45話 分からない訳
タイトルに特に意味はない気が……
ディラハンが槍を構え、未だ待っている中、クウガは先制攻撃を仕掛けた。
クウガはこの世界でも強い方の部類だろう、攻撃の速さは俺でも見抜くことが少し危ういくらいに早い。
まぁ、その分攻撃力が低いわけだが。
「おらぁ!!」
ディラハンに見抜けたのかは分からないが、クウガの攻撃に合わせ、ディラハンは槍を振るう。
まぐれかどうかはまだ分からない。
ただ、俺たちの前で凄まじい速さであの重そうな槍を瞬時に振ったというのは相当なものだ。
「……攻撃が軽いな。もうちょっと捻りを加えるか、腕に力を入れた方がいい……」
敵であるクウガにアドバイスをしつつ、ディラハンは走り出した。
首もない状態でクウガを的確に捉え、向かっているのだから、気配かなにかで察知しているのだろう。
「くっ……攻撃は遅いのに、なんだこの威力は……」
ディラハンは先程の早い槍さばきではなく、今度は大剣を振るうかのように遅く槍を横から振る。
本来、槍とは突くものだが、ディラハンの槍は先端以外にも、棘のようないかにも凶悪そうなものが持ち手の部分にもついていた。
釘バットのようなものだろうか。
クウガは剣でその攻撃を防ぐが、やはり威力は重く、剣では耐えきれず体が吹き飛んでいた。
「分かるか。力の入れどころだ。私の槍は本来このような使い方はしない。だが、貴様に教えてやろうと思ってな。力の使い所ってやつを……」
「───そんなの、敵であるお前に言われたかないね……」
吹き飛び、体を強打したクウガは体が震えていた。
既にこの勝負は見るまでもないだろう。
クウガの惨敗。
決してクウガが弱いわけではない。ただ、ディラハンが強すぎたのだ。
多分、俺たちが束になっても勝てないだろう。
「興醒めだ。貴様には力が足りない。今宵で我がここに来るのは最後だ。次我と会いたいならば、深淵を覗くといい。どこかにある深淵を覗けばまた我も貴殿と出会う事になるだろう」
ディラハンは槍をどこかへしまい、馬を近くに寄せ、暗闇へと溶けるように消えていった。
「大丈夫か!?」
俺たちはディラハンが居なくなるのを確認した後、クウガへと駆け寄った。
たったの一撃でフラフラになってしまったクウガはその場へと倒れ込んでしまった。
既に体力は黄色から赤に近くなっていた。
「そういえば、エンマは鑑定しなかったの? あいつのこと」
「そういえばそうね。鑑定すれば、どの程度強いかわかったのに。まぁ、私たちより強いのは明白だったけどね」
俺は自分が鑑定を持っていることを忘れていた。
確かに、オート鑑定はあるが、あれは全てのものを鑑定してしまうので、ほぼ常にオフの状態してある。
故に、ディラハンのことは鑑定出来なかったのだ。
「と、とりあえず、クウガを街へと連れて帰るぞ。……クルミの事もあるしな」
「それもそうね。クルミちゃんについて話すか決めないとね」
「私は話すべきだと思うけどねー」
シズクとしては話さない方がいいと思っているのかもしれない。
だけど、俺はヒマワリ同様に話すつもりだった。
「転移!!」
俺はクウガを背中に背負い、転移石を使って近くにある街へと転移した。
その後、俺たちは街の外にいたクウガのパーティーの仲間たちに、ディラハンに負けたという事実と、クルミはまだ見つかってないとだけ伝え、クウガを渡した。
四天王の面々はとりあえず納得し、クウガの手を肩にかけ、宿屋へと向かっていった。
「なぁなぁ、こんな噂お前は聞いたか?」
「噂? なんだよそれ」
街に入り、少し進んだ先で妙な話をしている二人組を見つけた。
少しだけ気になった俺は、立ち止まり、聞き耳を立て噂を聞く。
「えっとな、確か、この街より東? に向かったところに運営が作った最凶の神殿があるらしいぞ。それも、雑魚敵ですら、雑魚じゃなくて強いらしく、まだボスに到達した人がいないらしい……」
「それのなにが珍しいんだ?」
「それがな。なんか、噂はこっからなんだけど、ボスを倒した先にある、神殿の最奥にはこの世界を揺るがす秘密? みたいのがあるらしいぞ」
「へぇ。ま、俺は死にたくねえから行かねえけどな」
「俺も行かねえけど、ま、噂だから嘘かもな!」
二人組は笑いながら、その場を去っていった。
俺はこの妙な噂を聞いて、どうにもこの神殿に行きたいと思ってしまった。
シズクとヒマワリは行きたいか分からない。だが、俺はこの世界について分かるなら是非行きたかった。
「ねぇ、クルミちゃんのことどうするの?」
「そうだな。とりあえず、俺達も宿屋で寝て、明日にでもクウガに俺から話しておくよ」
「私もそれがいいと思うなー。だって、クルミちゃんを見た以上さ、教えてあげなきゃ可哀想だし」
「そうね。私も、教えることに賛成だわ」
俺たちの中でクルミの事は明日話すということで決定し、宿屋へと向かった。
俺の心の中では、クルミよりも、薄情だが噂の神殿の方に興味が湧いてしまっていた。




