18話 男のプライド
決闘が始まり、より一層野次馬、いや、観客は歓声をあげた。
「てめえなんて瞬殺してやるよ」
「ほざいてな」
俺はこいつの事を正直強そうとは思ってない。甘く見るつもりはないが、なんとなくこいつからは負け犬感が溢れているのだ。
「氷魔法Lv.3 【ブリザード!】」
俺の魔法の中で最もレベルの高い魔法は氷魔法だ。そして、このブリザードはあくまでも目眩し。
俺の魔法が発動した瞬間、相手はびっくりしたのか、動けなかったようだ。その隙に、魔法が場を霧で包む。ブリザードは元々、霧を出す視界を悪くする魔法だ。
「こんな霧が俺に通じる訳ねえだろ!! 風魔法Lv.4【タイフーン!】」
相手は俺の霧を消すために風魔法を発動した。だが、もう遅い。ブリザードの視界に慣れている俺は、街に来るまでの間で入手した新しいスキル。
「こいつで終わりだ。剣技発動。【サウザントスラッシュ!】」
風魔法で霧を吹き飛ばした時、相手の目の前にはスキルを発動した俺が居た。
覚えた時に鑑定して分かったが、サウザントスラッシュは俺の元々持っている剣技スキルとは少し違う固有スキルだ。故にレベルはない。その代わり、発動には莫大なスタミナを使うのだ。
「お前、その技は……」
俺のスキルが直撃し、相手を切り裂いた。そして、相手はその場に倒れ、声は途中で途切れた。
相手の体力は半分まで削られており、俺は無傷。この決闘は俺の勝ちだった。
「エンマ。あなた、やるわね。まさかそのスキルを持っているなんて」
シズクが俺に近付き、意味深な事を言ってきた。そのスキル? 俺のスキルはそこまで珍しいものなのだろうか。
「スキルってサウザントスラッシュのことか?」
唯一珍しいというか、俺がこの前初めて知った固有スキルについて訊ねてみた。
「えぇ。そのスキル、固有スキルでしょ?」
「あ、あぁ。そうだが」
「固有スキルっていうのはね、この世界において一人しか入手出来ないスキルなのよ。まさか、私も持ってる人は初めて見たわ。なにせ、固有スキルはこの世界に10個しかないもの」
どうやら、俺の持っているスキルは相当な珍しさらしい。まぁ、10個の内のひとつだもんな。珍しいに決まっている。
「ま、そんなことはどうでもいいや。それよりも、おいお前、約束は忘れてねえだろうな」
俺はとりあえず今も倒れている相手に約束のことを突きつけた。
「どうでもいいですって!? 私なんてずっと運営が実装してないと思ってたんだから!」
「うるさい。お前はちょっと黙ってろ。男が膝つけて謝るんだ。その姿を見届けてやれ」
「そ、そうね」
シズクは俺の言葉に従い黙った。そして、倒れていた男は起き上がり、約束通り膝をつけようとした。
「お前、負けて悔しいか?」
「あ、はい……」
「そうか。で、お前は周りを巻き込み、シズクを傷つけ、楽しかったか?」
「い、いや。その、どうしても、なんだろう……でも、今はさすがに悪いと思ってます。あんな事言うべきじゃないよなって……」
「分かったか。それじゃあこれからは絶対に言うなよ? 」
「え、はい。あの、土下座は……」
「それは良いよ。男が土下座するなんてな。プライドが許せないだろ? 今回だけは許してやる。ま、シズクが良いって言えばだけどな」
俺はシズクの方に視線を送り、許すか許さないか決めてもらうことにした。言われたのはシズクだ。俺が決めていいことではない。
「私は、そうね。ま、私が足止めするために急に襲ったのは事実だし、全然大丈夫よ。土下座なんて見てて見苦しいもの」
「だってよ。良かったな。それじゃ、この辺りの野次馬を連れてさっさと離れな。今度はいい奴になれよ?」
「はい!! 色々とありがとうございました!! それと、シズクさん! 本当にごめんなさい……!」
そう言って、こいつは改心し、去っていった。野次馬も騒ぎが終わったことに気づき、さっさといなくなってしまった。
残されたのは俺とシズク。
「ほんとに良かったのか?」
「えぇ。あの程度言われ慣れてるわ。それよりも、宿屋に行きましょ。体が汗でベタベタだわ」
「そうだな。そろそろ宿屋見つけないとだな。んじゃ、行くか」
「えぇ」
こうして、決闘は終わり、俺達は歩きだした。
次の日にまたシズクの新たな噂が流れるとは知らずに。




