40話 助けたい人
俺の全身を包み込んでいた黒炎が消えた。
だが、幸いにも俺は無傷のままだった。
「これは……一体……」
黒炎が熱くもなかったことが俺は気になっていた。
俺に一切の敵意がなく、攻撃する意思がないまま魔法を放ったから?
いや、それはないはずだ。洗脳されているならば、少なからず俺を殺す殺意はあるはず。
ということは、自分から魔力を込めずに放った?
それくらいの考えしか俺の頭にはなかった。
「エンマ!! 考えるの後にして!! ヒマワリちゃんが!!」
シズクの声に反応し、俺はヒマワリが居た位置を見る。
ヒマワリの驚くべき光景に俺は言葉も出なかった。
「…………ヒマ、ワリ……ヒマワリ!! 大丈夫か!!」
かろうじで、現実を受け止め、何故かあらゆる魔法に包まれているヒマワリの元へと叫びながら近付く。
暴風が吹き荒れ、雷雨がヒマワリを襲う。
雷雨が止むと、炎がどこからか現れ、風に乗り激しく燃える。
そして、ヒマワリ本体はどんな魔法を食らっても一切傷がついていない氷の中にジッと閉じ込められていた。
瞬き一つ出来ていないようだ。
「くっ……これは、どうすれば……」
どうしてヒマワリがこうなったのか分からない。
シズクが魔法を放ったのか?
いやでも、ここまで酷い魔法をシズクが放つとは思えない。
「シズク……あれは、お前のせいじゃないよな?」
だが、俺は最悪の可能性を潰すために念の為訊ねた。
「えぇ。もちろんよ。あんなこと私にも出来ないわ。そして、私はあの魔法をやった人物を知っている。でも、どうしてあんな事をしたのかは分からないの」
「一体誰があんな事をしたんだ!?!? 教えてくれ!!」
ヒマワリと共にいた男は四天王と戦っている。
四天王と戦いつつ、ここまでの魔法をヒマワリに向かって放てるとは思いにくい。
もちろん、それは四天王の人たちにも言えることだ。
強大な敵を前に、よそ見をしている暇ないだろう。
そうなると、残されるのは俺とシズク。そして、ヒマワリ自身だった。
俺が考えていると、シズクは魔法を使った本人を話すために口を開いた。
「エンマ。あの子はね、エンマに謝っていたの。あなたが黒炎に包まれている中、必死に洗脳へと抗いながら謝っていたわ。そして、最後に私にも『ごめんね。』って言って、自分にあの魔法をかけたわ。きっと、今でも魔法が続いているのを見る限り、氷の中でも謝りながら自分へと罰を与えるために魔法を放っているんだと思うの」
「そう、なのか……」
やっぱりヒマワリ自身が魔法を放っていた。
だが、洗脳へと抗い、俺達に今まで襲いかかったことなどを悔やんで魔法を自分へと放ったんだろう。
ならば、俺はもう一度ヒマワリと直接話さなきゃいけない。
シズクのこと。仲間ができたこと。もう一度ヒマワリとパーティーを組みたいことを。
殺人ギルドに入ったということは、元のギルドは抜けているだろう。
そんな今なら、洗脳さえ解けばもう一度、シズクを含めて三人でパーティーを組めるかもしれない。
「シズク、手伝ってくれるか?」
まずは、魔法を解くのが優先だった。
ただ、あの強大な魔法を解くには、同じくらいの魔力を持つシズクが必要不可欠だった。
「もちろんよ。私もヒマワリちゃんとは仲良くなりたいもの」
「ありがとな、シズク」
俺はどうやってあの魔法を解くか考えた。
いつもよりも、頭を回転させ、思いついたことをシズクと話しながら解決策を必死に探した。
その中でようやく見つけた答えが実にシンプルなものだった。
「本当にこれで大丈夫だよな?」
「もうそれ以外策はないわ。もちろん、私も全力で止めるけど、失敗したらあなたにも魔法が飛ぶことになる。下手したら死ぬかもしれないわ。それでも、本当に助けたいかしら?」
「もちろんだ。俺は、この命を使っても、俺にこの世界での楽しさを教えてくれたこいつを助けたい。それに、俺も謝りたいしな」
俺たちの作戦は、実にシンプルだった。
飛び交う魔法に対して、シズクが同じ魔力の魔法を飛ばし、相殺する。
その間に、俺がヒマワリを包んでいる氷へと近づき、叩き割るという作戦だ。
シズクが少しでも失敗すれば、俺にヒマワリの魔法が当たり、俺は最悪生死をさまようだろう。
それも承知の上での救出だ。
「それじゃ、出来る限りのことは任せたぜ。俺は、全力で叩き割るから」
「なるべく早く割ってちょうだいね。あの強い魔法を相殺するには相応の魔力が必要になるわけで、私の魔力だと一分程度しか防げないから……」
「一分もありゃ充分だよ」
俺はその場から走り出し、自分が使える最高のスキルを構えた。
唯一無二の固有スキル。『サウザントスラッシュ』を。
「それじゃ、頼むわよ!エンマ!!」
「あぁ!!シズクこそ頼んだからな!!」
俺が魔法に近づいた時、俺の背後から強大な魔法が飛んできた。
その魔法は、ヒマワリの近くを飛び交う魔法へと直撃し、轟音を出しながら相殺している。
今ならヒマワリの居る氷はむき出しだった。
「いっけぇ!!!! 『サウザントスラッシュ!!』」
俺は走った。そして、氷の数歩前からジャンプし、叩き割るかのように、千を超える斬撃を繰り出す。
最初のうちは、傷がつかなかったが、段々と耐久出来なくなったのか、氷へと亀裂が入り始めた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
さすがにスタミナをほぼ使用するこのスキルを使った後は、疲れ果てる。
だが、未だに氷は亀裂が入ったまま割れていない。
タイムリミットもそろそろだろう。
「エンマ!!あと20秒程しかもたないかも!!」
「任せろ!!」
俺は疲れている体に鞭を打つようにして動かし、今使えるスキルの中で叩き割れそうな技を探す。
「あったぜ。これが今最も使える技……『兜割り!!』」
昔に使った、防御力をダウンするスキル。
そのスキルは、氷自体の防御力を低下させ、亀裂をさらに増やす。
そして、数秒の後、氷は弾けるように割れた。
中から力を失ったヒマワリが倒れ込む。
同時に、シズクが止めていた魔法も見事に止み、相殺する相手がいなくなったシズクの魔法は、直線上にたまたま居た、四天王と戦っていた殺人ギルドの男へと直撃した。
「ぐぬぁぁぁぁ……まさか、私の死角から魔法を放つとは……」
シズクの魔法に大ダメージを負った男は、四天王の攻撃を捌ききると、逃げるように去っていった。
「ヒマワリ!! 起きろ!! 大丈夫か!!」
俺の腕に倒れ込んでいるヒマワリへと俺は語り掛ける。
ヒマワリからの返事はない。
まるで、眠っているかのように何も返答はなかった。
「エンマ。きっと、ヒマワリちゃんは疲れているのよ。もう少しだけ、待ってみましょう? ほら、四天王の人たちもだいぶ傷を負っているようだし」
シズクの言う通り、俺はヒマワリをその場へと寝かせ、アイテムバックから毛布を取り出し、上から掛ける。
その間に、男の相手をしてくれた四天王の面々と話し、今度お礼をするという話をした後に、俺は四天王の人達に転移石を渡した。
「じゃあなエンマ! また今度絶対奢れよな!」
「私は魔法の練習もできたし、またチームワークも良くなった気がするから、奢るなんて気にしなくていいからね?」
「俺も今回でスキルの上手い使い方学べたから奢りとかどうでもいいな」
「私は何奢ってもらおっかなー!!」
四天王の面々は間違えれば死ぬかもしれない戦いをしたのに、笑顔で俺たちの前から転移していった。
俺はこんな優しい友を持てて幸せだと思う。
そして、後は俺の大事な親友が起きるのを待つだけだった。
うおお!!
ブクマ60件の記念の話書いてあるからねー!!(大声)




