36話 好きな人ができた日
俺が寝ていたのは何時間だろうか。
その間に俺は夢を見ていた。
みんながボスに負けてる夢。俺が誰一人を助けることも出来ずに無残にもみんなが死んでいく。
「───エンマ!!」
意識に語りかけるような声が聞こえる。
手を伸ばせば届く距離。
「───あぁ。良かった夢で……」
俺は手伸ばして声の主の手を取った。
その瞬間、俺の意識は戻り、またボスの部屋へと戻ってきた。
「エンマ! 大丈夫!?」
シズクが心配そうに俺を見ている。
俺はシズクとここまで仲良くなっていたのだろうか。
分からない。でも、シズクの表情がとても俺は好きだった。
少し前のことが思い出せない。
霧がかかったように、記憶が思い出せない。
これも治ってくれるのだろうか。
「……あ、あぁ。シズク。俺の体は大丈夫だぜ」
口から出た適当な言葉を俺は言っていく。
本当は何もわからない。考えるのが難しい。
今はシズクよりもボスだ。
ボスは無事に倒されたのだろうか。
「なぁ、ここって、ボス部屋だよな? ボスは倒したのか?」
「えぇ。エンマ。あなたの力のおかげよ。十分程で切れたけど、充分だったわ。攻撃されても回復するし、もちろんMPもね。それに、魔法の威力もいつもの二倍くらい出てたんだから! エンマにも見て欲しかったね」
「そうか。良かった……」
俺の力? 俺はそのとき何かをしたのだろうか。思い出せない。
なにかをしたような気もするし、したような気もしない。
どちらが本当なのだろう。
「なぁ、俺はボスの時なにしてたんだ? 倒れてただけ?」
俺の言葉にみんな驚いていた。
たまたま周りから音がなくなった時に喋ってしまったのが原因だ。
大人数の人たちもこちらを見ていた。
「───え? 待って。覚えてないの? あなたがやったことを」
「あぁ。なんか霧のようなモヤがかかって思い出せないんだ。俺は一体なにをしてたんだ?」
「そう……きっと、これがあの力の代償なのね。分かったわ。説明してあげる」
俺はシズクから自分がやったことを教えて貰った。
確かに、俺の記憶では、前に一度同じスキルを使った記憶があった。
確かその時は、身体の、ステータスの低下がデメリットのはずだ。
だが、今回はどうやら記憶の消失がデメリットとしてあるらしい。
これは非常にまずい。
今更になって、最近のことを思い出せたが、やはりボス部屋のこと、昨日までは覚えているのに今日は朝目覚めてボス討伐を始めたということしか頭にない。
シズクとの仲の良さはもう頭で思い出せている。
まだ自分がどんな風に戦ったのかはいまいち想像がつかないが。
「そうか。まぁ、結果としてみんな勝てたから良かったな。俺の記憶が一日戻らないくら───」
「ダメに決まってるじゃない!!」
俺は頬を殴られた。いや、ビンタされたというのが適切だろう。
俺がビンタされた時、他のその他大勢の皆様は空気を読んでボスを倒して開かれたと見れる扉へと入ってしまった。
この場にいるのは俺とシズクだけになった。
「ご、ごめん。でも、良かっただろ? 俺がいなきゃ負けてたかもしれないんだ。だから、俺が犠牲になるくらいなら───」
「それがダメなの! そんな自分を犠牲にしなくてもいいから! お願い。確かに勝てたのはエンマの力かもしれない。でもね、それを続けると、みんなは甘えてしまうし、エンマは傷つく。だから、絶対に今度からはそのスキル使わないでね。お願い。約束して」
シズクの涙目は俺の心を抉った。
俺はここまで大事にされたことがあまりない。
ましてや、自己犠牲について言われるとは思ってもみなかった。
やはり、俺の行為は所詮は偽善者のようなもの。
確かに俺は自己満足で今まで生きてきたのかもしれない。
だから、俺は今度こそ絶対にこの女の子を泣かせないようにしたい。
「分かった。もう俺は、このスキルを使わないよ」
だけど、俺は今心に決めた。
昔は、ヒマワリという俺の中での大事な存在があった。
それは今も変わらない。ヒマワリは大事だ。
だが、それ以上に好きという感情を芽生えさせてくれた女の子を守りたい。
二度と使わないと決めたこのスキルも、シズクの為ならばこの身を犠牲にして、死ぬと分かっていても必ず助けるために使う。
だから、俺はその時までこのスキルを使わないでいると決めた。
「うん。じゃ、エンマ! まだ今日は終わってないんだし! ご飯でも食べていい思い出残そ!!」
初めて会った時よりも変わった女の子。
随分と女らしくなり、喋り方も変わった。
見る度に俺は好きになり、心を奪われる。
「そうだな。俺も腹減ったし」
「私もおなかすいたから!早く早く!!」
俺の手を引き、一緒に転移石で街へと飛ぶ。
飛ぶ瞬間に見せたシズクの笑顔が俺の心を撃ち抜いた。
俺はどうやら本格的にシズクに恋してしまったらしい。
そして俺たちは夜ご飯を食べるために街へと転移した。




