19話 目指す場所の名称
それなりに歩き、夜もだいぶ更けてきた時に俺達はようやく宿屋を見つけた。
「なぁ、もうここでいいか?」
宿屋の見た目は相当装飾されており、明らかに豪華なのは誰にでもわかるだろう。
「あー。私はいいけど、あんたは大丈夫なの?」
シズクは金の心配をしてくれているのだろうか。確かに、今の俺はあまり金は持っていない。
だが、ここでこの宿屋を諦めたら、次の宿を見つけるのにどのくらいの時間がかかるか分からない。それに加え、もしかしたら野宿という可能性も考えると、選択肢は一つだけだ。
「まぁ……な。今回はしょうがない。それじゃ、入るか」
「金なら私が出すけど、決闘してもらったし」
「いやいいよ。自分の分くらいは自分で出す。さすがに借りを作るのはアレだしな」
「あらそう? ならいいわ」
俺達が豪華な扉を開け、中に入った時案内役のような執事の格好をした人が俺達をエスコートしてくれた。
「なんだこりゃ……」
俺が驚いて後をついて行っているといつの間にか、どの部屋にするのかという話になっていた。
どうやらシズクがさっさと決めているらしい。
「ねぇ、部屋は節約のために一部屋で良いわよね? どうせ、二部屋借りても必要ないし……」
「え、あ、うん。別に俺はいいが……お前はいいのか?」
「私? 私なら余裕よ。どうせ襲われないし、寝てる時に襲われてもあんたなら、ま、いいわ」
「あ、そう。んじゃ、一部屋にするか」
正直あまり話を聞いていないが、まぁお金が節約出来るなら充分だろう。
「では、部屋代と朝夜の食事代。全てを含めて……」
先にお金を払い、ちょうど食事の時間ということもあり、ご飯を食べる事が出来た。
値段も高かったことからか、豪華な食事が出来た俺達は満足したまま部屋へと戻った。
「ねぇ、これから先どうするの?」
シズクが部屋に入って早々俺に聞いてきた。
突然言われて困惑する俺。答えるのに時間が掛かった俺は、ようやく結論を出した途端だった。
「あー、汗かいて体ベタベタだし、私が先にお風呂入るから」
自分から聞いてきたくせに、シズクは俺の答えを聞く前にお風呂へといってしまった。
「なんだよあいつ……」
部屋に置かれているベットに寝転がり、これからどうするかもう一度考える。
ふとそんな時だった。
『塔の4階層突破。5階層の始まりと共にゲームクリア目標の塔の正式な名前を決定。
本日より塔の名前は「エデンの塔」となる。残り95階層となります』
運営からの報告だった。特にこれといって意味はないが、まぁ呼び名があるだけで塔についての話はしやすくなっただろう。
「うーん。俺にクリア出来るかなぁ……」
ベットに寝転んだまま、俺はまたエデンの塔について考えていた。
その間に疲れてしまったのか、どうやら寝てしまったらしい。
カーテンのようなものの隙間から朝日が俺の顔にあたり、俺は目覚めた。
隣に若干の違和感を感じたが、敢えて俺は無視して、昨日は入れなかったシャワーを浴びる事にした。
「はぁぁ……昨日は汗かいたしなぁ……」
朝のシャワーは思いのほか気持ちよく、俺はテンションが高いまま脱衣所から出てしまった。
なんとなく、予想はしていたが、脱衣所から出た部屋には起きているシズクが立っていて、俺を見て唖然としていた。
そりゃそうだ。なんてたって、テンションの高い全裸の男が目の前に来たら誰でも唖然としてしまうだろう。
「あんたねぇ……さすがにもうちょっと格好を考えた方がいいわよ?」
若干呆れながら俺の姿を見て呟くシズク。
俺は一気にテンションが下がり、さっさと服を着替えまた部屋へと出ていった。
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部屋を出て、支度をした後、俺達は朝食を食べて宿屋を出た。
宿を出た時、俺たちを待ち受けていたのは、俺達がまだ知らない噂を信じた人々だった。




