43話 居なくなる者
俺たちの部屋に慌ただしく入ってきたクウガは、シズクたちに見向きもせず、俺へと用件を伝えてきた。
いつの間にか飛び起き、俺の近くから居なくなっていたシズクとヒマワリは隠れて化粧やら、支度を始めていた。
「で、どうしたんだ?」
「あ、あぁ。端的に言うとだな、俺たちの仲間の一人が殺されたかもしれないんだ……それも、一体の魔物にだ……」
「どうゆう事なんだ? 一体なにがあったんだよ」
「正直、あいつとは今でも戦いたいとは思わない。俺たちのパーティーも、俺を除けばほとんどが瀕死の重症。今は持っていた回復薬で傷は治ったが、安静に寝させている。そして、殺されたかもしれないと言ったのは、そのモンスターに攫われたからなんだ」
「誰が攫われた?」
「クルミだ。あいつは、あまりの強敵にビビっちゃってな。逃げる時に転んでしまったんだよ。俺達も、相手の魔法を食らってほとんど視界は隠されてたし、助けるに助けれなかったんだ……」
「ま、お前が言おうとしていることは分かるよ。もちろん、お前らには貸しがあるし、個人的に友達として、俺は手を貸す」
「助かるよ。もちろん、俺も同行するが、他の仲間はちょっと無理かもしれない。仲間を見捨てたっていう罪悪感があいつらには重すぎたんだ。俺だって、助けれなかったのは悔しいけど、やっぱり……まだ生きてるかもしれないから、助けなきゃって思って……」
「もういい。お前の気持ちは伝わったよ。それで、そのモンスターはどこにいるんだ?」
俺がそう聞くと、完全に支度が終わったシズクがどこからかこの辺一体のマップデータを机の上へとみんなが見れるように出した。
こんな機能があったことに驚きを覚えたが、今はそれどころではない。
「この辺だな。昨夜の夜に襲われたから、もしかしたら、夜しか出ないモンスターかもしれない」
「ねぇ、そのモンスターはどんな感じだったの?」
俺の隣へと座っていたヒマワリがいきなりクウガへと訊ねる。
「あんまり覚えてないが、俺も初めて見たモンスターでな。確か、黒い馬に乗ってて、首がなかった気がする。あと、音的に騎士っぽい鎧を着ていたと思う……」
俺もそんなモンスターとはやはり会ったことがない。
似ているといえば、サジタリウスだが、首がないということは、やはり違うだろう。
「あー、そのモンスターはね。ディラハンっていう名前だよ。確かに、夜限定の高経験値モンスター。強いけど、ほとんど現れないから私も昔に一度だけ出会ったことがあって、その時に一緒だったギルドの人が、鑑定で名前教えてくれたんだよね。あ、その時のギルドは普通のギルドだからね?」
「ふーん。あんたにそんな知識あったのね。そんな小さい頭で。それに、別にあんたがどこのギルドにいようが、別に私的にはどうでもいいわよ?」
「うるさいわね。念の為よ念の為。それよりも!小さい頭ってなによ!!!」
またシズクが煽って、それに反応して怒るヒマワリ。
こうなると、無理やり抑えるしか方法がなくなってしまう。
「二人共ちょっと黙ってくれ」
「はーい……」
「私はもうちょっと準備するわね。夜型となると、光が必要でしょうし」
「はぁ。ディラハンねぇ……」
なんだかんだ言いつつも、やはりシズクは助ける気があるようだ。
もちろん、ヒマワリも俺たちに手を貸すつもりで名前とかを教えたのだろう。
やっぱり二人は優しい。
「ありがとな。三人とも……ほんと、感謝っていうか、友達で良かったよ」
「いいよこれくらい。それよりも、俺たちは助ける気ではいるが、もしも、クルミが死んでたとしても、お前は受け入れることは出来るか? これは、真面目な話だ。受け入れられないなら、お前は残れ。最悪死体を見ることになるかもしれないから、残った方がいい」
「いや、大丈夫だ。俺にはもう覚悟は出来てる。だから、俺はここにいるんだ」
「そっか。悪かったな。変なこと聞いて」
少し俺も聞き辛いことを聞いたが、本当にこれは大事なことだった。
もしも、死体を見たら、ダメな人は後を追って死のうとするかもしれない。それも、ずっと親しかった人ともなれば、その確率は高まるのだ。
だが、今のクウガの顔は、そんな暗い顔じゃない。
きっと大丈夫だろう。俺はそんな気がした。
「ま、多分生きてるわよ。モンスターだって、いい人も居るわ。ディラハンのテリトリーに入ったから、あんたらが襲われただけで、本当はディラハンもいいモンスターかもしれない。ま、ディラハンが温厚な事を祈りましょ」
励ましているようで励ましてないような言葉を吐きつつ、ヒマワリもなにやら準備を始めた。
「それじゃ、俺も準備するわ。まだ夜までは時間あしな。お前も、パーティーの奴らと一回寝てこい。寝たほうが少しはスッキリするからな」
「お、おう。そうするよ」
こうして、騒がしい朝を迎えた俺たちは、友のために力を貸す。
夜ということもあり、簡易光魔法【ライト】が使える石を多めに持ち、回復薬と万能薬やら、色々なものを持った。
そして、時刻は夜となり、俺たちの宿屋に来たのは、やはりクウガ一人。
どうやら、残りの二人も来ると言ったが、まだ危なそうと思ったクウガが止めたらしい。
「それじゃ、覚悟は出来たか?」
「あぁ! 大丈夫だ! 俺は俺の手でしっかりと助けてみせるよ!」
「ま、今日出会えるか分からないけどね」
「あんたはそういうこと言わないの!」
シズクとヒマワリの言い争いにクウガも思わず笑っていた。
「それじゃ、行くぞ!」
一通り笑ったところで、俺たちは夜というのに街へと出た。
街の外で見送ってくれた四天王の二人に手を振り、俺たちはクウガが出会ったというディラハンが居た場所へと向かった。
俺たちに力を貸し、幾度と助けてくれた人を救い出すために。




