6話 強引な少女
一通り筋トレや素振りを終わらせていると、さっきまであった隈や、疲れているような表情が変わってきていた。
ゲームの中だからか、隈も寝れば消えるのだろう。なんとなく、さすがゲームと思ったのは内緒だ。
「……ぐぅぐぅ……お母さん……ごめん、なさい……」
急に寝言を言い始めた少女は、自分の母親に向かって謝り出した。
「さすがに聞くのは可哀想だよな」
俺は少女から少し離れ、また剣を振り始めた。集中すれば寝言も耳に入らなくなるだろう。
でも、俺の素振りの音が気に入らなかったのか、辺りから魔物が現れ始めた。
「おいおい。嘘だろ!なんだよこの数!」
それは、オオカミの魔物だった。一体一体は非常に弱いが、今回は群れでやって来たようだ。
逃げようにも、少女はまだ寝ているし、囲まれていて逃げ場もない。
「くっそ。一体どうすればいいんだよ!」
俺が剣を振り、どうにかしてオオカミを捌いていると、頭にアナウンスが流れた。
『スキル、【ソードスラッシュ】取得』
初めて剣術系のスキルを入手した。もしかしたら、これならこの窮地を脱することが出来るかもしれない。
「よし!やるか!」
自分を奮い立たせ、俺は走り出す。寝ている少女を多少強引に担ぎつつ、片手に剣を構える。
「簡単には逃がしてくれないよな!」
俺の逃げようとする先には、オオカミが数頭待ち構えていた。
俺はすかさず武器スキルを念じて、剣を振るうイメージを作る。スキルが発動される合図なのか、武器が淡く光だし、俺は剣を横に振るった。
「何このスキルすげえ!」
俺が横に振るった剣は、衝撃波となり、数頭のオオカミを一瞬で倒してしまった。これで、俺は逃げることが出来る。
「…………ん、って、ちょ、どこ触ってんのよ!この変態! 襲わないって信じてたのに!」
「うるせえ! 後ろ見ろ! 置いてくぞ!!」
少女は俺に担がれたまま、後ろを見る。もちろん、そこには俺達を獲物だと思って追ってきているオオカミの群れがいる。
「あ、ごめんなさい。ほんと、置いてかないでください。お願いします」
「置いてかねえよ! とりあえず逃げ切るから、お前はちょっとでも体重を軽くしてくれ! 剣も持ってるから重い!」
「私重くないし! むしろ軽い! 女の子に向かって重いとか言うな!!」
「だからうるせえ!!! もういいよ!すこし黙っててくれ!」
「…………」
少女は俺の大声にビックリしたのか喋らなくなってしまった。だが、これで俺も走るのに集中出来る。
俺達は、少しオオカミとの距離の差が出来たうちに、倒れている木の影へと隠れ、なんとか逃げ切ることが出来た。
「ふぅ。もう喋っていいぞ」
「私重くないもん。軽いもん。むしろ、セクハラされたもん」
「あー、そうだな。お前は軽かった。重いって言ったのは悪いと思ってる。でも、セクハラはしょうがない!お前を担いだらそりゃ、尻に当たってもしょうがな───」
「お尻に当たったとか言うな!! 私のお尻触ったのあんたが初めてなんだからね! 」
「お、おう。なんかすまん」
なんとなく変な雰囲気になった所で、俺は違う話題を出すことにした。
「なぁ、この場所、お前的にどう思う?」
俺達がいる場所は正確には分からない。オオカミから無我夢中で逃げたため、いつの間にか森の真ん中にいるような感じだ。辺りからは、昆虫類の音もするし、やばい所かもしれない。
「うーん。地図もないから帰れないわね。さすがに戻るわけにもいかないし……」
確かに、今戻ればオオカミが俺たちを襲ってくるだろう。それだけは避けたい。一体が弱くても群れだと相当な脅威になるのだ。
「ま、おれは適当に行くとするよ。じゃあ、ここまでありがとな。また会ったらよろし……って、手を離してくれませんかね……これじゃ……」
「いやいやいや。女の子置いてく気? それはないよね? しかも、私にセクハラしたんだからもう私とあんたは切っても切れない縁ってことわかる? はい、決定。パーティー組むわよ」
「無理! やだ!パーティーだけは組まない! 」
「ほう。ならば、私が勝手に付いてってやる!」
「勝手にしろ! 俺は守らないからな!」
「とか言っちゃって~、ホントは私と居たいくせに」
「ぐぬぬぬ……はぁ。ったく。どっかの街に着くまでだからな」
「うん! 宜しくね!エンマ!」
「あぁ。宜しく」
こうして、結局無理やりパーティーを組まされた俺は、仕方なくヒマワリと共に街を目指すのだった。