25話 昔のヒマワリは何処に?
「なんだよこれ……」
俺には黒炎は当たらなかった。狙って撃ったのか、見事なまでに俺には炎の一つも触れさえしなかったのだ。
オーク達の断末魔が聞こえる。
まるで地獄のような光景だった。
オークジェネラルも体力を半分まで減らし、魔法を撃った者を捜していた。
これはラッキーだったのかもしれない。
俺はオークと戦わずに済んだのだから。
だが、NPCとは言え、人を巻き込んだのが俺は許せなかった。
オークがエフェクトとなって消え、とうとうオークジェネラルも黒炎で息絶えた時、俺は誰が魔法を撃ったのか知る事となる。
「ふふふ。エンマ、貴方の隣に居るのは私」
俺の知っているつい最近会った女の子。
だが、その子もまるで別人のように変わってしまっていた。
「ヒマワリ……お前、一体どうしたんだよ……」
俺の前に現れたのヒマワリだった。
俺のことを付けていたのか、タイミングよく魔法を撃ち、俺を守ったのだ。
そこまでは感謝するし、別に良かった。だが、問題はそこじゃない。
ヒマワリの姿だった。
目は真っ赤に染まっていて、黒いオーラのようなものまで纏っている。状態異常なのか、よく分からないが、今のヒマワリが危険だというのは本能的に分かってしまった。
「ごめんヒマワリ。じゃあな!」
俺は反射的に逃げ出した。だが、それをヒマワリが許すはずもない。
「逃がさないよ。エンマのせいで私はこの魔法を覚えたんだよ? 憎くて憎くて、その時に思い付いたのがこの黒炎魔法なの。だから、これでエンマを逃がさない。他の女ところに行かせない。エンマは一人でいいのよ」
「そんなの知るかよ! 俺はお前に言ったはずだぞ! パーティー組もうって、でも、ギルドで断ったのはヒマワリ。お前の筈だ。だから、俺はシズクとパーティーを組んだ。別に不思議じゃないだろ!」
俺は致命的なミスを犯してしまった。
シズクの名前を口にしてしまったのだ。
今のヒマワリは危ない。シズクと鉢合わせたら殺し合いになる可能性が高いだろう。
「へぇ。シズクねぇ。名前で呼び合う仲までなってたんだ。それなら、シズクちゃんも殺さないとね。邪魔だもん。さ、エンマ。シズクちゃんの所まで案内してね」
ヒマワリは今にも魔法を発動できるように待機しつつ、俺へと迫っていた。
そして、タイミングは最悪だった。
俺の帰りが遅くて気になってしまったのか、少年とシズクが森を歩いているのが目に入ったのだ。
「くっそ。なんで村で待っててくれないんだ……」
俺は小さく呟いた。
だが、その声もヒマワリには届いてしまったようで、ヒマワリは辺りをキョロキョロと見渡している。
「見つけた。ねぇエンマ。アレがシズクちゃんだよね」
「ち、違うぞ。あれは知らない人だ。ヒマワリ、お前に関係ない」
「ふーん。嘘つくんだ。まぁいいや。どうせもう殺す準備は出来てるし」
「ま、待て。取引をしないか? 俺は今から一人で旅に出る。シズクとのパーティーも今すぐ切ろう。だから、シズクの事は諦めてくれ。どうだ? これでもダメか?」
「うーん」
長い沈黙だった。俺は密かにそれで許されると信じていた。
だが、ヒマワリの言葉は予想外なものだった。
「もちろん、ダメ。シズクちゃんには死んでもらわないと。エンマの一番は私なんだからさ。そんなにエンマから大事にしてもらえるシズクちゃんは殺さないとね」
そう言って、ヒマワリは歩いている少年とシズクに対して、魔法を放った。
「黒炎魔法Lv.3【黒蛇】」
黒い蛇が二人めがけて襲い掛かる。
俺は反射的に体が動き、いつの間にかシズク目掛けて撃った魔法に自ら当たりに行っていた。
「ぐっ、ってえ……」
思った以上に痛い魔法だった。
俺のレベルが低ければ普通に死ぬレベルの魔法だっただろう。
「なんで、エンマが。ダメ。エンマ、エンマが傷付いた……」
よく分からないが、ヒマワリは俺が魔法に直撃したことに悲しみを覚えているようだった。
体を震わせ、ブツブツ喋りながら俺から離れていき、次第にどこかへ消えてしまった。
「エンマ!」
シズクと少年が魔法で負傷している俺に気づいて、俺に近寄ってきた。
辺りにはオークを殺した黒炎も、そしてヒマワリも消え、ただ焼けた平地が残っていた。その中心辺りで俺は魔法をくらい倒れていた。
「エンマ。あなたが遅いから、ちょっと様子を見に来たの。でも、どうして、なんであなたがそんな大怪我をしているの?」
シズクはやはり、俺の帰りが遅かったことを心配に思って捜してくれたようだった。
とは言っても、俺が村を襲った人物を倒すと言ってから、ほんの数時間しか経っていない。
それでシズクが心配して捜しに来ているのだから、シズクは実は相当な心配性なんだろう。
「ははっ。ちょっとしくじっただけだよ。だけどな、ちゃんと、村を襲ったやつは倒したぜ」
俺はあえて儀式に使われそうだった女の事は言わなかった。
いや、言えなかった。俺の昔パーティーを組んでいた人がNPCも容赦なく殺したなんて言えるわけがない。
「そっか。エンマ。お疲れ様」
「お兄さん! ありがとうございます! 」
少年も俺に感謝してくれていた。
実際に倒したのはヒマワリだが、シズク達を守った俺が少しくらい感謝されてもいいだろう。
そして、俺は疲れ果てたのか、目を瞑りそのまま意識を失った。




