49話 突然のモンスター
俺たちの前に現れたのは、以前、ヒマワリを洗脳していた男だった。
「くっくっく……まさかこの街に来てしまうとはねぇ……自ら生贄になってくれるとは……」
気味の悪い笑いを浮かべながら、1人でボソボソ呟いている。
当然、声が小さいわけで、俺たちから見たらただキモいだけだった。
「で、なんでお前がここにいんの?」
「そうなの実験のために決まってるだろ? ほら、そこに氷漬けになったプレイヤー達が居るじゃないか。こいつらは不運にもこの街にいたせいで魂を吸われたんだよ」
「あんたね!! なんでそんなことすんのか分からないけど、人をこんなに殺して罪悪感とかない訳?」
珍しくシズクがキレていた。
ただ、ヒマワリは少し怯えているようにも見える。
やはり、一度洗脳されたことがあるからか、この男は怖いのだろう。
「罪悪感? そんなものあるわけないだろ。俺は殺人鬼だぞ? ……おっと、無駄話はここまでにしよう。君たちは知らなくていいものを知ってしまったんだ。今度こそ殺させてもらう」
「お前……ほんと屑だな……あんな兵器のような人形まで使うなんて、ほんと許さねえ……」
「待て。人形だと? なんだそれは……」
「はっ? お前が作ったんじゃないのか?」
「ふはははっ……何を言ってるんだ? そんなの俺が知るわけない……う……あ?」
男が喋り出したその時、不意を突かれた男は体を真っ二つに切られてしまった。
といっても、俺達も姿が見えたのは男が切られた瞬間だった。
一体そいつはどこにいたのか、ましてや、どうやって移動してるのかすら分からない。
「モンスター……か」
「そうみたいね。それも、今回の人形騒動に最も関係ありそうだわ」
「あいつが死んだなら私も戦える! モンスターなら任せて!」
俺たちの前に立つのは、体が家のようにでかく、腕や手は人形と同じように刃が生えている仮面をつけたモンスターだった。
しかも、指からは糸のようなものを操っており、その糸の先には複数の人形が繋がっていた。
「ヒマワリ! シズク! 援護は任せたからな!」
「えぇ! 」
「おっけー! それじゃ、私がまずは足止めするよ! 重力魔法Lv.8 【グラビティ!】」
ヒマワリの魔法は、相手を足止めするどころか、それ以上の事をしてくれた。
モンスターは魔法に対して防御が出来なかったのか。体が曲がってきていた。
「私は糸を切るわ! あなたは鑑定で弱点をお願い!風魔法Lv.6 【ウィンドカッター!】」
「おっけー! 鑑定発動!」
シズクの魔法でモンスターの指から出ていた糸は切られ、隠れていた人形達が次々と倒れて行く。
そんな中俺は鑑定で相手の弱点を探していた。
『パベットドール』
ステータス
HP.6420
スキル.【分裂】【再生】
弱点.人形を操る糸を切られること。
俺の鑑定能力はやはり昔よりだいぶ良くなっていて、自分の知りたいことはすぐ分かった。
「シズク! 続けてその糸を切り続けてくれ! 多分そいつは糸がなきゃ攻撃がほとんど出来ないはず!」
「おっけー!任せておいて!」
「私はこのまま重力魔法続けるね!」
「おう!任せたぞ! 俺は近くに寄ってスキルぶっぱなすわ!」
そう言って、俺はパベットドールへと近づき、自分の持っているスキルで攻撃する。
やはり、体力は鑑定で見た通り多く、倒すのに何度もスキルを使った。
そして、遂にパベットドールは倒れたが、俺は何故かその事に違和感を覚えていた。
「ふぅ。なんか呆気なかったな。殺人ギルドの男も、何故か殺られてくれたし、もう安全だろうけど……」
「ねぇエンマ。あなた、自分の体に違和感ないかしら?」
シズクが突然俺に問う。
と言われても、俺にはなんの違和感もないし、別に普通に戦っていただけだから、なんとも言えなかった。
「うーん。別にないかなぁ……」
「そう? ならいいけど、何故かあなたがスキル使った時、体が光ってたわよ? それも紫色に」
「マジで? あー、なんだろそれ。あの魂の光に触れたからかなぁ……」
「まぁとにかく、今度自分のステータスを見るべきだわ。もしかしたら、強くなってるかもしれないし、弱体してるかもしれないからね」
「二人ともお喋りはそこまで。あのモンスター、まだ生きてるみたい」
ヒマワリが珍しく冷静にモンスターを見つめていた。
確かに、ヒマワリの言うとおり、モンスターは傷だらけで倒れたはずなのに、今にも動き出しそうなほど傷が治っていたのだ。
「あいつ……まさか、スキル!?」
俺が鑑定で見た時、あいつのスキルには再生というものがあった。
それは、糸の再生も含め、きっと自分の体も再生するのだろう。
「シズクとヒマワリ! また同じ魔法の準備を頼む!!」
「はーい!」
「任せなさい」
こうして、パベットドールは復活した。
さっきよりも一回り小さいが、今度はさっきよりも糸の数が増え、先程までは隠れていた人形も今度は殺気を漂わせながらこちらを見ていた。
俺たちの街での戦闘はまだ終わらない。




