22話 初めての負け
サジタリウスから逃げるのは容易かと思ったが、全然違っていた。
俺達がどんなに離れても、スキルを使って追い詰めようとしてくる。
ジリジリと歩きながら、さみだれ射ちを使い、俺達が別れた時は扇射ちを使う。更には、少年を狙ってるだろう矢まで射ってくるほどだ。
だが、それも全て俺とシズクが防いでいる。いや、主にシズクが防いでいるだろう。
今どれ位シズクにMPが残っているかわからないが、矢が飛んでくる度にシズクはチェインライトニングを使っている。
Lv.7の魔法を連発していればいくらMPの高いシズクでも枯渇してしまうはずだ。
「シズク。MPあとどれ位だ?」
走りながら俺は訊ねる。
「そうね。あとチェインライトニング一発が限界ってとこ」
「お兄さん達! 後ろ!!」
少年の声に反応し、またシズクはチェインライトニングを使う。やはり、俺達の後ろに矢は迫っていたのか、見事に全て撃ち落とされた。
サジタリウスはどれ位連発出来るのだろうか。一向に止まる気配がない。
「シズク。二手に別れるぞ。俺はあいつを引きつける。お前は少年逃げてくれ」
「あなた、死ぬ気?」
「ばか。一つだけ思い出したスキルがあってな。もしかしたら勝てるかもしれねえんだよ」
「ま、少年君のことは任せてちょうだい」
「えっ、えっ、えっ?」
少年は交互に俺とシズクを見て、困惑している。
だが、時間はない。相手は少し俺たちを見失ったのか、今だけは矢が飛んできていない。
今がチャンスだった。
俺はシズクと少年から離れ、サジタリウスの前に出た。
「よお。お前のその堅い鎧、ぶっ壊させてもらうぜ」
俺は自分のスキルの中にある、『剣技』というものを思い出していた。
『剣技』の中には、Lv.2に『兜割り』というスキルがある。
兜割りは相手に与えるダメージは少ないが、防御力ダウンを蓄積させる技だ。
これならば、サジタリウスの堅い鎧も引き剥せれるかもしれないと俺は考えた。
「『急所射ち』」
相手はスキル名しか喋れないのか、俺の言葉には何も返さず、ただスキルを放ってきた。
「そんなの効かねえよ。剣技Lv.2『兜割り』」
真っ直ぐ俺の頭へと飛んでくる矢を避け、俺は走ってサジタリウスに近づく。
とりあえずは上から振り下ろすかのように兜割りを放ち、スキルを直撃させた。
兜割りはやはり有効だったのか、相手の被っていた兜はヒビが入り、もう一度当てれば割れそうになっていた。
「さてと、続けていくぜ」
相手はようやく自分の追い込まれそうな状況を悟ったのか、自分の得意な遠距離を捨て、俺と戦うために矢を片手に持ち、弓を盾のように持ち始めた。
「はっ、そんな遠距離戦の得意な奴が接近戦なんて出来るかよ」
俺は余裕な表情で相手へと近づき、次は鎧目掛けてスキルを放った。
だが、サジタリウスはその動きを完全に読んでいた。
俺の剣を見事に弓で弾き、矢の尖端を俺の肩へと突き刺した。
「くっ……ってぇな」
弓は相当硬度の高いもので出来てるのか、俺の剣を弾いてもなお傷一つなかった。
それにしても、あの弓での防ぎは完全に遠距離を得意としている者とは思えない速さだった。
「ちっ、近距離も出来るタイプかよ……」
幸いにも、相手に近距離のスキルがないことが嬉しいが、それでも俺のスキルを先程のように防がれてたらキリがない。
「やっぱ逃げた方が良さそうだな」
俺はどうやって逃げるか模索した。
自分のステータスを思い出し、習得可能スキルの中に光魔法があることに気づく。
もしかしたら、光魔法には目眩しが出来る魔法があるかもしれない。
俺は急いで光魔法を習得し、魔法内容を確認しようした。
だが、サジタリウスはそれを許してはくれなかった。
俺が近付いてこないことをいいことに、弓を使い矢を放ってきたのだ。
「うっ……くっ……はぁ、はぁ」
スキルの内容を見るために矢を体で受ける。
全身が痛い。体力も残り半分を切ろうとしている。
非常にまずい状況だ。
だが、光魔法Lv.1の内容は見ることが出来た。
光魔法: Lv.1【ライト】Lv.2【???】Lv.3【???】
どうやら、俺の読みは当たったようだ。
光魔法のライトは相手に光を与え、視力を奪い、前を見にくくする魔法だ。
加えて、この森の中、一度当てれば逃げることは可能になるだろう。
「逃げるのは恥だが、今回は仕方ないか……」
カッコよく宣言しといて、逃げるのは相当カッコ悪いが、死ぬのだけは避けたい。
「おっと、また矢が飛んできたか」
今度は急所射ちを放ってきたのか、これは容易に躱すことが出来た。
そして、やはりその隙をつき、相手へと近づく。
相手はまた兜割りを打たれるのかと思っていたらしく、弓を構えたが、俺の狙いはヒビの入った兜へのライトだった。
「光魔法Lv.1【ライト!】」
俺の放った魔法は、相手の眼前を光らせた。
範囲が広いため、少し俺自身にも聞いたが、まだ周りがかろうじて見える俺は逃げることが出来るだろう。
「前が見にくい……シズクはどの辺りに居るんだ」
上手い具合にサジタリウスからは逃げることが出来たが、走ったり、スキルを使ってあまりスタミナがない今、下手に動くことは出来ない。加えて、まだ目の奥がチカチカしているためか目が少し痛いように感じる。
「目は閉じておくか」
目を開くと痛みがある事から、俺は目を閉じ、少しばかりの休息をとることにした。倒れている木へともたれかかり、休む。
数分経ったくらいか、少し離れた位置から足音が聞こえたきた。
俺はすぐさま目を開け、痛みが消えたことを確認し、周りを見る。
なんと、俺の休息していた近くに、シズクと少年が歩いていたのだ。
「あ、お兄さんだ!!」
「えっ?」
少年が俺を見つけ、指を指す。シズクは少し驚いたように俺の方を見て、その後俺の方へと歩き始めた。
「ねぇ、結局倒したの?」
シズクにサジタリウスのことを聞かれたが、俺はやはり勝てずに逃げたということを伝えた。だいぶ走ったから後は付けられていないし、安全だと思う。ということも一緒に伝え、今度は俺がシズクに訊ねる番だった。
「なぁ、お前達はどこに向かってたんだ?」
「あ、それはねー、この先に僕の暮らしてた村があるんだ! だから、お兄さんも後で連れてこうかなって思ったんだけど、まさか、村のすぐ近くに居るなんて思わなかったよ!」
シズクの代わりに少年が興奮気味に答えてくれた。
「ま、大体は少年の言う通りね。私は少年をモンスターから守りながら進んだだけですもの」
少年が勝手に話しているが、どうやらシズクはなけなしのMPで襲ってくるモンスターを倒していたらしい。
時間経過でもMPは回復するが、この余裕そうな様子を見るに、レベルアップをしたか、アイテムを使ってMPを回復したのだろう。
「ま、いいや。丁度よかったな。とりあえず俺も休みたいし、村に連れてってくれ」
「うん!! 僕を助けてくれたから、頑張っておもてなし出来るように頑張るね!!」
「やっぱり子供は可愛いわね」
「お前、ショタ好きなのか?」
「ち、違うわよ馬鹿!!!」
「お兄さんたち、仲良いね。夫婦みたい……」
「「夫婦じゃない!!!」」
こうして、三人で仲良く? 会話しながら俺達は村へと進み始めた。
シズクが何気に子供が好きということもわかり、初めて女子っぽい一面を見ることが出来たのは、少しだけ嬉しかった。
「やっぱり夫婦でも良いかも……」
「シズクなんか言ったか?」
「なんにも言ってないわよ。ほら、さっさと歩く」
「お、おう」
シズクのボソッと言った言葉を俺は知ることは出来ずに、ひとまずサジタリウスから完璧に逃げることが出来た俺達は安心したまま進むことが出来た。




