61話 白の空間
示された道を進み、俺達は緊張しつつも、好奇心の方が勝っていた。
果てしなく続くように見えるこの道も、いずれはどこかへと辿り着く。
そんな気はしていたが、どうやら永遠と続くようだった。
本当に先が見えない。
同じ景色をグルグル回る。いや、同じ景色をずーっと歩いている。
頭までおかしくなりそうだった。
「本当にこの道真っ白ね……」
「頭の中まで真っ白になりそうだよ〜……」
「ほんと、いつまで続くんだろうな……」
この会話も久しぶりのものだった。
最初のうちは俺達も賑やかに会話していた。
だが、やはり会話というのは長続きしない。
景色も変わらなければ、見るものもない。
話題などほとんど限られたものしかなかった。
それでも、ほんの5時間程は喋っていただろう。
既に時間の感覚が無くなってきている今、何時間歩いているのかすら分からなくなっている。
「疲れないのが不思議よね。それに、なせか立ち止まれない。謎だわ」
シズクが独り言のようにボソッと呟く。
小さい声だが、この静かな空間には良く響いていた。
「エンマぁ……本当にこの道であってるの?」
ヒマワリが俺にこのセリフを訊ねてきたのは何度目だろうか。
だが、ヒマワリが俺に聞く問いに俺は答えられない。
合ってるかなど分からないのだ。
ただ示された道を進んでいるだけなのだから。
「さぁな。でもここまで来たら引き返せないだろ? それに、シズクも言った通り、立ち止まれないしな」
「そうだよね! それに、疲れないから正直体には負担はないけど、ちょっとだけ頭の中が白くなってくんだよね。だから、ちょっと同じこと聞いちゃったの!」
「そうか……確かに、この道は危ないかもな……」
頭の中まで真っ白に染まりそうになるこの道。
ヒマワリが同じことを聞いて安心したい気持ちは分からなくもなかった。
疲れもしない。歩くことをやめることも出来ない。
まるで機械のように動く俺たち。
どうして止まれないんだろう。
分からない。
今ならまだ引き返せる?
無理だ。そんな気持ちすら湧かない。
引き返したらダメ。心に植え付けられたかのように、引き返すということが出来ない。本能的に出来ないのだ。
「エンマ……あれ? どうして私達ここを歩いているんだったかしら」
「シズク? どうしたの?」
「あ、い、いえ。なんでもないわ」
「大丈夫かシズク。と言っても、休めないんだが……すまん……」
「大丈夫よ。問題ないわ」
休むか?
という言葉が俺の口から出そうになっていた。
だが、そんな言葉を口にしたところで止まれない以上休めない。
気休めとしてもそんな言葉は口にすら出来なかった。
「ねぇ。どうして私達はこんな世界に居るの?」
「ヒマワリちゃん?」
俺たちの数歩後ろ。
自分の意思で立ち止まれる筈のないこの道で、ヒマワリは立ち止まっていた。
不自然に上を向き、目は真っ白に染まっていた。
俺とシズクは極限まで歩みを遅くし、ヒマワリをこちらへ戻そうとした。
手を伸ばしたが、ヒマワリが手を伸ばさない以上届かなかった。
「シズク! ちょっと手伝ってくれ!」
「シズク? 誰よそれ。あなたは誰なの? どうして私はここにいるの? 分からないわ」
俺の横を遅く歩いていた筈のシズクは既に立ち止まってしまっていた。
「シズクまで……」
歩いていると思っていたはずの俺の足。
だが、ふと下を見た時、真っ白だったその道は真っ黒に染まり、誰一人居ない、虚無の空間へと変化していた。
シズクもヒマワリも居ない孤独の空間。
「───ははっ。これ、俺の昔の心の中みてえだな」
真っ黒で誰も居ない場所に俺はいる。
俺の昔は、こんな風に真っ黒な心だった。
ずっと孤独で、友達なんて出来ないと思っていた。
『そこから抜け出してみせよ。さすれば道は開かれる』
脳内に響く声。
そんな声にすら俺は恐怖を覚えてしまった。
黒は人を暗くする。そして、真っ黒な空間は、恐怖すらも生み出す。
本当に俺はシズクとヒマワリから友達として見られていたのか。
本当はただの戦力として居るだけで、仲間としてすら思われていないのかもしれない。
「ダメだ。考えるな。考えちゃダメだ」
全てを悪い方向に考えてしまう。
心まで真っ黒に染まりそうだ。
真っ白に染まり、黒に染められる。
無から恐怖を味わい、ネガティブな考えへと導かれる。
そんな気がした。
ダメだと思っても、俺は本当に必要とすらされていたのか分からない。そんなような事を考えてしまう。
既に俺の中で抜け出すという事が考えられなかった。




