55話 真実は時として残酷である
最初のスクリーンを覗き込んだ俺は、歩きながら見ようとしていた。
だが、不自然にも最初のスクリーンで体が止まってしまう。
金縛りにあったかのように動けず、顔すらもスクリーンを見させるためなのか、固定されてしまった。
「……なん、だよこれ……」
全身の力を使うが、どうにも動かない。
これはなんなんだろうか。
じっくりスクリーンを見ろという事なのか?
結局のところ、俺の選択肢は見る以外なく、スクリーンをじっくりと見つめる。
「───君には真実を教えるね」
スクリーンを覗いた瞬間、俺の頭に直接語り掛ける声が聞こえ、俺はようやく金縛りから解放された。
だが、その代わりとてつもない睡魔に襲われ、結局はその場に倒れてしまい、俺の両目は静かに閉じてしまった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「……ん、ここはどこだ?」
脳が少しだけ揺れているのを感じながら、俺は目を覚まし、周りを見渡す。
周りには、映像がいくつも流れ、俺のいる場所は宇宙空間のような光を放っている場所だった。
「───さぁ、君たちがこの世界を攻略した後の世界を見せてあげよう」
女のような声でまた俺に語り掛けるこいつの姿はどこにもない。
やはり、魔法かなにかで直接脳内に話し掛けているのだろう。
だが、やはり気にかかるのは『世界を攻略した後』というものだ。
この世界は元々、運営が作った世界のはず。
ならば、俺達が攻略したら普通に消滅するだけなんじゃ……
「───ふふふっ。君の考えはいつも素晴らしい。だけど、君は決定的なミスを犯しているよ。いつ誰が、この世界は作り物と言った? 運営はいつか作り物と言ったか?」
俺の頭の中を読み取ったのか、俺の考えに対して的確に正論を叩き込んできた。
「そうだったな。お前の言う通りだ。ま、これは俺の負けだな。さぁ、お前の言う世界とやらを早く見せてくれ」
「───君は素直だな」
「ま、今更足掻いてもどうにもならないし、諦めるしかないだろ。それに、早く戻らねえとシズクとヒマワリが待ってるしな」
「───ふっ。今の君を昔の君が見たらきっと驚くだろうね」
「そんなの当たり前だろ? 俺にまさかこんな大切にしたいと思える人が出来るなんて俺でも思ってなかったからな」
俺は苦笑し、相手の言葉を待つ。
だが、相手からの言葉はそれっきり返ってこなくなったなり、その代わりに俺の周りに飛んでいた無数の映像が俺の脳内へと取り込まれていった。
「これが、攻略した後の世界……」
脳内に流れた映像は悲惨なものだった。
この世界は、まるっきりゲームの世界ではない。
この世界において、NPCというのは、自分の中では自分をNPCとして理解していなく、そして、やはり生きた人間だということ。
言うなれば、プレイヤーにとってはゲームの世界だが、相手からすれば俺たちは異世界人みたいなものだろうか。
よく分からない。
ただ、映像を見てわかることは一つだった。
この世界に、プレイヤー以外に守れる者はいない。
どんどん強化されていくモンスターに対抗出来るのは、やはり強くなれるプレイヤー。
そう。だから、俺達がこの世界を攻略すれば、この世界に守ってくれる者は消える。
即ち、崩壊が近づくという事だ。
村や街はモンスターに襲われ、滅び、俺達がNPCと思っている人間は断末魔をあげながら死に絶える。
それがこの世界を俺達が攻略した後の世界だった。
「……これが、この世界の真実?」
映像が流れ、断末魔をあげながら助けを求める人々がいる。
そして、みんながみんな、助けを求め、祈りを捧げるのはエデンの塔だった。
あらゆる人々が祈りを捧げ、エデンの塔に存在するものがまた新たな輪廻を繰り返す。
「───天使の仕業か」
エデンの塔の最上階に立ち、真っ白な翼を広げ、謎の呪文を唱える少女。
ここまで映像が流れ、段々と映像は荒くなり、途切れそうになる。
そんな最後の瞬間に見えたのは、天使がまた俺たちのようなプレイヤーを召喚している姿だった。




