29話 一時の休息
街へと入った俺達がまず向かったのは、珍しくある風呂屋だった。
日本と全く同じ形式で、女湯と男湯で分かれている。
お湯は日本とは少し違い、どうやら身体を癒す魔法? のようなものが効能としてあるらしい。
店の前の看板には、効能の種類が書いてあった。その中でも俺が気になっていたのは、疲れを取る温泉だ。まさしく、今の俺にぴったりだと思う。
「んじゃ、とりあえず1時間後にこの入口で」
「えぇ。そうね。また1時間後に会いましょう」
俺達は男湯と女湯で分かれ、一旦お風呂へと入る事にした。
「はぁぁぁ……生き返る……」
体や頭を洗い終わった俺は、だらしなくお湯へと浸かり、身体を癒していた。
店の看板に書いてあった通りの疲れを癒す温泉に俺は浸かっていた。
確かに、浸かった瞬間は感じなかったが、時間が経つにつれて、どんどん疲れがなくなっていた。
実に不思議だ。
「やべえなこれ……何時間でも居れるわ」
温泉を充分に堪能し、少し名残惜しいが、そろそろ多分1時間という事もあり、出る事にした。
外では、いつから待っていたのか、お湯上りのシズクが待っていた。
何故か、いつもと変わらないはずなのに、シズクに対してドキッとしてしまったのは内緒だ。
「よ、よぉ。早いな」
「あんたが遅いのよ。1時間って言ったのに、既に30分も過ぎてるわよ? どういう事なのか説明して欲しいくらいだわ」
「まじで!? それはごめん。てっきりまだ1時間経ってねえと思ってたわ。時計なかったからさ。いや、マジごめんな」
「もういいわよ。それよりも、宿屋見つけて荷物置きましょ? そろそろ寝たいわ」
「そうだな。なんか俺も眠くなってきたわ」
まだ外は明るいが、温泉を入って休んだらどっと眠気が来たのか、突然俺は眠くなっていた。
ついつい欠伸が出てしまうほどだ。
「全く。大きな口して欠伸だなんてだらしないわね」
「ふぁ~……うるせえ。欠伸くらいしたっていいだろ」
喧嘩のようなものをしながら、俺とシズクは宿を探していた。
お金をシズクに頼るしかない俺は、とにかく安くていい場所を探すのに必死だ。
「お金は別に気にしなくていいわよ? 私が好きに貯めてただけだし、使える時に使えればそれでいいわ」
「俺は罪悪感すげえけどな……女に全部払わせるとかまじ最悪だし……」
「大丈夫よ。エンマが金持ちになったら私が奢ってもらうから」
笑いながら会話をする俺達は傍からみたらどう見えていたのだろうか。
シズクが美人な事も相まって、カップルに見えていたかもしれない。
少しだけ周りからの視線が集まり、恥ずかしかったのは内緒だ。
「やっと着いたー!」
柄にもなく、宿を見つけたシズクは全身で喜びを表現していた。
いつもよりも笑顔で、喜んでいるシズクを見ると少しだけ惚れてしまいそうになる。もちろん、美人っていうのも相まってだ。
「んじゃ、とりあえずここにするか」
「え、えぇ。つい取り乱していたわ」
宿屋に入り、一週間分のお金を払い部屋へと入る。
今回ももちろん節約で二人でで一部屋だがさすがにお金を払っているのがシズクということもあって文句すら言えない。
「さてと、荷物置いたし、買い物行こっか!」
「えぇ。買い物行くの? 何買うんだよ……」
正直な所寝たかった俺だが、さすがにシズクを1人で買い物に行かせるっていうのも心配だ。
前に街で襲われかけたっていうのもあるし。
「エデンの塔を攻略するのに回復アイテムは必要でしょ? 今回みたいにHPとかないまま進むのは私嫌よ?」
「そうだなぁ。とりあえず回復アイテムは買いに行くかぁ」
武器などの心配はとりあえずなかった。
そこまで弱い武器ではないし、俺のレベル相応といえるくらいの強さだ。
問題は回復アイテム。俺はMP回復薬はいらないが、HP回復薬は欲しい。それに、状態異常を治すやつも必要だった。
結局のところ、シズクと買い物に行き、HP回復薬とMP回復薬、スタミナ急速回復薬と、万能薬を買って宿屋へと戻った。買った数はなんと合計で50個以上にも及ぶ。
もちろん、回復アイテムだからケチるわけにはいかないが、シズクに全部奢らせてだいぶ金を使わせたのは罪悪感が溜まっていく。
「それじゃ、私は寝るわね。襲ったら怒るわよ? ま、エンマはそんなことしないと思うけど」
「俺も寝るわ。さすがに疲れたしな。それじゃおやすみ」
「おやすみエンマ」
こうして、まだ日が沈んでないにも関わらず、俺とシズクは眠りについた。
明日はエデンの塔攻略だ。
その為にも俺達は疲れを癒すために深く眠っていく。




