59話 ドールの力
人形へと突撃した俺は、華麗に敵の攻撃を避けながらひたすらに破壊していた。
だが、やはり無数に居る人形を片っ端から完全に粉々にすることは出来ない。
1体を破壊すれば、複数の人形が俺へと襲いかかる。
要は、トドメがさせないのだ。
俺の行動はただの足止めにしかなっていない。
だが、俺に注意がどんどん向くことにより、既にヒマワリ達の周りには少数の人形しか居なく、ヒマワリがどんどん魔法で粉々に消し去っていた。
「ほんとこいつらうぜえな」
愚痴を吐きつつも、敵へと攻撃を繰り出す。
やはり、人形一体一体にそれほどの力はなく、むしろ弱いと言えるレベルだった。
でも、安心は出来ない。前回は、パペットドールが復活するたびに人形は増え、強くなっていた。という事は、最大限人形を減らし、ヒマワリも魔法に集中出来る場面を作らないといけない訳だ。
幸い、パペットドールの再生には確か、少しの時間が掛かったはず。そこを狙うしかない。
「シズク! そろそろ切れるか?」
「ええ!!もういけるわ!」
「分かった! んじゃ、ヒマワリ! 氷の魔法を頼むぞ! お前らの守りは俺に任せろ!!」
「はーい!! 任せたよエンマ!」
「それじゃ、切るわよ!! 風魔法Lv.10 『荒れ狂う暴風刃!』」
前回よりも、パペットドールの操る糸は多い。
故に、広範囲の魔法が必要だった。
だから、シズクは魔法を放つのに時間が掛かったのだ。
だが、その時間分を補う程の威力は俺の目の前で証明された。
糸を切るどころか、本来の目的を達成しつつも、複数の人形を木っ端微塵にし、パペットドール本体も傷だらけにしていた。
「よし! ヒマワリ! 魔法にはどれくらい掛かる?」
「この範囲だと多分、2分くらい!!」
「了解。んじゃ、とりあえず俺は倒れてるこいつを再生しにくいようにダメージ与えとくわ」
「私も念の為また広範囲魔法を溜めとくわ。人形がいつ復活しても良いようにね」
シズクとヒマワリは魔法を溜め、俺はパペットドールへと近付き、再生しつつある体にスキルを与える。
「『サウザントスラッシュ!!』」
固有スキルを発動し、俺のスタミナを使って再生しかけていた体を再起不能へと陥らせる。
だが、それも束の間、俺の攻撃を超えるスピードで再生するパペットドールの体はそろそろ動けそうという段階まで来てしまっていた。
「エンマ! 離れて! もう撃てる!」
「了解!」
パペットドールから離れ、俺の後方へとヒマワリが魔法を放つ。
「神氷魔法Lv.1【絶対零度】」
俺はギリギリダイブし、ヒマワリの魔法の範囲から逃れる。
間一髪だった。多分、ダイブしなければ俺の足は凍りついて切断しなきゃいけなくなっていただろう。
「ふぅ。これで私たちの勝ちだね!」
「ま、そうだよな。さすがにこの凍った状態だとうごけねえだろ」
「それにしても、なんだかこのモンスター凄いわね。まるでピエロみたいだわ。帽子や顔がそっくり」
「そういや、なんかこいつの操っている人形もピエロに似てた気が……」
「ふーん。ま、私はとりあえず勝てたからそれで良いよ! 別にこのモンスターがなんであろうと興味ないしね!」
「でも待って、本当に私たち勝ったのかしら?」
「どういう事だ?」
「うんうん。シズク何言ってるの? ほら、私の魔法で凍ってんじゃん。これで生きてたら相当だよ?」
「いや、でも、ボスを討伐したらちゃんとクリアになるはず……二人とも! モンスターから離れて!!」
「「───えっ?」」
俺とヒマワリが同時に後ろに向いた時、凍っていたはずのパペットドールが俺たちへと口を開きながら迫っていた。
それも、両腕と両足がない状態でだ。
「炎魔法Lv.8『業火の槍!』」
俺は死を覚悟していた。眼前へと迫っていた鋭い牙を見た時、咄嗟に目を閉じ、現実から目を逸らした。
だが、俺へと襲うモンスターは間一髪の所でシズクの魔法により貫かれ、遠くへと吹き飛ばされていた。
「ありがとシズク。今回だけは感謝するわ」
「そうね! 私に感謝するといいわ! 二人の命の恩人なんだから!」
「ははっ。そうだな」
「ちょっと、あのモンスターを見てちょうだい。あいつさっきまで両足なかったのにもう生えてるわよ。これは本格的にやばいわ」
「えぇ!? もしかして、あのモンスターの体力無限!? そんなの勝てるわけないじゃん!」
ヒマワリが理不尽な敵へと怒っている。
だが、確かにこのまま戦うと俺達がジリ貧になるのは確実だ。
もしも、俺たちのダメージが完全に0ならば相当キツい事になる。
「これは私の予想だけど。多分、あいつの体のどこかにコアかなにかがあるんだと思うわ。それを破壊すれば完全に停止出来るかも……」
「まぁそれならやっぱり、心臓部分だよなぁ……」
正直に言って、あいつに近づくのは少しばかりか相当な危険が伴うものだった。
だが、心臓部分が弱点だとすると、どうしても近寄って、それも剣を突き刺して殺さなければならない。
「よしっ!! 二人には援護頼むわ! 俺が心臓に突き刺してみるよ」
二人は何も答えずに頷き、俺はモンスターへと向き直る。
パペットドールを見て、俺はある不思議なことに気付く。
確かに、パペットドールは完全に再生していた。だが、本来ならば指先から出ている糸はなく、人形を操ることが出来ていないのだ。
「これなら殺れる……!」
俺は勝ちを確信し、パペットドールへと走り出した。




