31話 隠し部屋に潜まない罠
隠してあった部屋を見つけた俺たちは、とりあえず警戒しつつ中に入る事にした。
周りを見渡し、ひとまず何も起きないことを確認した後、ふと中央に宝箱が怪しげに置いてあるのを発見した。
「ねぇ、この宝箱、絶対罠よね?」
シズクは俺に対して宝箱を指さしながら訊ねてきた。
確かに、これみよがしにわかり易い宝箱は罠の可能性が高いだろう。
というか、正直なところ、こんな広い空間で、宝箱一つだけポツンと置いてあるのは不思議でしかない。
「───そうだな、よし、シズク。あの宝箱に魔法を撃ってみてくれないか?」
近寄ったら危ない感じの気配を感じとった俺は、宝箱に遠距離から攻撃を仕掛ける事にした。
日本にいた頃、ゲームをやっている時に宝箱を開けて上からモンスターが降ってきて喰われて死んだという事もあって、危ない宝箱には近付かないのが良いということを覚えたというのも遠距離攻撃の理由の一つだ。
「任せてちょうだい───雷魔法Lv5 【ライトニング!】」
シズクの詠唱と共に、魔法は放たれ、宝箱へと直撃した。
相当な威力を込めたのか、辺りには煙が立ち込める。
「煙でなんも見えねえな……」
安易に煙の中にも入る訳にはいかなかった俺たちは、ただ呆然と煙が晴れるのを待っていた。
そんな時だった。煙の中から明らかに居なかったはずのシルエットが浮かび上がってきた。
「エンマ。やっぱり、あの宝箱罠だったわよ。しかも、モンスターは相当デカいみたいね」
シルエットを見る限りでも、オークジェネラル以上の大きさはあるだろう。
そんな大きいモンスターが一体どこに隠れていたのか、俺には検討もつかなかった。
「とりあえず俺が鑑定してみるわ」
煙の中にいるモンスターに向かって、鑑定を繰り出した俺は鑑定結果を待つ。
『パンドラの箱』
レベル68
HP1054
STR412
スキル:【誘い】【死魔法Lv1】【擬態】【炎魔法Lv4】
鑑定結果は明らかにやばい奴だった。
レベルはもちろんのこと、ステータスも色々おかしい。
俺たちでどうにかなるレベルとかそういう問題ではなかった。
今このゲーム内でもこのモンスターを倒せるのは数少ないと俺は思う。
「シズク! あいつはやばいぞ!」
俺がシズクに鑑定結果を伝えようとした時だった。
煙が晴れこちらの気配を感じ取ったモンスターは、シズクを標的に定め、舌のようなもので攻撃してきたのだ。
間一髪俺は避けることが出来たが、気付く前に当たってしまったシズクは吹き飛び、何メートルか飛んだ後に壁へと激突した。
HPは既に赤ラインへと到達している。非常にまずい状況だ。
「……エンマ……逃げて……」
シズクが倒れながら俺に手を伸ばした時、俺は躊躇していた。
逃げてと言いながらも助けを内心で求めているシズクを助けるべきか、強大なモンスターを前に逃げるべきか。
俺は頭をフル回転させ、数秒の間考えた。
そしてでた結論は一つだけだった。
「シズク!! もっと手を伸ばせ!!」
俺が動き始めたのを感じたモンスターはひたすらに俺へと魔法や舌の攻撃を繰り出す。
幸いにも、遠距離攻撃が相手にとって二つしかないのが救いだった。
「……エンマ……!!」
シズクの伸ばした手を取り、近くへと抱き寄せた。
「……はぁ、はぁ……」
「エンマ。ごめんね。私、油断してた……」
大丈夫だ。俺があいつを倒すから。
この言葉を俺が言えたらどれ位心強かっただろうか。
だが、俺にあいつを倒す力はない。
一体どうすればいいんだ……
『重大な危機及び、該当モンスターとのレベルの差。
それに応じて、スキルを授与する』
突如聞こえた機械音声。もちろん、聴こえたのは俺だけのようだ。運営からの声ではないようだが、一体誰なのだろうか。
「エンマ!後ろ!!」
シズクが俺を庇うようにモンスターの前にフラフラの状態で立った。
『スキル:『英雄憑依』を獲得しました』
誰かは分からない。ましてや俺がなぜスキルを授与するのに至ったのかさえ分からない。
だが、むしろ好都合だ。この世界の神がこの俺に力を与えてくれるというなら貰うしかない。
そして、一つ言えるのはこの力で俺はシズクを守れるという自信があった事だ。
「シズク。下がってくれ。大丈夫だから」
フラフラで立つシズクを座らせ、俺は迫るモンスターからの攻撃を庇う。
「スキル! 『英雄憑依!!』」
俺は覚えたスキルを攻撃が当たる直前に発動し、そのスキルは相手の攻撃を弾くように光を発しながらその部屋を包み込んでいった。




