺のそばにルシフェルが居ることによって、シズクとヒマワリが不機嫌そうにしていたのは内緒だ。
今日一日、ルシフェルという妹のような存在を二人が取り合っている場面を見ることが出来た、とても平和な一日だった。




