33話 危険なボス部屋
「ん……ここは……って、エンマ!? 大丈夫!?」
俺は体を揺さぶられ、眠ってしまっていた目を無理やり起こす。
妙に体が硬い。
「んん……おはよう……」
妹に話し掛けるように、起き上がり、俺を起こしてくれた人を見つめる。
「え、えぇ。おはようございます」
妹ではなかった。
寝ぼけていたのか、また夢で妹のことを見てしまったのが原因か分からないが、俺はシズクを見つめてしまっていた。
何故かシズクは赤面しているが、ここはまぁしらばっくれるとしよう。
「な、なぁシズク? 体は痛くないか?」
見る限りだと、シズクのHPはMAXまで回復しているが、他のステータスがダウンしているかもしれない。というか、話題を変更したかっただけとか言えない……
「それよりも、よく私たち魔物に襲われなかったわよね……」
確かに、シズクに言われてみて思ったが、俺達が寝ていた場所は普通にダンジョン内だった。
魔物に襲われなかったのが少しどころか、かなり不思議だった。
「大きな物音で近寄らなかったんじゃないか? それか、あのモンスターが強いから誰も寄りたくないとか」
モンスター同士に派閥があるか分からないが、まぁ襲われなかったのは幸運とみていいだろう。
「ま、襲われなかったし良しとしましょう。それで、最後に見えたあなたのあのスキルはなんなの一体」
俺はシズクに英雄憑依を何者からか貰ったことと、それを使ってモンスターを倒したこと、それに加え、デメリットを伝えた。
「なーんかそれ怪しいわね。それに、その英雄、憑依? とやらは、力を使い果たすとか以前に、制限時間とかあるんじゃない? だって、めちゃくちゃ強い時間を力を温存して使えば長く使えるなんて有り得ないと思うけど……」
「それもそうだけどさ、俺はもう一回使うの嫌なんだが、ステータスはタウンするし、めっちゃ疲れるし、HPは1になるし、ピンチの時以外使いたくないね」
「そう。ま、また今度使った時考えればいいわね。ところで、あなたは体力回復しないの? そのままだと岩にぶつかっただけで死ぬわよ?」
俺はハッとして自分のHPを見た。
案の定、シズクに言われたとおり、赤ゲージを示していて、残りHPは1だった。
「もっと早く言えよ!!!!」
俺の大きい声はそのままの勢いでダンジョン内を響かせた。
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「はー……危なかったわ。まじで寝返りでもうって岩にぶつかったら俺死んでたわ……完全にやばかった」
シズクを回復させたあと、なぜ俺は自分を回復させなかったんだろうか。
まぁ、そんな過去のこと気にしてたらアレだし、ぶっちゃけ疲れてたからシズクを回復させることしか考えてなかったし、結果死んでないし、まぁいっか。
「あんたなんでそんな怖い顔してんのよ。なに? まだ私が言わなかったこと怒ってんの?」
「怒ってねえわアホ。ちょっと考え事してただけだから。んで、どうする? 進むか?」
若干不機嫌なシズクは正直めんどくさい。
ここは華麗に話題転換が有効な策だろう。
「あー。そう。ならいいわ。んー、私的に別にボス発見までしていいと思うけど、エンマはどう?」
「そうだな。俺もまだ大丈夫だし、とりあえずボス部屋探すかぁ……」
意見が一致したのを確認した後、俺たちは動き出した。
幸いにも、道は一本道だったようで、進む道はわかり易かった。
「なぁなぁ、なんかこの道怪しくねえか?」
モンスターは出てこない。それに加え、一本道が永遠と続く。明らかにおかしい。
「待って、後ろから誰か来るわ」
耳を済ませてよく聞けば、後ろから足音が聞こえてくるのが俺でもわかった。
だが、不幸にも今の俺たちに隠れる場所はなかった。
「どうする? 戦うか?」
敵かどうかはわからないが、武器は構えておくべきだろうと判断した俺は剣を抜き構えた。
「そこの者! 我らは敵ではない! 攻略ギルド 「ヘヴンズゲート」である! 武器を構えるのをやめて頂きたい!」
遠くから俺らのことを見つけたギルドの隊長は大きい声で俺らに警戒を解くように伝えてきた。
俺らは安全だと考え、武器を構えるのをやめ、ギルドに対して話を進めることにした。
「武器の解除ありがたい。そこでだ、この先にはボス部屋があるという情報がある。君たちには悪いが、ここを通せてくれないか?」
「あ、あぁ。別にいいぜ。先に行くくらいなら別に構わない」
「えぇ。私もいいわ」
「感謝する。では、後ほどまた会えることを祈っていよう」
俺達が端に避け、ギルドの人たちはボス部屋へと直行した。
その後ろから俺達も続き、ボス部屋の確認をする事にした。
「では、これよりボス攻略を始める! 死にそうだと判断したものは個人の決断で転移石を使うように!」
完全にボスの部屋ですよって感じの扉を前に、ギルドの面々は準備を開始した。
少し経ち、準備が終わったギルドの人たちは、扉を開け、中へと入っていった。
俺たちは扉の外で待っているが、そんな時、聞きたくもない叫び声が俺たちの耳に届いてしまった。
「ぐわぁぁぁ!!!」
「嘘だろ!? 転移石が使えない!?」
「隊長!!!」
「撤退だ!! 扉を開けて撤退しろ!!!」
どうやらボス部屋は転移石が使えないようだった。
焦った様子で扉から出てきたギルドの面々は既に3分の1は減っていた。
それほどボスが強いんだろう。
「君たち、悪いことは言わない。もっと大人数で挑むべきだ」
少しの傷を負った隊長は俺たちを見る限り、忠告だけしてギルドの人たちを引き連れて転移石を使って去ってしまった。
「ボス、戦うか?」
「いえ、今回はやめとくわ。幸いにもマップデータは持ってるし、もうちょっと準備してから行きましょ。それに、転移石が使えないんじゃ絶対に死なないようにしなきゃだわ」
「そうだな。対策を考えよう」
俺達も対策を考えるために一度街へと転移石で戻った。
初めてのボス部屋。
絶対に死なないように考える時間は必要だった。
幸いにも、時間はたくさんある。
転移石の光に包まれながら俺はボスのことを考えていた。




