23話 襲われた村
村に向かって歩いていた俺達。
サジタリウスのお陰なのか、それともこの辺に魔物がいないからなのか、俺達は魔物に襲われずにいた。
「そろそろ村か?」
少年に俺は訊ねた。
HPもあまりなく、スタミナも回復はするが、休息をほとんど取っていない今、歩いているだけでマイナスになってしまう。
シズクは魔法を使えるMPもほとんど残っていないみたいだし、そろそろ村に着かないとマズイかもしれない。
「うん! この茂みを抜ければ……えっ……」
笑顔で茂みを抜けた少年は、目の前の光景に絶句していた。
驚きと困惑、現実を受け入れられないような表情をしながらただ前を見つめている。
「これは、ひどいわね……」
シズクも光景を見て呟く。
村を目指していた俺たち、NPCの少年の生まれ故郷なのか分からないが、その村は、焼け落ちていた。
辺りからは煙が溢れ、少年や俺達がいるところにまで煙が届いている。
家は壊され、何者かと戦ったであろう人は焼かれ死ぬか、剣で貫かれたり、地面に横たわりながらどれも死んでいる。
とても酷い光景だった。少年には見せたくないし、ましてや、俺やシズクですら見るのを避けたいレベルの光景だ。
「落ち着け。もしかしたら、村の人たちは生きているかもしれない。この死体は盗賊たちの可能性だって───」
「それはないよ……あそこの焼けている家の前に倒れている人居るでしょ? あれね、僕のお父さんなの。なんでだろ、悲しいのに涙が出ないんだ。あれ? 僕って人、だよね? ねぇ……」
少年は悲しそうな顔をしていた。そして、それと同時に自分がシステム上のキャラということにも気付き始めそうだった。
確かに、NPCは感情表現というものが出来ないのかもしれない。笑顔はプログラムされていても、涙というものはプログラムされていなかったのだろうか。
それは、俺には分からなかった。
だが、問題はそこではない。少年が自暴自棄にならないようにすることが大事だ。
今、自分を人なのか悩んでいる少年は迷った挙句自殺をしてしまうかもしれない。
「大丈夫よ。あなたは人。それは私が保証するわ。そして、この村を襲ったモンスター、いや、人であろうとこの私が仇を取ってあげる。なんてたって、私は強いからね」
俺の疑問を解消してくれたのはシズクだった。
いつも冷たいシズクが優しい表情で少年を見つめ、語りかけている。
「うん。お姉ちゃん……ありがとう。僕、頑張るよ。涙が出ないのはしょうがないかもしれないけど、悲しいって気持ちは本当だし、今の気持ちは嘘じゃないと思う。だからね、僕はこの村で待つよ。お姉ちゃん達が村の人たちの仇を取ってくれることを」
少年は本当にその年齢なのかと疑わしくなるほど、大人のような対応をした。
もしかしたら、この悲惨な出来事が少年の心を大人にしたのかもしれない。
ならば、俺に出来ることはただ一つ。
例え、NPCだとしても、この世界では生きている。そんな人達を無残にも殺し、村を襲った人を殺さなければいけない。
それが俺に出来る唯一の仕事だった。
「シズク。お前もこの村で待っててくれ。もし、少年一人だとモンスターに襲われた時困るからな。お前が居れば大丈夫だろう。仇は俺に任せておけ」
柄にもなく、正義感を振りまき、頑張ろうしていた。
日本にいた時だと有り得ない出来事だ。俺が他人を救う? 有り得ない。
いつも一人で、自分を優先していた俺はこの世界に来て、変わったのだろうか。ヒマワリのお陰? いや、分からない。
でも、俺はここまで誰かに優しくできるようにはなったのだろう。
「そうね。私が行っても、魔法はあまり使えないし、役に立たないかもしれないわ。あんな大口叩いていたけど、ここはエンマ、あなたに任せることにするわ。少年は任せなさい。あなたなら、きっと仇を取れるわ」
「うん! 僕もお兄さんなら大丈夫だと思う。あの強いモンスターとも一人で戦おうとしてくれたし、お兄さんやっぱり優しいんだね! それに、今も見知らぬ村のために、ありがとうございます。そして、出来るならば、仇を、お願いします」
少年は俺に頭を下げ、頼んできた。
それに俺は応えなければならない。例え、今のHPが半分でも、MPがあまりなくても、俺は人であろうとモンスターであろうと殺さなければいけない。
「それじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
村に入り、少しだけ辺りを探索する。
幸いにも、相手さんはご丁寧に足跡を残してくれているようだった。
村から少し離れた場所。一番よく燃えている家の裏の通路に、大きな人型の足跡が残されていた。
「エンマ。このアイテムを使ってちょうだい」
シズクが俺の後を付いてきて、アイテムを渡してきた。
液体の入った小さい小瓶だ。
「これは一体……」
「HP回復薬よ。私が一つだけ持っていたアイテム。これを使えば、そうね、今のエンマならHPは全回復出来るでしょう。これで、頼んだわよ?」
「任せろ。こんな俺でも、一人の少年くらい笑顔に出来ることを見せてやるよ」
「えぇ。貴方なら、そうね。昔のあなたは無理かもしれないけど、今のあなたならきっと出来るわ」
そう言って、シズクは村に戻り、少年の側へと走ってしまった。
「シズク……もしかして、お前は俺の日本にいた時の事を知っているのか?」
俺の声の届く範囲にシズクはいなかった。
果たして、シズクが知っているのか、知らないのか、俺は少しだけ困惑しながら足跡を辿り、村を襲った人物の元へと急ぐのだった。




