64話 平和
少しのあいだ平和な時間が続きますよ(ノ∀`笑)
ルシフェルを混ぜて4人になった俺たちは、次どこに行くかを話し合っていた。
「なぁ、お前の記憶はどこに行ったら戻りそうなんだ?」
ルシフェルに俺が訊ねるが、分からない。の一言だけで終わってしまう。
ルシフェルは記憶と共に感情表現も失ったのか、今まで俺たちと出会ってからほとんど笑顔も見せたことがない。
ずーっと同じ顔のまま話し掛けてくるのだ。
「うーん。エデンの塔に行く?」
「まぁ、そろそろ行ってもいい頃合いかしらねぇ……」
ヒマワリとシズクも頭を抱えながら考えていた。
多分だが、ルシフェルは戦闘に関しても役には立たないだろう。
その点を考えると、エデンの塔。それも、俺達が行くのは高い階層だ。
攻撃を食らえば即死もあるかもしれなかった。
だから、二人はエデンの塔に行くか考えているのだろう。
「私、お花畑行きたい……」
「花畑?」
「うん。生まれてからずっと夢だったの」
「お花畑に行ったら、何か変わりそう?」
シズクが近くに駆け寄り、優しく問い掛ける。
「分からない。でも……行きたい」
子供のように行きたいと呟くルシフェル。
「見て見て! この部屋にもお花が咲いてるよ!!」
ヒマワリが指差した所には、天井に唯一ある窓から光が洩れている場所だった。
そこには、全面コンクリートの部屋にも関わらず、一輪の花だけが力強く綺麗に咲いていた。
「私、そこには咲くお花を何度も見てきた。でも、毎回一輪だけ。だから、いっぱいのお花見たいの」
「よし分かった! それじゃ、お花畑行くか!」
「それもそうね。エデンの塔の上の階層は危ないし、とりあえずは安全な所で記憶を復元させましょ」
「賛成! 私もお花見たいし!!」
みんなが賛成したところで、俺は袋から転移石を取り出そうとした。
お花畑があるのは、エデンの塔の24階層だ。
そこは、ボスを倒せば休憩所というか、観光スポット?いや、 デートスポットのような所になっているエリアだ。
カップルや気楽に休んだりする人が多いエリア。
年中晴れで、風も程よく、昼寝には丁度いい。24階層から出なければ魔物は現れず、このエリアには宿屋なども置いてある。軽い街的なのもあるのだ。
街があるところ以外ほとんど花畑というところが少しあれだが、まぁ花畑が見たいとなればここに行くしかないだろう。
もちろん、人が通る道は花は咲いておらず、ちゃんとした街へのルートもある。
そんな場所に行こうと思ったのが、どんなに探しても転移石はなかった。
「なぁ、二人は転移石を持ってたりしないよな?」
恐る恐るシズクとヒマワリに聞くが、二人は首を振る。
「あー。やべぇなこれ。歩いて街戻るかぁ……」
「そうだね……」
一気にみんなのやる気がなくなり、俺たちはトボトボ歩いて街へと戻っていった。
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街へとようやくたどり着いた時、未だその場所に人はいなかった。
ヒマワリの魔法である氷が存在しており、辺りは冷え込んでいるが、人が居なければ特に関係は無いだろう。
そんな中、俺たちは道具屋に寄った。もちろん、店主はいない。
だが、転移石が欲しい以上、俺はお金を普段の倍額置いて、無断で貰っておくことにした。
これはどうしようもない事だ。
「犯罪になんないよね?」
「まぁ、お金は置いたし、大丈夫だろ……多分」
「もう!そんなこと考えてないで早く行くよ! ルシフェルちゃんも楽しみにしてるんだから!」
「お花畑……わくわく……」
シズクが珍しく、俺たちに対して大きい声を上げ、転移石を俺から取り上げた。
そして、目的の場所を呟き、俺たちはみんなエデンの塔の24階層へと転移した。
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転移が終わり、目を開けると、そこには色とりどりのお花が咲いていた。
蜜を求め彷徨う蝶。モンスターは一切居ないエリア。
楽園とも言える場所だ。
「……すごい……」
ルシフェルは密かに喜んでいた。感情は顔には出さないが、言葉が喜んでいる。
それだけで何となく俺も嬉しくなっていた。
「ねぇ、エンマ。一回さあの子のこと鑑定してみてよ。もしかしたら何かわかるかもよ?」
ヒマワリが小声で俺に鑑定を提案してきた。
確かに、最近使ってなかったが、鑑定を使えば何かがわかるかもしれない。
「んじゃ、鑑定してみるか」
『鑑定不能。システム上の範囲では鑑定出来ません』
「はっ?」
鑑定を発動した瞬間だった。
てっきりステータスが現れるかと思いきや、鑑定が出来ないと言われてしまった。
やはりルシフェルは特別な生物なのだろうか。
「エンマ。鑑定はどうだった?」
「ダメだ。なんか鑑定出来ないらしい」
「そっか。ま、でもあの子なら多分大丈夫だよね! 私たちに危害は加えなさそうだし!」
どうやら、ヒマワリはルシフェルの危険性を知りたかったようだ。
やはり、見知らぬ、それも監視役とも言っていたルシフェルを信用するのは少しだけ難しかったのかもしれない。
だが、今のヒマワリはもう吹っ切れていると思う。
きっと、本当は信じたかっただけ。
だから、鑑定も俺に頼んだ。
その結果が鑑定不能だ。むしろ、このお陰でヒマワリの中で何かの決心がつき、信じるのを決めたのかもしれない。
「よし!それじゃ、お姉さん達とあそぼっか!」
「何言ってんのよ! 私がルシフェルちゃんと遊ぶの! あんたは一人で蝶でも追いかけてなさい!」
「はぁ? あんたこそ一人で遊んでなさいよ!」
「喧嘩ダメ。みんなで遊ぼ?」
ルシフェルが上目遣いという技を使い、ヒマワリとシズクを一瞬で黙らせていた。
これは、良い子をパーティーに入れたかもしれない。
「さすがルシフェルだな。これからも二人を黙らせるの宜しくな」
「何言ってんのエンマ!」
「ほんと! 私達はいつも静かよ!」
「いやいや、それはないだろ」
「「エンマなんて知らない!!」」
二人は怒ってしまったようで、ルシフェルを連れてどこかへ行ってしまった。
一人取り残された俺は、この平和な空間で少しだけ横になり、花達に囲まれて一時の休息を得るのだった。




