53話 冷静なヒマワリとシズク
エンマと同時刻、シズクとヒマワリは未だ落下していた。
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「キャァァァァァァァ!! なにここ!? ちょっと深すぎじゃないの!?」
「ねぇ!! エンマは!? あんたどこ行ったか知らないの!?」
ヒマワリちゃんは、どうやらエンマが居ないことに不安を覚えているようだった。
もちろん、私の頭の中に今エンマという存在はなく、現在落下による恐怖しかない。
どこまで落ちるのか分からない不安、目はずっと瞑っていて、周りは見えない。
ヒマワリちゃんの声が聞こえる限り、ヒマワリちゃんが近くにいるということは分かるが、ヒマワリちゃんの言葉通りならエンマは私たちと一緒に落下していないという事になる。
「いや、それはおかしい……」
考え事をしていると、段々頭が冷静になってくる。落下していた恐怖が薄くなり、エンマがこの場にいない疑問について考え出している。
だが、考え出したら止まらない。
確かに、つい数秒前には、エンマの声も聴こえたはず。という事は、エンマも落下していたことは明白。
「ねぇ! シズク! 光が見えるよ!」
ヒマワリちゃんがなにか言っているが、今はそれより私の中では疑問を解決する方が優先だった。
エンマは一緒に落下した、そして、途中でヒマワリちゃんがいないことに気付く。ということは、エンマだけいつの間にか違う場所に落ちたのかもしれない。
落下中の脇道にたまたま落ちた? いや、どうなんだろう……
「うわぁ! 地面地面!やばいって! これは死ぬよ!!」
「───え?」
ヒマワリちゃんの焦りでようやく目を開けた私の前には、茶色い地面の光景が広がっていた。
その光景に唖然とした私は、エンマについて考えていたことを全て忘れ、そのまま地面へと落下した。
「痛たた……って、痛くない? あれ? あの高さから地面にぶつかったはずなのに……」
ヒマワリちゃんが先に起き上がり、自分の体に傷がないか調べている。
私はというと、未だ生きていることを不思議に思いながら、そのまま寝転がっていた。
「シズク? あんたは怪我はないの? あんたに怪我でもされたら、エンマになに言われるか分からないからちゃんと調べてちょうだい」
「え、えぇ。ごめんなさい。ちょっとビックリしてたわ」
私は起き上がり、落下中に服についたゴミなどを払って、痛みはないか調べている。
「そんなの私もビックリしたに決まってるよ。それに、シズク。あんたはちょっと考えすぎよ。せっかく私が落下中に色々言ってんのに無視するんだから」
「そうね。それはちょっと反省してるわ。エンマについて考えてたのよ。どうして居なくなって居たのかをね」
「それで結論は出たの? まさか、ビックリして全部忘れたなんて言わないでしょうね」
「…………あはは……」
「はぁ。図星か。ま、いいや。とりあえず、エンマ捜しをしないと」
「ヒマワリちゃんって、やっぱりエンマが居ないと全然騒がしくないし、冷静だし、別人みたいね」
「うるさいわね。別にどっちでもいいでしょ」
「エンマに構ってもらいたくて騒いでたのかな? ま、ヒマワリちゃんがエンマの事を好きなことくらい私でも分かるわよ」
ヒマワリちゃんは歩き始めようとしていた足をピタッと止め、こちらに振り返った。
「うっさい! 早く行くわよ! 大体ねー、私にだってうるさくない時あるんだからね? エンマが居ても居なくても全然変わらないし!!」
「ふふふっ。やっぱりヒマワリちゃんはちょっと騒がしいくらいが似合ってるわね」
「あー、はいはい。もう行くよ」
「ちょっと待っ……ヒマワリちゃん!! 前からモンスター!!」
「えっ?」
私は走り出し、ヒマワリちゃんの頭を無理やり屈ませ、私もその場にしゃがむ。
クッション製なのか分からないが、この作られた地面は体重によって凹み、私たちの姿はちょうど見えなくなっていた。
「……早く離して」
「あ、ごめんなさいね。焦ったからしょうがないわ」
「別に大丈夫だから。それよりも、あのモンスター、別に強くなさそうだから一発で決めた方が早いよ」
「そうなの? ま、どうせ倒すなら先制攻撃の方が良いわね。それじゃ、私は氷魔法。ヒマワリちゃんは……って、もう魔法放つ気満々じゃないの」
ヒマワリちゃんはいつの間にか魔法を構え、今すぐにでも放てるようにしていた。
「それじゃ、私から行くわよ。氷魔法Lv.10『荒れ狂う氷の槍!』」
「私も行っくよー!炎魔法Lv.9『フレイムインフェルノ!』」
少しだけいつものヒマワリちゃんに戻り、私達は同時に魔法を放った。
モンスターは私たちの急な魔法に反応はしたものの、対処する術はなく、その場に居た三体のモンスターは魔法に巻き込まれ、死んでしまった。
「ふぅ。これで先に進めそうね。ほら、ヒマワリちゃん行くわよ」
「ふん! あんたの手なんて誰が握るもんですか! 私は一人で歩けるし!」
「はいはい。それじゃ、エンマの事を捜しに行くわよ」
「ほんと、あんたとじゃなくて、出来るならエンマと二人きりになりたかったし!」
「私でごめんなさいね!!!」
「ま、一人よりはマシだから良いとするかな」
ヒマワリちゃんは私より先に歩き出し、クッションのような地面から降りた。
私はその後を追うように、降りて、そのまま本物の地面へと足をつける。
「それじゃ、どっちから行く? 右? 左?」
「ヒマワリちゃんに任せるわ。私は方向音痴だし」
「ま、私に任せときなさい!」
ヒマワリちゃんは任されたことが嬉しいのか、少しだけ上機嫌になっていた。
こうして、エンマと分かれた私達は、二人で仲良く? エンマを捜しに神殿内を歩くのだった。




