60話 認められし者
俺は走った。
剣を持ち、再生するパペットドールの息の根を止めるため。
だが、相手は糸が使えないとはいえ、顔さえあれば牙を向きこちらに噛み付いてくる。
さすがにこいつの鋭い歯で噛まれたら死ぬ事は無いとしても相当なダメージを受けるだろう。
そんな危険性を考えつつも、俺はついにパペットドールの前へ来てしまった。
「はははっ。めっちゃこっち見てるな」
やはり顔は再生してしまったのか、目の前にいる俺のことを睨みつけている。
「ま、これで終わりだしな。殺るしかねえ!」
剣を握る手により一層力を込め、俺はパペットドールへと近づく。
まだドールは足が動かないのか、俺を見ることしか出来ない。
「うおおおおぉ!!!」
剣を前へと突き出し、心臓があるだろうと思われる場所に突き刺す。
それと同時に、パペットドールは唯一動かせる顔を使い、近くに寄った俺へと噛み付こうとした。
間一髪で俺は剣だけを突き刺し、左へと避けた。
その衝動で、突き刺した剣を離し、横へと転がってしまったが、俺が元いた場所には牙を剥いたパペットドールが虚空を噛み切っていた。
歯と歯がぶつかる音が一瞬響き、パペットドールは動かなくなった。
「エンマ! 倒したの?」
ヒマワリが俺の近くへと寄り、パペットドールについて訊ねる。
それに続いて、シズクも小走りで近付いてきていた。
「さぁな。とりあえず動いてなさそうだし、さすがに死んだだろ。ってか、死んでくれねえと正直やばいわ……」
「だよね。私も結構やばいかも……MP回復薬とか結構使ったし……」
「あら。私は余裕よ?」
「シズクはあんま魔法撃ってないからね……」
「いや、私には役目があっただけだからね? 糸を切るのが私の役目だっただけ!」
「ま、結局勝てたから良くね?」
「でもまだボス討伐のやつ来てないよ?」
「それもそうね。やっぱりまだ生きてるのかしら……」
俺は念には念を込め、MPの残っているシズクへと死体撃ち、いや、パペットドールへと魔法を放つように頼んだ。
「炎雷魔法Lv.4『白炎雷!!』」
シズクの放った魔法は、パペットドールへと直撃し、激しく爆発した。
煙でパペットドールは隠れてしまい、どうなったか未だ分からない。
数十秒間の間、俺達は煙を見ていた。
そして、煙が晴れそうになった時、煙の中から影のようなものが現れた。
「二人とも、念の為距離を取っとけ! やっぱりあいつまだ死んでねえぞ!」
「えぇ! とりあえず、三人で分かれましょ!」
「うん! 私もあんまりMPないけど、迎撃できるように魔法を構えとく!」
俺達が煙から距離を取り、影からパペットドールが出てくるのを警戒しつつ待った。
そして、俺が瞬きをした一瞬。
俺の目の前、息すらも当たる場所にそいつは立っていた。
全身に冷や汗が流れるのを感じたが、肝心の剣を拾うのを忘れていた俺は、ただなにもせず迎撃することも出来ない。
シズクとヒマワリが何かを叫んでいる。
多分、二人は魔法を放とうにも、俺に当たるのを分かっているからか放てないでいるのだ。
そして、パペットドールが再生した手を俺へと構え、さっき俺がやった動作と同じように心臓へと突き刺そうとしている。
「ははっ。これは死んだわ……」
死を覚悟し、最後に二人へと俺を巻き込んで最大火力の魔法を放つよう声を出そうとした。
『ドール。終わりよ。この者達とは少しだけ話がしたい。奥へと通しなさい』
脳内へと声が響き、その言葉はパペットドールにも聞こえたのか、ドールは俺の前から去り、戦闘していた部屋から奥へと行ける道を示し、影へと飲み込まれていった。
少しだけ負けたことへのショックはあるが、殺されなかったのが幸いだろう。
だが、何故この声の主は俺たちを奥へと通す気になったのか分からない。
「エンマ!!!大丈夫だった?」
「あ、あぁ。なんか声が聞こえてな」
「えっ? 私は声なんて聞こえなかったわよ? 急にあいつが消えたようにしか見えなかったけど……」
どうやら、シズクとヒマワリには脳内に響く声が聞こえなかったようだ。
「まぁでも、なんとなくだけどさ、パペットドールって絶対に死なないよね。なんか、システム上で死なない感じがする。それか、本体がどっかに居るとか。そんな感じ!」
ヒマワリの言う言葉は、なんとなくだけど俺にも理解出来た。
というより、俺もそんな気がしていた。
あいつを倒すことは現状の俺らには出来ない。
その事だけは俺達三人が分かっていただろう。
「ま、とりあえずさ、なんかこの部屋から奥の道? ってやつの場所分かったし行ってみようぜ?」
二人にそう提案し、返答を待つ。
「そうなの? 奥になにかあるのかしら」
「なにそれ! 行ってみたい!!」
二人は好奇心に負けたのか、快く了承してくれて、俺達は奥の道を進むこととなった。
「ま、とりあえず体力とか回復してからだけどな!」
「アイテムなくなっちゃうね」
ヒマワリが笑っているが、たしかに俺たちの現状持っているアイテムは今使えばほとんど尽きるだろう。
少しストックが少なすぎた。ただそれだけだが。
「ま、勘だけどさ、奥にはモンスター居ないと思うんだわ。だから大丈夫だろ」
奥へと進む道。
それは、壁を叩き、出てくる隠し通路。
そんな道だった。
その通路を先に出現させ、俺達は通路の前でアイテムを使い、奥へと進む準備を始める。
念の為何が起きても良いように……




